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ロレーヌの町(2)

海大島の対岸の町ロレーヌの行政庁の執務室の中で、領主ロラン・クレール伯爵は少しの疲れを感じていた。

現在30歳、多少痩せてはいるが引き締まった体に銀髪、鋭い眼光の知性を感じさせる顔立ちである。


海大島にマッシリアが上陸してから、領内に集結してくる王国軍関係者や海運関係者などへの対応、領内の糧秣の管理などに彼は忙殺されていた。

昨日より海大島からの難民が次々と領内に漂着しており、難民キャンプの設置も急務だった。

難民からの証言により城塞都市ウドが陥落した事が判明していたが、難民たちの間にある噂が流れていた。

コウネリウス・エルスターが父親アードルフを裏切り、ウド市内にマッシリア軍を招きいれたという噂である。


「あの、【馬鹿息子】が。早まったことを・・・」


そう呟きながら、ロランは7年前に一度だけ会ったことのある、陰気で目の腐った少年の顔を思い出していた。


ロランは難民からの噂を聞くと、念のため衛兵や領地の守備隊には、領内にコウネリウスが現れた際は、連行するよう命令を出していた。

、アードルフが来訪するたびに息子への愚痴を聞いていたため、真偽の程を確かめたかったのだ。


「ロラン様、バトン将軍がお越しです。」

「入ってもらいたまえ。」


訪問してきたのは、ランベール・バトン侯爵である。

がっしりとした体躯の持ち主であり現在50歳、【フランダルの西壁】ことアードルフ・エルスターと共にマッシリア軍と戦ってきたフランダル王国の将軍である。


「クレール伯、お久しぶりですな。」

「こちらこそ、お久しぶりです。王国海大島派遣軍の司令官を拝命されたそうで・・・」

「うむ。まあ、その件で来たのだ。早速だが、ウドが陥落したことはクレール伯も聞いているだろう?」

「私も聞いております。それで、いつ出発するのですか?奪還作戦を行うのでしょう?」

「それなんだが、ウドが落ちたとなると海大島の全島制圧も時間の問題だろう。既にマッシリア軍の三個軍団が上陸したと聞いている。だが、こちらはまだロレーヌに二個軍団しか集結していないのだ。海軍もあわせても、マッシリア軍には及ばん。」

「海大島を見捨てるのですか?」

「今のところ動けんのだ。【フランダルの西壁】が早々死ぬとも思えぬし・・・わしとしても共に戦った奴を見殺しにするのは忍びないのだが。」

「そうですか・・・」


ロランは父親を早くに亡くしており、後見となったのがアードルフだったから、彼自身アードルフには恩義を感じていた。

一刻も早く援軍が送られることを望んでいたのだ。


「あと二個軍団がロレーヌに集結する予定だ。それから検討することになるだろうな。」

「ということは追加で仮営地が必要になると言うことですね。」

「うむ。卿には候補地の選定をお願いしたいのだ。長引けば本格的に駐屯地として使うことになる可能性が高い。そのつもりでお願いしたい。」

「かしこまりました。」

「頼んだぞ。」


結局、この時のバトンのロランへの依頼は的を得たものとなった。

さらに兵力を増強させたマッシリア軍とフランダル軍は、海峡を挟んで約四年間に渡りにらみ合うことになる。



バトンが執務室を去ってから半刻後・・・

衛兵隊長ジルベールからの報告がロランの下に届けられた。


「ロラン様、コウネリウス・エルスター殿が見えられました。」

「なにっ?」

「今、第二応接室で待っていただいております。」

「わかった、すぐ行く。逃げられないようにしておくのだぞ。」

「かしこまりました。」


ロランは足早に第二応接室へと向かった。第二応接室の外には衛兵が二人立っていた。



ロランが第二会議室に入ると、ミオは壁戯のベンチから立ち上がりコウの横斜め後ろに立った。

ニーナはベンチに座ったまま、つまらなそうに足をぶらぶらさせている。


コウはソファに座っていたが、ミオとの打ち合わせどおり立ち上がり挨拶をした。


「お久しぶりです。クレール伯。」

「久しぶりだな。コウネリウス君。今回は大変だったな。」

「はい。その件なんですが、父より書状を預かって参りました。」


コウが文書筒を渡すと、ロランは開封しアードルフからの書状を読み始めた。

文書の内容は、この手紙をロランが見る頃には自分はこの世にいないだろうこと、コウネリウスを自分の後継とすること、ロランに後見と国王への取次ぎをお願いしたいことが書かれていた。


「ふむ・・・ところでコウネリウス君。君のペンダントを見せてくれないか?」


コウはペンダントをかざすようにロランに見せた。

しばらくペンダントを見ていたロランは衛兵達に言った。


「君達は持ち場にもどっていいよ。」


衛兵達が去るとロランは口を開いた。


「アードルフ殿は身罷られたのだな。単刀直入に聞くが、ウドにマッシリア兵をいれたのは君かい?そういう噂が流れているんだが。」

「いえ、僕ではありません。」

召魂される前のことで、身に覚えのないこともありコウははっきり否定した。


「じゃあ、どうやって君はウドから抜け出したんだい?」

「あの日、僕は自室にいましたが火が回ってきたので、父の元に行きました。そこで、ペンダントと手紙を預かって抜け穴から逃げたんです。その後、抜け道の入り口が閉められましたから、父は助からなかったのではないかと思います。」

(我ながら盛るなあ・・・)心の中で呟きながらコウは答えた。ロランは少し考え込んでいるようだ。


「血濡れの瞳」(ブラッディアイ)はアードルフ殿の意思がないと譲渡できないはず。それに、痴れ者とは聞いていたが、受け答えもはっきりして淀みがない。アードルフ殿は酷評していたが、実際はそうではないようだ。)しばらく考えた後、ロランは口を開いた。


「君の言うことを信じよう。アードルフ殿が自分の意思で『血濡れの瞳』(ブラッディアイ)を譲ったのは間違いないだろう。君をエルスターの継承者として認めよう。」

「ありがとうございます。」

「この後は、王都へいくのかい?」

「はい。旅の支度が済み次第、向かおうと思っています。国王陛下への書状も預かっていますし。」

「なら、私からも添え状を書いておこう。王都までの護衛も用意しよう。」


返答に困ったコウがミオのほうを見やると、ミオは首を小さく横に振った。


「いえ、護衛は大丈夫です。」


ちらりとその様子を見たロランは、【黒の一族】の存在を察したのか護衛の申し出を撤回した。


「出すぎた申し出をしたようだね。すまなかった。エルスター家は常に守られているのだったね。」

「はい。」

「ちょっと待ってくれるかね。」


ロランが呼び鈴をならすと執事が飛んできた。

ロランが執事に耳打ちをすると執事はすぐに戻っていったが、しばらくして皮製の巾着袋を持ってきた。

執事から袋を受け取ったロランは、そのままそれをコウに渡した。

ずっしりとした重みを感じる。かなりの金額がが入っているようだ。


「旅の支度にでも使って欲しい。」

「そんな、申し訳ないです。」

「私も君の父上には昔だいぶ世話になった。恩返しをさせて欲しい。アードルフ殿から君の後見を頼まれている。このくらいさせて欲しい。」


ミオの方を見ると頷いている。


「それでは、遠慮なくいただきます。」

「アードルフ殿はよい後継者を持った。出発まで離れに泊まるといい。」


それから、ロランは出発前にまた面会に来るように言った。

そのときに添え状を渡すとのことだった。

その後、応接室を退去したコウ達を、執事さんが離れまで案内してくれた。


離れは中庭を挟んだところにあった。二階建ての大きな建物で普段から来客用に使用されているのだろう。

その中の二階の角部屋に案内された。

シンプルだが高級そうな家具に間取りはダイニングテーブルつきの居間と主寝室、従者用の部屋である。

6畳1k暮らしだったコウにとっては、驚くほどの広さである。

執事さんは室内を案内した後、夕食は部屋にもってくること、ロランは先約があるため夕食を共にとることができないことを告げ戻っていった。


「若、少し見直しました。」

「ちょw今までどんな風にみてたんですか?」

「優柔不断?」

「ええっ。僕だって、やれば出来る子なんですよ。」

「今回はそういうことにしておきましょう。」


ミオも今回の件で少しは見直してくれたようだ。


主寝室のベッドはクイーンサイズだった。


「わー、おっきー。」


ニーナがベッドにダイビングしてはしゃいでいる。


「ふかふかだー。」

「ニーナちゃん、それは若のベッドですよ。」

「えーここでねたいー。」

「じゃあ、おにいたんとここで寝るか!」


ミオにまた睨まれてしまった。


渡された袋には金貨が30枚入っていた。300万円相当である。

貴族ってこんなんなんかなー。ちょっと金銭感覚に着いていけないコウだった。


その日は一日中、離れでごろごろしていた。筋肉痛でコウが動けなかったからだ。


夕食は豪華なコース料理だった。執事さんの話によるとコース料理自体は最近流行り始めたばかりなのだそうだ。


夜は結局、なぜかミオも一緒に、クイーンサイズベッドにニーナをはさんで川の字で寝ることになった。


「ニーナを守るため。」だそうだ。(わけわからん!)


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