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王都へ(1)

翌朝・・・


コウが筋トレを行っている横で、ミオが大きな葛篭(つづら)に昨日購入した品物を詰めていた。昨日は6000クローネ近くも使ってしまった。60万円相当だ。かなりかかったなあ・・・節約しなきゃ・・・と思いながらニーナの方をみると元気に鉄球を両手に抱えてはしゃいでいる。

(風船とかじゃないところがなんとも・・・シュールだわ)コウは横目で見ながらぼやいた。


三人とも、チュニックとズボンに既に着替えている。


荷物は葛篭二つ分くらいになった。ミオはそれに取っ手つきの荷締めバンドをくくりつけた。手馴れたものだ。


「若、パンを買ってきますね。」


そう言い残してミオが出て行った後、筋トレを終えたコウはニーナに聞いてみた。


「海とかに長い間、入らなくても大丈夫なの?」

「んー。へいきー」

「でも、王都に着くまで四日かかるよ。」

「へへっ。だいじょうぶだよー。」


ニーナは片腕を水平に突き出し親指を立てて、グーサインを出している。

(ルタラ族ってラッコだよなあ・・・大丈夫なんかなあ)


半刻くらいで脇にパンを抱えてミオは帰ってきた。

その後、執事さんが運んできてくれた軽い朝食を摂り、コウは一人でロランに会いに執務室に向かった。



「もう少し滞在するかとと思ったんだが・・・じっくり話す機会がなかったな。これが添え状だ。」


執務室に着くとロランは蝋封した文書筒をコウに差し出した。少し残念そうだ。現在の状況下では仕方がないことだ。 


「また、きっと戻ってきます。そのときにでも。」

「そうだな。大変だったろうが、君にとってはこれからの方が大変かもしれんな・・・気を付けて行って来なさい。」


 コウは出発のために厩舎へ向かった。厩舎には既にミオとニーナが居り、荷台に荷物を積み込み終えていた。防具も既に身につけている。コウもミオに手伝ってもらいながら防具を身に着け、剣も腰に帯びた。

 ニーナはというと、とことこ、と荷馬車につないであるダーチョのところへ駆け寄っていった。

コウもそれを見ていたが、つながれているはずのダーチョがかなり違っている事に気がついた。


 コウが昨日の買い物で街中を歩いていたときに見かけていてたダーチョとは違うのだ。体が一回り近くデカい、首も足も太い・・・何気に凶暴な雰囲気もあり、まるで今まで見たダーチョとは異なる種のようだ。

(なんかごついなあ・・・ちょっと怖いかも・・・)

そんなコウを見ていた執事さんが説明してくれた。


「あれはグレートダーチョなんですよ。」


普通のダーチョは動物である。しかしながら、グレートダーチョは魔素を体に取り入れた魔獣なのだという。いわば魔獣版ダーチョである。通常のダーチョより知能が高く、人の8歳程度の知能があるらしい。手なずけるが難しく、このダーチョもかなり手間隙かけて躾けたとのことだ。


「普通のダーチョの数倍近い力があるんですよ。」


執事さん、得意満面である。普通のダーチョでも馬の二倍から三倍の力があるらしいから、このダーチョはとんでもない力がある事になる。裕福な貴族でもなかなか手に入れられないと言う。ロランの手元にもこの一羽しかいないとのことだ。


「ロラン様も、コウネリウス様には期待しているのですよ。」


(買いかぶられすぎかな・・・)コウは一昨日のロランとの話を思い出し、ちょっと気恥ずかしくなった。


ニーナはというと、なにやらグレートダーチョにぼそぼそと話しかけている。ミオはそれを不思議そうに見ている。


「グォ ググォー グォグーォ」


グレートダーチョのほうもニーナの目線まで首を下げニーナに何か喋っているように見える・・・

まさかねぇ・・・話してるわけないだろうとコウは思っていたが、ニーナがコウの方を向いて話しかけた。


「あのね、おーとまでのみちは、まかせろ!っていってるよ?」

「誰がいってるん?」


コウが尋ねるとすぐにニーナは答えた。


「じーく!」


ミオが驚いたようにニーナを見ている。


「えと、執事さん?」


コウが聞き返すとニーナは首を横に振った。


「このこだよ!」


グレートダーチョが首を縦に振っている。


「若、もしかしたらニーナちゃんは魔獣使い(ビーストテイマー)の素質があるのかもしれません!」


ミオが興奮気味に話し始めた。

魔獣使い(ビーストテイマー)は獣人族の中にまれに生まれる才能で、動物や魔獣と心を通わせることができる能力を持っている存在とのことだ。それゆえに、ダーチョを育て販売する大きな商会には必須とされるが、数が少なく貴重な存在らしい。もちろん、動物や魔獣を手なづけられるかは別の問題であり、支配する能力があるわけではないが、ある一定以上の知能をもつ動物や魔獣であればコミニュケーションが可能であるとのことだ。


「ほほう、そこのお嬢ちゃんはビーストテイマーですか。コウネリウス様も良い奴隷をもちましたな。」


執事さんも感心したように言っている。ロランの領内にも魔獣使い(ビーストテイマー)は居ないらしい。


「うんとね、そのこ、じーくふりーどっていうんだよ!」

「グォ~ォ!」


ジークフリードも答えるように声を出している。


「うんとねー おにいたんにあいさつがしたいって」


ダーチョなのに立派な名前だ・・・おっかなびっくりコウがジークフリードに近づいていく・・・

そしてジークの前に立つコウ・・・ジークの口が大きく開かれた・・・


かぽっ


コウの頭がジークに咥えられてしまった!コウが固まっているとニーナがうれしそうに言った。


「そうやるのが ごしゅじんさまへの しんあいのあかしなんだって! 」


コウと共にジークに近づき横に立っていたミオがくすくす笑いながらコウを見ている。

コウはバツが悪くなってしまった。コウの頭を放したジークの口が再び大きく開かれた。


かぽっ


ミオの頭がジークに咥えられてしまった!ミオのしっぽがまっすぐに伸び、体をふるふる震わせている。


「ぷぷっ」


コウが噴出すと、ジークから開放されたミオがコウを睨んでいる。

おもむろに片足が挙げられ・・・ミオの怒りの一撃(ローキック)が炸裂した。


「いたっ!」


(ミオさん・・・だんだん凶暴に・・・)涙目になるコウだった。



厩舎を出たコウ達三人と一羽は、行き交う馬車や人の群れの中を東門に向かった。

東門にはチェーンメールにサーコートの警邏用の棍棒を持ったジルベールとワンピース姿のノルンさんが見送りに着ていた。


「コウネリウス様、昨日はどうもありがとうございました。おかげで吹っ切れました。」


にこやかに笑いながら話しかけるジルベールの横にはノルンが佇んでいる。道行く人たちはそれをもの珍しげに見ている。


「いえいえ、それよりも見送りありがとうございます。」

「コウネリウス様、お願いがあるのですが、この手紙を王国軍に居たときの部下に届けて欲しいのです。長いこと連絡を取っていないものですから・・・今は軍を退役して王都で暮らしています。コウネリウス様のお役にもたてる奴かと思いますし・・・」


ジルベールもコウのことを気にかけていたらしい。コウにとっても何も分からないこの世界で知り合いは多いに越したことはない。封筒入りの手紙を受け取ったコウは、ジルベールから王都の酒場、「溺れる家鴨亭」に行けば連絡が取れると説明を受けた。ジルベールが信頼を置く知り合いの一人らしい。


ミオはなにやらノルンとにこやかに囁きあっている。

(なんだかこわひ・・・)そんな思いを敢えて無視するコウだった。



コウ達はジルベールとノルン、そして執事さんに見送られてロレーヌの東門を出て行く。

コウとミオは御者台に座り、ニーナはジークの背中に乗りごにょごにょと楽しそうにおしゃべりをしている。


門を出ると道の周りはのどかな田園風景が広がっている。ミオも景色に見入っている。ロレーヌの町の穀倉地帯にあたるのだろう。延々と遠くまで畑が広がっている。

時折、向かう先からやってくる数台の馬車とすれ違い、挨拶を交わす。


カルダリアに着いてから五日目。(何にも考える暇も無くここまで来ちゃったなあ・・・)6畳1kのアパートを遠く昔のように感じながら、コウは馬車に揺られながら、周りの景色をぼーっと眺めるていた。


田園風景が途切れ前方には森が広がっているのが見える。いよいよロレーヌを後にすることになる。後ろを振り返るとロレーヌの町は既に遠く小さく見えている。

道の両脇はそれぞれ30メートルくらい木が払われ野原となっており、その先には森が見える。魔獣や魔物などのモンスター、野盗などからの襲撃を発見しやすくするために人為的に両脇の木々が払われているのだ。


さあ、いよいよ王都へ向けて出発だ。王都にいけば、とりあえず何をすべきかわかるだろう・・・そう、心の中で期待するコウだった。


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