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王都へ(2)

切り払われた街道の両側に広がる草原の向こうには森が広がっている。

馬車はごとごとと森の中の街道を進んでいく。


「・・・ううっぷ」


コウは口を押さえ、あまりの気持ち悪さにさっきから嘔吐を繰り返している。ごどごどと振動がおなかの底から伝わってくる。

先ほどから吐き続けているため、さすがにもう何もでなくなった。気持ち悪さだけが嘔吐感を突き上げてくる。それに腰やお尻が痛い。


「若、だらしないですよ・・・」

「おにいいたん・・・よわすぎ!」

「グォーグオ~ォw」


(ジークに間で笑われているよ・・・)苦しさと悔しさで涙目になるコウだった。

ミオもニーナもちょっとあきれている。


ロレーヌの町を出てから三時間ほどだが、順調すぎるほど順調に進んでいる。昼過ぎにはエルビルとの調度真ん中にある野営地に到着しそうだ。

逆にそんな馬力のあるジークフリードの速度がコウを苦しめていた。

王都ロレーヌ間の街道は、王国でも整えられているほうだとは言え、小石混じりの土の道である。

交通量が多いため轍がくっきりとついており、轍を踏むように進んでいるのだが、ところどころ凹みや石があり、サスペンションのない馬車がほとんどであるカルダリアにおいては、馬車の旅は快適とは程遠いのだ。

もちろん、コウ達の乗っている馬車もサスペンションなどついていない。


「はい。若これどうぞ。」


ミオが差し出したのは昨日購入したクッションである。ミオは荷台に移っていたニーナにひとつ渡しミオ自身もお尻にあてがい、二つをコウに渡した。昨日四つ購入したのはコウの為だったのだ。


「ありがとう。助かるよ。昨日余計に買ったのはこのため?」

「ええ、多分こうなるかなってw」


(さすがミオ様。わかっていらっしゃる・・・)もう、きつすぎるコウには素直に受け取ることしか出来なかった。だが、腰やお尻の痛みはかなり軽減されたが、それでもなかなか嘔吐はおさまらなかった。


「しょうがないわねえ。適当なところで休憩しましょう。」


ミオが切り出した。ジークの速度は速いので行程に余裕はある。多少休んでも大丈夫だろうとの判断もあったのだろう。

街道の途中には荷物を直すためだだろうか、一定間隔ごとに道の横に出っ張るような形で馬車が1台程度は乗り入れられる平坦地が設けられている。

しばらく行くとそんな平坦地の一つに到着した。 


「うえええっ」


到着するや否や、コウは馬車を飛び降り、平坦地の横にある草むらの上に倒れこんだ。ニーナはさすがに心配そうにみている。ジークを馬車からはずしたミオが申し訳なさそうに言った。


「酔い止め薬もってくればよかったですね。こんなにひどいなんて・・・」


コウは特に船とか自動車では今まであまり酔ったことがない。それだけ馬車のゆれが酷いのだろうが、それにしても酔いすぎである。


「向こうの世界では乗り物とか、あんまり酔うような体質じゃなかったんだけどね。」

言い訳がましくコウが言うと、ミオは少し考え込み言った。


「もしかしたら、まだ、こっちの体になじんでないのかも・・・向こうでは体はどんな感じでした?」

「剣道・・・こっちで言うと剣術かな。小学校四年生・・・9歳からずっとやってて、27まで、18年間か、素振りとか毎日やってたから、結構体できてるほうだったかも。」

「だとすると、コウネリウス様はもう3年間剣術の訓練も何もやってなかったし・・・だとするとここは強制的に・・・」


ミオがにんまりと笑っている。嫌な予感がしたコウはとりあえず、聞き返してみた。


「強制的に・・・何をするんでしょうか?」

「うふふ・・・いじめて・・・鍛えて差し上げます。きっと体がついてくるようになれば違和感がなくなるはずです!」

「もしもし?ミオさん。今、いじめてって言いませんでした?」

「キノセイです!」


(いや、はっきり言ったし・・・)恐れおののくコウであった。


たしかに、コウは体がうまく動かないせいで体の節々は痛い気がしていた。トレーニングを長い間さぼって、急に再開したときの状況に似ている。あわせるとしたらミオの言ったのとは逆に発展途上の体を急激に鍛えるのではなく、この体の感覚を身に着ける事になるだろう。


しかし、馬車酔いはなかなか直らない。


ニーナは草むらのあたりでジークとなにやらごそごそしている。ジークの餌になる植物でも見つけたのだろうか。しばらくしてニーナが戻ってきた。手にはなにやら草が握られている。


「ミオねーちゃん、これ!」

「もやもや草!」

「うん!じーくがみつけてくれたんだよ」

「グォ!」


ジークも誇らしげだ。ミオは馬車へと戻り、小さなすり粉木とすり鉢、水の入ったコップを手に持ってきた。そしてニーナから受け取った草を少量の水を混ぜすりつぶし始めた。


「その、もやもや草って・・・まさか・・・」

またもや嫌な予感のするコウにミオがにんまりと答えた。

「酔い止め薬の原料なんです。こうやってすりつぶして飲んでもいけるんですよ。」

なにやらすり鉢から、なんともいえない鼻腔が刺激される匂いがでている。

「逝けるの間違いじゃあ・・・」

「ふふふっ。」


(え、ふふふって何?)身の危険を感じるコウであった。


既に、すり鉢の中の液体はコップに移された。おもむろにミオの手が伸ばされコウを引き倒した。もちろん、頭はもちろんミオの太ももの上である。


「えと、ミオさん、こんなかっこじゃなくても・・・」

「だ・め・で・す。」


ミオさん、上機嫌である。そして、コウの鼻がミオの細い指でつままれた。コウは必死に抵抗した。刺激臭のある怪しげな液体が側まで迫っている・・・しかし、一瞬息を吸うために開かれたコウの口にすかさずそれは流し込まれた・・・・


「うええええっ」


えもいわれぬ匂いと味がコウの口腔を満たす。無常にもコウの口はミオの手によってふさがれた。


ごっくん・・・


怪しい液体を飲み込んだコウは、起き上がろうとした。しかしミオによってそれは押さえつけられた。


「少し横になっててください。すぐ効きますから。」

「おにいたん、あかちゃんみたい~」

「グォグウーォw」


(ジーク、笑ってるよ・・・もうなんとでも言って下さい・・・)なにげに投げやりなコウである。


ミオの手がいとおしそうに髪の毛を撫でる。ミオのしっぽがせわしなくパタパタと、耳がぴこぴこと動いている。ご機嫌なようだ。

コウの鼻腔に残っていた嫌なにおいは消え、汗の混じった甘酸っぱい、いい匂いがする。ミオの匂いだ。思わず、コウは不覚にもくんかくんかしてしまった。ミオは気がついているのかいないのか、頭をなで続けている。

(僕にとっては5日でもミオさんにとっては15年まるごとだもんなー。このままにさせておくか。)いつの間にか深みにはまっていく事に気がつかないコウであった。


20分もたつと、だいぶ気持ち悪さが収まってきた。効き目抜群らしい。予備にもやもや草をニーナがいくらか、摘んできてくれた。また、コウが気持ち悪くなっても大丈夫だろう。

そして、お昼ご飯を軽く取る事になった。パンをナイフで切り分け、ソーセージをかじりながら果実酒の水割りで流し込む。味気のない食事だが、さっきまで苦しんでいたコウにとっては、おいしかった。ジークにも食料を多めに買ってきていたからソーセージをいくらか食べさせると、おいしそうにもごもご食べている。


それから、小一時間ほどのんびりして、コウ達は出発した。もやもや草の威力はすさまじく、コウはそれから酔うことも無くなった。

ミオは上機嫌で、鼻歌まじりにしっぽを振っている。



宿泊先である野営地に向かうまでの間、コウはミオから魔法についてのレクチャーを受けることになった。

コウも魔法の存在は薄々感じており、やはり、といった感じではあったが。

魔物や魔獣、それに盗賊など、町を一歩出ればすぐ危険が待ち構えている。魔法はこの世界を支える必須のものなのだそうだ。


「僕にも魔力があるのかなあ?」

「コウネリウス様は、魔力を持っていましたから、問題ないと思いますよ。」

「ああ、そういえば、この体は僕の体じゃなかったね・・・」


ミオの説明は続いた。


カルダリアの魔法は大きく分けて二つである。強化術と魔術である。

強化術とは魔力を使って体を強化する術のことである。全体の筋肉の強化だけでなく、一点に集中して使うことも可能なのだそうだ。

獣人などは、自然にこれを使いこなせるらしい。ニーナくらいの子供でも使っていて、鉄球をぶるんぶるんと振り回せるのは、意識せずに使っているせいらしい。

人間は少々コツが必要である程度意識しないと使えないとのことだ。人間は獣人と比べて体力や筋力で劣るが、使いこなすと獣人なみの身体強化が出来る。

兵士になる人間には必須の技術なのだという。


「どんな感じで強化するの?」

「そうですねー・・・説明が難しいですが、まずは体の中にある魔素を感じてそれを移動させる感じですかねえ。」

(気功のようなものなんかなあ。まあ、やってみないとわからないか・・・)コウは続けて話を聞く事にした。



魔術は大きく分けて三つ。

生活魔術と戦闘魔術、そして術式魔法である。

強化術が体内での魔力の移動なのに比べて、魔術は魔力を外的な現象に変換するため、「法具」が必要になる。

そのうち、生活魔法は火をつけたり水を動かしたり、要は炊事洗濯、掃除などに使われる魔法である。

そして、戦闘魔法は魔力を火の玉や氷の刃、かまいたちなどの風に変換して飛ばすことで、対象を攻撃したり、火の壁や水の壁、土の壁などを使って防御を行う魔法のことである。

術式魔法は特別な過程が必要な魔法であらかじめ法具に何らかの術式を記述し発動させる魔法となる。


「強化術や生活魔術は、カルダリアにすむ人なら、誰でも使えます。でも、戦闘魔術くらい使える魔力を体に蓄積できる人は少ないですね。そんな人は大体が魔術師になって軍に入るんですよ。」

「じゃあ、一人の魔術師が居れば戦争に勝てるとかそんな感じ?」

「それはありえないですね。せいぜい一人の力が、攻城兵器一台くらいなものですし。魔力にも限界がありますから。なん十発も打てるものではないですよ。まあ、十分脅威ではあるんですが。」

「コウネリウスさんも魔術は使えたの?」

「確か、強化術と生活魔術くらいは使えたと思います。魔術師クラスの魔力量だったら、軍に入ってたと思いますし。明日にでも適当な場所を見つけて、試してみましょう。」



もう、日もだいぶ落ちかけてきた。先を見やると街道の両側が開けた場所が見えてくる。


「あれが野営地ですよ。」


ミオの言葉に、コウは目を凝らして前方を見る。既に、野営地には何組かの商隊がおり、夕食の準備だろうか、あちこちから煙が立っている。結構広く、キャンプ場といった風情だ。


コウ達は野営地へと向かって進んでいった。


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