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ロレーヌの町(4)

 離れに戻ったコウ達は部屋に荷物を置くと、早速、馬車の用意をお願いできないかロランに言ってもらうよう執事さんに頼んだ。

すると、ロランに取り次ぐまでもなく、「それでしたら、私の方で準備しましょう。ロラン様に可能な限り便宜を図るよう言われていますから。」と即答された。


 コウ達三人は執事さんに厩舎まで案内された。厩舎につくと通路の両側に小屋が並び、中には何頭ものダーチョがつながれている。その通路を抜けたところに馬車置き場があり、さまざまな馬車が並んでいた。屋根つきのものや、豪華な座席つきのもの、大小が所狭しと置いてあった。


「うーん、どれがいいのかなあ・・・」

 コウが屋根つきの豪華な馬車を見ながら悩んでいるとミオが言った。

「あんまり、華奢なのは・・・町乗り用ですので・・・」


 王都までの道は比較的開けているとは言え、やはり道路状況はそれなりでしかないらしい。整備された都市の中を走る馬車では持たないだろうとのことだ。

 王都までは四日程かかり一日目が野宿となる。二日目はエルビルという街道沿いの湖に面した町があるためそこに泊まり、三日目が野宿で四日目の昼くらいには王都につくとのことだ。野宿は二泊となる。結局、馬車はミオが選ぶことになり、荷台の側板、アオリと呼ばれる部分の高い小さな荷馬車になった。雨天でも防水処理されたキャンバス布を張れば寝泊りが出来るとのことだ。

キャンバス布や毛布などの寝具、水樽や水桶といったものは執事さんの方で用意してくれるとのことだった。



 厩舎を後にしたコウ達は町に戻り、残っている買い物を済ませる前に、軽く昼食をとることにした。

なんでも、ミオがお勧めのお店があるらしい。


 ミオに案内されながら街中を歩いていると、見覚えのある男の人が歩いているのが見える。近づくにつれ、顔がはっきりしてきた。衛兵隊長のジルベールである。コウはジルベールに声を掛けた。


「えーと、ジルベールさんですよね?」

「あ、えっとコウネリウス様、きょうはお買い物ですか?」

なんだか、バツが悪そうだ。ちょっとキョどっている


「ええ、そうなんですよ。旅の支度で・・・」

ジルベールの方をみていたコウは、ジルベールの後ろに太い黄色と白の毛並みのしっぽのようなものが見え隠れしているのを見つけた。

(狐のしっぽ??)コウが不思議に思いそれを見ていると、ニーナが言った。


「うしろにだれか、かくれてるよー。」


黒いフードをかぶった女の人がジルベールの背中からうつむき加減に顔をのぞかせた。


「えっと、そちらの方は?」

「私の友人なんです。こちらはコウネリウス・エルスター様です。ほら、ご挨拶を。」


背中から出てきてジルベールの隣に立った女の人は少し顔をあげ、恥ずかしそうに言った。

「えっと、ノルンです。」

「ジルベールさんのお知り合いですか?」

「ええ、まあ・・・」


何か訳ありのようだ。


「お昼一緒にいかがですか?いいお店知ってるんですよ。」

ミオが察したように申し出ると、ジルベールとノルンは少し顔を見合わせていたが、ミオが獣人ということもあったのだろう、頷いて同意した。


 しばらく歩いたところにミオお勧めのお店があった。月と猫の絵と「月夜の黒猫亭」と書かれた看板が掛けてあった。お昼ということもあり、そんなに広くはない店だが客の入りは少なくはない。獣人と人間の割合は半々くらいだろうか。獣人族を受け入れる飲食店が少ないこともあるのだろう。結構繁盛しているようだ。(ミオさんの選んだ店だけあるなー)そう思っているとミオが奥に向かって声を掛けた。


「おじゃましまーす。」

「いらっしゃいませー。おや、ミオ、そちらはコウネリウス様かい?」


 中から出てきたのは30歳をちょっと超えたくらいだろうか、黒い耳に黒いしっぽのお店の女将と思われる女の獣人だった。【黒の一族】の関係者だろう。どこかミオと似ているような雰囲気だ。


「知り合い?」

「ミーコ叔母さんw今はお義母さんかな?」


 ミーコさんはミオのお母さんの妹さんで、ミオのお母さんが亡くなって悲嘆に暮れるミオのお父さんを慰めているうちに出来ちゃったらしい。ミオとしても見知らない誰かと父親が結婚するより大歓迎なことだったそうだ。昔からの親しくしていたこともあり今でも仲良しなのだとか。


「コウネリウス様、ずいぶん雰囲気が変わったねぇー。」


ミオはニコニコしながらミーコと視線を合わせながら無言で頷きあっている。


「そっちはジルベール様かい?」

「お初にお目にかかります。」


なぜ、自分のことを知っているのかと驚いたようにジルベールが答えるとミーコが話を続けた。


「異例の出世を遂げた平民の星だもの。知らないわけがないよ。」


 ジルベールはかつて王国軍に所属し歩兵からの叩き上げの兵士であったが、その実直な性格と身体能力の高さから十人長から百人長、そして千人長まで出世し騎爵位まで得ており、平民としては異例の出世を遂げていた。10年ほど王国軍で勤めたあと、生まれ故郷であるロレーヌに戻ってきたところを、ロランにスカウトされ今では衛兵隊長を勤めている。ジルベール本人が思っているよりもずっと有名なのだ。


「で、注文は、お勧めでいいかい?そちらのお嬢ちゃんは、お子様ランチでいいかい?」


注文はミーコにお任せした。


「ヘイ、お待ち!」


 しばらくすると、だんっとコウの前に皿がおかれた。出されたのはサンドイッチとソーセージの盛り合わせの大皿だった。飲み物は果汁だ。


「おい小僧、うちのミオに手え出してんじゃねえぞ!」


 料理を運んできたのはお店の主人、ミオのお父さんのゲンジだ。ゲンジもミーコも手には準市民紋が刻印されており、準市民としてお店を営業している。コウが後からミオに聞いた話によると、「月夜の黒猫亭」は【黒の一族】の情報拠点のひとつなのだそうだ。


「いえ、手なんて出せませんってwいてっ!」


コウが否定すると、テーブルの下でミオにおもいっきり太ももをつねられた。

(どない言えばいいねん!)心の中で叫ぶコウであった。


 お子様ランチを前に、ニーナはご機嫌である。ライスが出てくるのかと思ったら、サンドイッチとスープのセットだった。もちろんサンドイッチの上に旗が立ててある。


「えへへっ」


旗を片手ににぎり、おいしそうにニーナはサンドイッチにぱくついている。


「フフフ」


 それを見たノルンは今までの緊張が解けたように笑みを浮かべている。店内に比較的多くの獣人族がいるのもあるのだろう。


「大変失礼ですが、コウネリウス様にはあまり良くない噂が多いのですが、様子を見ていると全然違うんですね。」

「それに私達獣人に対しても普通に接していますし・・・」


ジルベールとノルンにいわれ、コウはちょっと照れくさそうに答えた。

「えっと、自然にそうなってるんです。」

「貴族様なのに・・・なかなかいないですよ。」


 うつむきながら少し悲しそうにノルンが返した。ノルンは既にフードを取っており立派な黄色の耳をしているのが見えるが、その耳が伏せられている。

今までの中のやり取りで二人が親密な関係にあるのは間違いないように思われたが、コウは思い切って聞いてみた。


「ジルベールさんとノルンさんはどういった関係なんですか?」


 ジルベールとノルンはしばらく顔を見合わせていた。意を決したようにジルベルーが話し始めた。

「実は・・・」


 ジルベールはロレーヌの町の下町に当たる地域で生まれたこともあり、周りにも準市民である獣人族が少なくなかったため、比較的獣人族に対し偏見のようなものは持っていなかったという。

 そんなジルベールが王都に赴き軍に入り10人隊長を拝命したとき、副官としてついたのが奴隷兵士であった狐人族のノルンの父親であった。軍としても兵役が終わる直前であり、準市民の地位が待っているノルンの父親を、指揮系統に組み込んでも大丈夫だと判断したのだろう。ジルベールはその後、兵士としての先輩であるノルンの父親からいろいろなことを教わり、また、妙にウマが合ったこともあり、公私ともに親しくなっていく。

 ノルンの父親が兵役を終え、準市民となって後も二人の関係は続いた。むしろ、一人暮らしのジルベールを家に呼んで、夕食をご馳走したりと家族ぐるみの付き合いになっていったが、そんな中で、ジルベールとノルンはお互いに惹かれあいだんだんと親しくなり、ついには男女の関係になってしまったという。ノルンの家族は二人が親密になることは大歓迎であったが、逆にジルベールが周りから責められないかと心配いていたそうだ。

 しばらくして、その心配は現実のものとなってしまう。ジルベールは千人長まで出世をし騎爵位まで得ていたが、上官である将軍から自重するよう厳重に注意を受けてしまったのだ。思い悩んだ末にジルベールはノルンを選び、軍を退職してしまう。それから、ロレーヌに戻り衛兵隊長となり安定した地位を得たため、ノルンをロレーヌに呼んだのだという。


ミオが瞳を潤ませながら言った。

「素敵ですぅ。がんばって下さい!」

「あなたもね。」

「はいっ!」

 

 ノルンとミオが意気投合している。(ミオは何をがんばるんだろうか・・・聴かないで置こう)コウは敢えて流すのだった。いつの間にか横で聞いていたミーコとゲンジも、うんうんと頷きながら涙を浮かべている。


 しかし、問題が解決したわけではない。ジルベールの家族も否定的ではないものの、諸手を挙げて歓迎すると言うわけにも行かず、また、周りに知れてどうにかなるのでは、とジルベールとノルンも不安で仕方がないのだそうだ。


「とはいえ、周りの目はなんともしがたく。」

「二人でこれからどうしよう、って話にいつもなるんですよ。」


そういう二人にコウは言った。


「んー・・・既成事実を作っちゃえば・・・」

「子供つくるとかですか!?」

「いえ・・・そういう意味だけじゃなくて、もう周りが認めざるを得ないような状況をつくるんですよ。逆に堂々と公表して、いちゃいちゃして、ジルベールさんは獣人族好きの病気なんだ、位に思われたほうがいいのかも。何にも分かってない僕が言うのもおこがましいですが・・・」

「いちゃいちゃって・・・若!いくらなんでもそれは・・・」


嗜めるミオをさえぎるようにジルベールが言う。


「いや、いいんです。ミオさん。なるほど・・・病気だと思われるくらいになれば・・・いや、ためになります。」


妙に納得したジルベールは少し落ち着いたようだ。

だいぶ話に夢中になってしまったので長居してしまった。コウ達は店を出ることにした。


今日はミーコのおごりだそうだ。


「なんか、私たちまですみません。」

というジルベールに、ミーコは笑いながら言った。

「いいんだよお。いい話聞かせてもらったしね。これから贔屓にしてもらえればいいさ。」

「また、寄らせてもらいます。」

「いつでもいらっしゃい。」


出る間際にミーコが寄ってきてコウの耳元で囁いた。


「コウ様、ミオのことをお願いしますね。泣かすような事したら・・・わかってますよね。」

にこやかに囁くミーコだが、目は笑っていなかった。外堀が徐々に埋められていく感覚を覚えながら、コウはコクコクと頷くしかないのであった。


 そのあと「ぺっぺ」とゲンジがつばを吐く声が聞こえたが、コウは聞かなかったことにして店を出るのであった。


 「月夜の黒猫亭」をでたあと、コウ達はジルベールとノルンの二人と別れ、買い物を続ける事にした。


 まずは、食品である。王都の途中にあるエルビルの町までは一泊であるが、念のため二日分の食料を買うことにした。購入したのは干し肉とソーセージ、あとは塩と香草、2リットルほど果実酒を購入し小さな樽に詰めてもらった。水分としては少々少ない気もするが、水で割って飲むことになるためこの量にしたのだ。コウは昼間から酒が飲めることがちょっと嬉しくなった。パンは明日の朝、出来立てを購入することにした。その後は雑貨屋さんに戻り、鉄製の鍋と木製の深皿とコップを三つづつ購入した。全部で120クローネだった。そんなに高級品を購入してはいないのだが、やはり鉄製品が混じると値段がそれなりにする。


 次に服屋に行った。そういえばコウも貴族服以外には寝巻きと下着だけしか持ってない。服屋にいくとレディース二人は大はしゃぎだった。古今東西、異世界とは言えそういうところは変わらないらしい。あれやこれやと品定めしている。旅用にチュニックとズボンをコウの分は三着分(普段着がないため)とミオとニーナはニ着分購入、下着もそれぞれ数枚づつ購入することにした。そのほかにもミオとニーナは気にいったワンピースを二着づつ購入することにするようだ。支払いはもちろんコウである。(こればっかは仕方ないよね・・・)コウは半分あきらめていた。店員さんは獣人の奴隷に服を選ばせるコウに戸惑っているようだった。


 購入する服を決めた後、ミオとニーナがなにやら話している。追加で何か買おうとしているようだ。  


「何、買うの?」

「ないしょー!」

「ナイショです。若の分も買っておきますね。」


なんか、気になったが、二人とも「ナイショ」と言うばかりで教えてくれなかった。

そのあと、ミオが綿入りの座布団の大きさのクッションを4枚購入していた。


「一枚多いよ?」

「明日には分かります。」


またまた、あきらめたコウだった。

買い物の総計は閉めて1500クローネ。15万円相当である。これでも相当値切ったというが、新品の服は高いものらしい。その後、ニーナのブーツを購入した。今まで苫屋にいた時にミオが買ってきたサンダルを履いていたのだが、さすがにまずいだろうということになり、皮のブーツを購入したのだ。150クローネだった。もともと、コウもミオも皮のブーツを履いていたため、二人は新調はしなかった。


さすがに一日中買い物をしたコウたちは疲れてしまっていた。

執事さんに持ってきてもらった桶に入ったお湯で体を拭くと余計、体の疲れがどっと出てきた。ミオもニーナも同じような感じらしい。


「風呂はいりてー!」


そうコウが叫ぶとミオがきょとんとした顔で見ている。どうも風呂という観念が余りないらしい。具体的な話をすると、ピンときたようだ。


「王族が使っているという話は聞いたことありますねー。あとは、海王国時代に共同浴場があったらしいですよ。」


さすが、海王国、日本人の王だ、と妙に納得したコウだった。

その後、執事さんに、ロランに明日出発することを伝えるようにお願いし、食事をとった後、三人とも疲れて眠りに着いてしまった。


もちろん、三人で川の字になり、一つのベッドで眠りに着いたのは言うまでもない。


明日はいよいよ王都へ出発だ。

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