王都へ(4)
コウはミオと野営地の火の番と見張りをしていた。
時折、火が絶えないように乾いた木の枝を適当な大きさに折って、火の中にくべる。
んで、二人はなぜだか一緒の毛布に包まって、くっつくように座っている。三月も末とは言え、まだまだ荒野は寒い。
「うんと、ミオさん・・・どうして一緒の毛布なんですか?」
「一緒じゃ嫌?」
「そんな事はないですけど、やっぱり年頃の男女がこうやって一緒にくっつくってのは・・・」
「コウはそんなことしないって、知ってますから。」
二人なので、早速呼び捨てになっている。
(うーん、呼び捨て許可は早まったかなあ・・・ヤンデレっぽい気もするし)ミオのコウネリウスに対する拘泥は普通ではないように思われた。
「わかんないよ。僕も男だしさ。」
わざと言うコウに、一瞬ミオは顔を伏せた。なんだかちょっとご機嫌斜めになったようだ。
「そういえばさっき、リオナさんの胸ばっかり見てましたよね?」
「ええええっ!そんな事はないよ・・・まあ男だしチラッとは見たけど・・・」
「男のチラ見は、女にとってはガン見と一緒なんですからね!」
(どこで仕入れたんよ・・・そんな話・・・これも海王国由来?)とコウが思った瞬間、いきなり、ミオにわき腹をつねられた。コウは思わず声を上げた。
「いたっ!」
そばに寝ているニーナとジークがピクンっと体を震わせ反応した。
「しーっ、静かにしないと」
ミオにたしなめられた。(いや、あのですね、つねったのはミオさんなのに・・・)
心の中で思いながら、いい返せないコウであった。
毛布の中で、ミオはコウの腕を抱えるように自分の腕を絡ませる。ミオの片方の胸のふくらみが二の腕の辺りに当たって、コウはこそばゆい感じになった。柔らかいけど弾力のある小ぶりなふくらみだ・・・ミオはうつむいたままである。
そして、なんだかぶつぶつ言っている。
「むー・・・わたしだって・・・まだ十五なんだから・・・これから、だもん」
そんなに気にすることだろうか?コウはちょっと困ってしまったが、なんとか関係修復しないとまずい・・・とりあえず言葉を口にした。
「僕、てごろなのが好きだなあ・・・その・・・ちっぱい好きだよ?」
「!!!」
どかっ。
バキッ。
がつん!
「ちっぱいいうなー!!!」
毛布の下から、ミオの怒りの一撃が炸裂し、あわれコウは毛布から弾き飛ばされ、後頭部を痛打したのであった・・・
(女の子はむずかひい・・・)ほうほうの態でそう思うコウだった。
その後、何とかミオをなだめて、普通に話していたコウだったが、時間が過ぎリオナが起きて交代にきたときに、やはり、胸に目が逝ってしまい、またミオに思い切りわき腹をつままれたのは言うまでもない。
(男なんだから仕方がないんだー)心の中で無理のある言い訳をするコウだった。
翌朝・・・
コウ達が起きた頃、既にリオナたちは出発するところだった。
「お、起きたようだね。お先に失礼するよ。エルビルに泊まるからまた会うかもね。そのときはよろしく。二人とも仲良くね!」
にっこり微笑みながら言うリオナを、(なんか、リオナさんって明るくて魅力的な人だなあ・・・)と思いながらコウは見送った。
コウなりに、ミオを思いやって?胸はあんまり見ないようにしたこともあって、ミオはもう気にしていないようだった。
むしろ去り際にリオナとごにょごにょと楽しそうに会話をしていたくらいだ。女の子つながりは独特なものがある。
コウ達は、パンとソーセージを果実酒の水割りで流し込み、リオナたちに一時間ほど遅れて出発した。もちろん、コウはもやもや草の汁を出発前に飲まされた。コウにしてみれば飲みたくない代物だったが、酔い予防の効果もあるとのミオの言葉があったからだ。おかげで酔わなくなっている。
ニーナはまだ眠いらしく、荷台の上でごろごろしていた。
馬車に揺られ一時間ほどたっただろうか。森を抜けて一面に広がる草原になった。草原の向こうには雪の帽子をかぶった山脈がはるか遠く霞んで見えている。
朝の光のさす中で、草原を吹き抜ける風が気持ちいい。こんな景色、なかなか日本では見られない。
コウはゆっくりと息を吸った。ミオも目を細めて遠くの山々を眺めているようだ。
しかし、進むに連れ草原の中のところどころに黒い荒地があるのが見えてきた。
「あの黒い地面って何なの?」
コウが尋ねるとミオが答えた。
「あれは、昔に流れ出た溶岩ですよ。」
「なるほど・・・言われて見れば確かに。」
「若は前にも見たことあるんですか?」
「うんうん。昔、学生だったころに、学校全体で旅行に行くことがあってさ、鹿児島ってところの桜島って言う火山に行ったんだけど、底で見たことあるなあ。」
確かに黒々とした荒地は、コウが高校生の頃、修学旅行で行った桜島の裾野の黒々とした溶岩のあとと雰囲気が似ている。
「少し先に、溶岩の荒地が広がってるところに出ますから、そこで強化術と魔法の訓練しましょう。びしびし行きますからねw」
ミオが楽しげににやにやと笑っている。
(ミオさん、覚えていたのね・・・・)覚えていないことを少し期待していたコウだったが、ミオ相手にはそうはうまくいかないようだ。
それから半刻後、草原が切れて黒々とした小石混じりの荒地にでた。
ミオはジークに指示を出し、荒地に少し乗り入れた場所で馬車を止めた。
コウとミオは荒地に降り立った。
ジークは馬車からはずし、自由にさせている。ニーナは相変わらずごろごろと荷台に寝転がっている。
「さあ、若、はじめますよ。まずは、強化術からです。」
ミオに、目を閉じるように言われた。
「おなかの下辺りに、何か感じませんか?少し意識してみてください。」
コウは言われたとおりに下腹部に意識を集中した。こうすることで体内の魔素を感じ取れるらしい。
「うーん・・・なんだかわかんないなー。どんな感じのものなの?」
尋ねるコウにミオはやさしく答えた。
「そうですね。ちょっと暖かくて少しの違和感がある感じです。おなかの動きがいいときみたいなゴロゴロする感じでしょうか・・・」
(以前の世界で感じられなかったものだから、違和感を感じればいいのか・・・)
そう考えながらコウは下腹部に意識を集中する。すると、なにやらあたたかい、こぶし二つ分ほどの違和感のあるものが感じられる。確かにおなかがゴロゴロするときの様子と似ている。
「あー、なんか分かる気がする。」
コウがミオに報告するとミオはすかさず言った。
「それをすこしづつ上下に動かしてください。」
「そんなことできるの?」
「できますよ。おなかを締めて押し上げる感じで・・・」
コウは実際におなかの筋肉を締めてみた。だが、動かない。
「実際に締めなくても大丈夫ですよ。あくまで感覚です。自分の体の一部だと思うんです。」
ミオの言に従い、コウは動かそうとする。なかなか動かない・・・。
何度かやってみて、あきらめようとしたところ、その違和感・・・というより異物が胸の辺りまでごろっと転がってきたような感覚を感じた。
「うおっ!う、動いた!」
思わず叫んだコウにミオが言った。
「さすが、若!こんなに早く動かせる人って少ないんですよ。」
「ええええっ。みんなすぐ出来るようになるんじゃなかったの?」
「獣人ならともかく、人間は早くてニ、三日、遅ければ一ヶ月くらいかかるんですよ。」
「おおおお!」
ミオの話だと、コウネリウスは強化術を使えたので体が感覚を覚えているはずだから、一回やれるようになれば比較的自在に扱えるようになるだろうとのことだ。
その言葉のとおり、コウは10分ほどで、指の先から足の先まで魔素の塊を自在に動かせるようになった。
「感覚を忘れないように、今のトレーニングを最低一ヶ月は続けてくださいね。つぎはいよいよ強化です。右手に魔素を移動させてください。」
コウが頷き、魔素を右手に移動させると、棍棒でミオがこつんと右手を軽くたたいた。それでも痛い。
「いたっ」
コウが声を上げるとミオは続けて言った。
「次は右手に集まった魔素をそとに膨らませる感じで・・・」
言われたとおりコウは異物を膨らませるイメージした。ばふっとはじけるような感覚と共に張り詰めた筋肉の表面を何かがぴりぴり走るような感じがする。
ミオは再びこつんと棍棒でコウの右手をたたいた・・・
「痛くない。なんか、体の外に殻ができて、それを叩かれてる感覚?」
「ですです。それを攻撃を受ける場所に瞬時に移動させ強化させるんです。」
「って、それ難しくね?」
「要は慣れです。私がお相手しますから、大丈夫ですよ。」
(いやいや、大丈夫じゃないだろ!)といいたい気持ちをコウが抑えていると、ミオが挑みかかってきた。
「強化術で受け止めてくださいね。若。最初はゆっくりやさしくやりますから。」
ミオがニヤリと笑った。しかし言葉とおり最初はゆっくりから始まった。
五秒おきくらいにミオの棍棒が右手、左手、わき腹、左足といった具合に狙ってこつんと当ててくる。コウもそれに合わせて強化する。
しかし、それが三秒おきくらいになってくると、だいぶ怪しくなってきた。
ミオが中心を支点に棍棒をくるりとまわしながら、さらにスピードアップして打撃を与えてくる。
コウの防御が間に合わない・・・
「いてっ。あうっ。ううっ。ちょ、たんま!」
「まだまだです!リオナさんのに、見とれるような人は許しません!」
「ちょww趣旨が違ってるw」
「ちがいません!」
心なしかミオさん生き生きしていらっしゃる。
(やっぱり根にもってたのね・・・トホホホ・・・)しかし、コウも負けていられない。必死の防御である。コウネリウスも強化術を使えたというが、体が覚えているというのは強い。
だいぶ様になってきた。
だが、あれだけ棍棒をくるくると自在に扱っているにもかかわらずミオは息一つ切らしていない。対照的に、コウはハァハァゼエぜエと息を切らしている。
こればかりは仕方がない。
だいぶ様になってきたところで、ミオが終了を告げてきた。
「このくらい防御できれば普通の人やゴブリンクラスの魔物でも十分に防御できますね。あとは体力だけですが、こればかりは時間をかけないと。これくらいにしておきましょう。」
「もしもし?なんか私怨まじってませんでした?」
「キノセイです。気合入れてやれば、上達も早いはずです!」
どんな風に気合をいれていたのか、かなり疑問なコウであった。
練習もひと段落したため、コウたちは食事にした。また、パンにソーセージと果実酒の水割りである。
「おいしいって言えばおいしいけど、チーズとかバターとかないの?」
尋ねるコウにミオが答えた。
「短期間だから、買ってこなかったんですけど、確かに同じメニューだとあきますね。」
「エルビルの町を出るときに買っとこうよ。だいぶましになるはずだから。」
「にーな、ちーずがたべたいー!」
ニーナはすっかり目が覚めたようだ。コウ達が練習をしている間、ジークは餌を探して食べて満腹になったのか、足をたたんでニーナの横に座っている。
「午後は魔法の練習ですね。」
そういうミオにコウが祈るように手を合わせてお願いした。
「午前中みたいに痛いのはちょっとカンベン・・・」
「魔法打つだけですから、痛いのはないですよ~」
微笑みながらミオが答える。さっきの訓練で少しは気が済んだらしい。
おなかが膨らんだところで少し休んだ後、コウ達は魔法の訓練を始める事にした。
しかし、そこで予想外のことが判明する事になる。