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ロレーヌの町(3)

次の朝、ニーナの耳を咥えるという朝の日課を済ませたコウは、筋トレを開始した。

「ナロープッシュアップ! バックエクステンション! スクワーーーーっトぉ!」


ミオが興味深げに見ている。ニーナもコウのそばによってきて、プッシュアップ(腕立て伏せ)中のわき腹をつんつんしたので、コウは思わず崩れ落ちてしまった。

「何やってるんですか?」

「筋肉トレーニング!このままじゃ駄目でしょ?」

「へー。」


 なんでもミオの話だと、この世界の人は筋肉トレーニングなんてしないらしい。日ごろの労働やら、兵士なら訓練で筋肉がもりもりなのだそうだ。何気にミオも素振りとか毎日やってるらしい。コウは7種類くらいの運動を10回づつ行ったが、それだけできつくなってしまった。


「かなり、体力ないなぁー。」

にっこり笑いながらミオが申し出た。

「じゃあ、王都への途中で稽古つけて差し上げますねw」

「イエ、遠慮シマス。」

「大丈夫ですよ。強制ですからw」

(強制かよっ!)心の中で思いながら、ため息をつくコウであった。


パン、果汁、少しのスープといった朝食をとった後、コウ達三人は町に出かけた。

今日はニーナの証紋の書き換えと、旅の準備をしなくてはならない。

ロレーヌの町の中は朝から道行く人々で騒々しかった。この喧騒は海大島の情勢が安定するまでしばらく続くことだろう。


「ゴミとかなくて結構綺麗だねえ。」


 ロレーヌの町の中は石作りの壁の家が多く、まさにファンタジーの町といった風情だった。街路も石を敷き詰めて舗装されており、側溝もあり結構きれいだった。コウは中世の町は汚かったという話をwebの中世転生もの小説で読んだことがあったから、少し意外に感じた。


「ロレーヌとか王都の中心部とかぐらいですよー。きれいなの。」


 ミオの話によると、海大島との交易によりフランダルの中でも豊かで商人の多いロレーヌの町は、インフラがとりわけ整っている町であるとのこと。下水まで引いているらしい。

 しかし、ロレーヌと王都以外は清潔とは言えず、予想通りゴミが路上に捨てられ、住居と近接して豚などの家畜を飼っていたり、かなりの汚さと悪臭らしい。



 行政庁から程なく歩いたところに、証紋役場はあった。

入ると入り口からずっと奥までカウンターが続いており、天井からそれぞれの係の名称が下げられている。カウンターの中では書類を手にたくさんの人が働いていた。役所みたいな感じだ。


(公証役場みたいなもんかなあ・・・)コウはそう思ったが、実際に似たようなものらしい。


 国や行政庁により義務付けられている証明書類の類や、特に重要な書類(商会の設立に関する書類など)はここで証紋を押されて、公証(一般の人にに対しての証明)されるのだという。取り扱われるのは何も奴隷紋だけではないらしい。

 なお、証紋を押すのは資格をもった証紋官であり、証紋用の法具によって行われるそうだ。


「次の方こちらへどうぞー」

呼ばれたコウ達は奴隷紋担当の証紋官のいるカウンターの前の椅子に座った。

主人(あるじ)となる方はこちらに指を入れてください。」


証紋用の法具なのだろう、アイロンみたいな取っ手のついている箱状の金属の横に穴があいている。コウはそこに指を入れると「ちくっ」と痛みがした。


「もういいいですよー。」


指を抜くと、証紋官はニーナに言った。


「こちらに手の平を下にして乗せてください。」

「はーい、ちくっとしますよー」


証紋官は法具をニーナの手の甲に押し当てた。


「うー!」


ニーナが顔をしかめている。ちょっと痛かったようだ。

ミオがほっとしたように言った。


「これでニーナちゃんも、コウ様の奴隷ですね。」

(うむ、ご主人様なのだ!これでニーナに、あんなこと(耳をれろれろしたり)やこんなこと(しっぽを思う存分いじったり)出来る!)コウは心の中で歓喜の表情を浮かべた。


「おにいたん、へんなことかんがえてるー」

 見抜かれたようだ。


「がおー」

ちょっと照れ隠しに襲うまねをしたら、

「ちょーーっぷ!」

がこん。ニーナのチョップがコウの額に炸裂した!結構痛い。


「なんでー」


ミオがクスクス笑いながら答えた。

「害意がないと有効なんですよ。きっと。だから私のも愛の鞭w」

「そんなわけあるかー!」

「くすくすw」

「今笑ったでしょ?」

「全然w」

(これでもご主人様なんだがなー)コウは心の中でぼやくしかなかった。



 無事に奴隷紋の書き換えを終えたコウ達の次の予定は、旅のための買い出しである。ミオは6歳の頃より修行と称してゲンゾウと一緒にフランダル各地を転々としたらしい。そのため、旅の準備は手馴れたものらしい。



「移動はどうするの?乗合馬車とかがあるの?」


 ミオに尋ねると、ピンとこなかったようである。乗合馬車とか、辻馬車などの交通機関は発達していないらしい。


「じゃあ、どうやって王都まで行くの?」

「徒歩か、ダーチョと馬車借りるかですね。あとは、商人の馬車に乗せてもらうかですね。」

「どのくらいお金かかるの?」


 ミオの話だと、ダーチョ一日につき100クローネ(一万円)くらいで、荷馬車は一日150クローネ(一万五千円)くらいが相場だという。王都まで馬車なら4日くらいだそうである。

(四万円たすことの6万円・・・10万円か・・・結構高いなあ。)

しかし、ロレーヌの現在の戦時下の状況だと、需要が増えているためその値段で借りられる保障はないそうだ。


「しかし、高いなあ・・・」

確かに高いが、コウにとってははした金に思える。しかし、伯爵家という大身を養わなければならない。出来るだけ節約してアードルフの遺産には手をつけないようにしたいとの思いはあった。


「あとは冒険者ギルドの護衛依頼で王都行きを探すとかですね。」

「冒険者ギルド!」


 お決まりの冒険者ギルドがあると知って、コウはちょっとうれしくなった。しかし、ある程度の実績を持つ、一定のランク以上の冒険者でないと護衛の依頼は受けられないそうである。ちょっとがっかりしたコウだった。


「徒歩しかないのかなあ。」

「今の若の体力では正直キツイですね。んー。ロランさんに相談してみますか?」

「そうするか・・・」


コウ達は戻ったらロランに相談することにして、先に買い物に行くことにした。


 最初に入ったのは雑貨屋だった。もう、日本でも見られなくなった下町にあるような小商店の風情である。薬局も兼ねており、包帯だとかビン入り薬だとかが、食器とかいろいろな小間物と一緒に置いてある。

 カルダリアの薬は即効性が強いらしい。傷口などはすぐにふさがるとのことだ。しかし、内部まで達した傷は直りが遅いようで表面の傷はふさがるが、全快までは時間がかかるとのことだ。


「回復薬に傷薬に毒消・・・いろいろあるんやねー」

「そうですね。町の外出ると、魔獣とか魔物とか盗賊とか居ますからね。」

「モンスターいるの?」

「もちろん、いますよー。」


 

 この世界は「魔素」という魔力のもととなる目に見えない気体のようなモノで満たされており、魔素は気候の影響を受けないが、地脈の流れの影響は受けるため、地域による濃淡が発生するのだ。魔素のとりわけ濃い場所は「魔素だまり」と呼ばれる。

 亜人を含む人は「魔素」を体の中に貯める性質を持っているが、動物はそういう性質を持っておらず、「魔素だまり」の中に長期間いた場合、体が魔素に侵され「魔獣」に変化する。たとえば、クマなら狂いグマ(ベルセルクベア)になるといった具合だ。なお「魔物」は人と同じように体に魔素を取り込むことができる生物のことを言いい、ゲームやファンタジーでおなじみのゴブリンやオーク、オウガなどがそれに当たる。

 魔獣や魔物は総じて強力で、一般人では、一番弱いゴブリンですら一対一でなんとか倒す事が出来るぐらいだという。熟練の兵士や冒険者で二体か三体相手が出来るといった感じだ。

 ミオは獣人であることもあり、幼少より修行をしているので、三体くらいなら平気らしい。


「僕にも倒せるかなあ・・・」

「まあ、若はもっと体力つけないと駄目ですねw」

「むう・・・」

「ふふっ。鍛えてさしあげますからw」


 ミオさん、何気に楽しそうである。(こわひ・・・)


  

回復薬 戦闘などによる疲労や傷の回復力を高める。 200クローネ。一瓶丸薬30粒。

傷薬  傷口をふさぐもの。220クローネ。一瓶丸薬30粒。 

毒消し 魔物や魔獣から受けた傷からの毒やばい菌の効果を防ぐ。200クローネ。一瓶丸薬30粒。

膏薬  打ち身や捻挫などの腫れを緩和する。100クローネ。一瓶100g程度。     

包帯  ふさぎ切れなかった傷や膏薬を塗ったところに巻く。10巻き20クローネ。

     

全部で740クローネ分を購入した。7万4千円相当。かなり高いが、ミオに言わせれば普通よりやや高めなくらいだそうだ。全般的にロレーヌの町の物価が上がっているとのことだ。

 

「次は武器防具ですね。」


 ミオによれば、最低限の武装は必要だそうだ。比較的にロレーヌと王都間の道は開けており、商人たちの荷馬車が行き交い他のルートよりは魔獣や魔物、盗賊からの襲撃は少ないとはいえ、完全に安全ではないそうだ。


 まずは防具屋さんに行った。

入り口は狭かったが、奥行きがかなりあり、サンプル品と思しきものが、壁に下がっていたり木で出来たTの字型の台に展示されていたりとかする。魔獣や魔物に対する身近な脅威があるこの世界では、ちょっと高級な衣料店みたいな感覚なのだろう。


 一番安いものでもセットで600クローネからだそうだ。剣道をやっていたコウは入門者用のそれなりのセットでも五万円位からなのを知っていたから、そんなもんかな、と思うくらいだった。

 セット内容はクロスアーマーと上からかぶるベストタイプの胸当て、肩当て、膝あて、肘あて、腰に巻く短めの草摺り、股当ての既製品のセットだった。ちなみに、クロスアーマーは十字軍の鎧のほうではなく、クロス(布)製のもので、中に綿をつめキルティングを施したもので、鎧の下につける衝撃緩和用である。

 胸当てと草摺りの中央部は何らかの加工がされているのだろう、なめしただけの皮ではなく結構硬かった。ある程度の斬撃や打撃を防いでくれるそうだ。

 全部、試着すると、なんだか雑魚兵士といった感じになった。


 皮の防具セットは、一番安く大量に出回る品のため、既製品とはいえ、男女の別、おおまかなサイズ設定がされており、ミオは熱心に選んでいた。女性用は胸当ての部分に余裕をもたせており、どうやらそのサイズをみているらしい。

 選んでいるミオをみていたら、「若、今失礼なこと考えてたでしょ!」と叱られてしまった。(いや、何も考えてませんって・・・)


 ニーナの分も購入したが、だいぶ手直しが必要だった。一番小さいサイズの胸当ての肩に掛かる部分とサイドをつめてもらった。草摺りは前の部分がないタイプのため、ベルトで調整すれば大丈夫みたいだ。クロスアーマーはぶかぶかだが、我慢してもらおう。後は木製の丸盾ひとつを購入し、直し代はサービスしてもらい、合計2000クローネ(20万円程度)の会計となった。


 次に行ったのは武器屋だった。

 壁に槍やほこといった武器が掛けてあり、背の高いかごの中に処分品と思われる剣が鞘ごと立てて入れられている。

 ミオは棍棒術も使えるとのことで長さ180センチくらいの棍棒と、刃渡り30センチくらいのナイフを購入することにしたらしい。コウは刃渡り80センチ前後のショートソードをミオから勧められた。今のコウでも扱えるとしたらその位になるとのことだ。刀を扱うのは現状無理らしい。コウはいくつもの長さと重さのショートソードの中から、一番軽くて短いものを選んだ。重さは1kgくらいだろうか。

ニーナにも護身用にナイフを購入しようと思っていたが、お気に入りの武器があったようだ。


「にーな、これがいいー」


ニーナが選んだのは、鎖の先に直径10センチほどの鉄球が繋がれた武器だった。(むーん、どういう使い方するかは、想像つくけど・・・・言わないで置こう)コウはそう考えつつニーナの要望どおりの品を買うことにした。


「わーい」


ニーナは喜びながら、鎖の部分ではなく、鉄球本体を両手でもちながらブルンブルンとふりまわしている。


棍棒      200クローネ。

ナイフ     300クローネ。

ショートソード 500クローネ。

鎖つき砲丸   400クローネ。


合計1400クローネである。 

 

「うーん、結構準備にお金かかるのね。」

コウがぼやいているとミオが言った。


「はじめての旅の仕度ですからねー。お金かかりますよw」 

「そっか。」


一応の返事をしたコウだったが、ふと気がつきミオに「いままでの武器ってどうしたの?」とたずねると、ちょっと戸惑ったあと、「島に全部置いてきちゃいました!」と舌をぺロッと出しながら言われた。どうやら新品を買わされたらしい。

(抜け目ないのね・・・ミオさん・・・)コウは尻に敷かれそうな予感から、思わず身震いした。それは予感ではなく既に尻に敷かれているのだが、未だ気がつかないコウであった。


武器は、コウのペリカンポーチに詰めたが、入れることが出来ないサイズの防具など荷物がかさばってきたので、いったん離れまで戻ることにした。


なんか、思ったより大変です。いろいろ調べないと書けないもんなんですね。ご意見やアドバイスお待ちしています。お気軽にお寄せください。

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