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ロレーヌの町(1)

よく寝たなー。


目が覚めると、ミオと一緒に寝ていたはずのニーナが、コウの腰をがっちりロックして寝ていた。

ラッコは海の中で巨大な昆布に体を巻きつけ、抱くように眠るという。

(恐るべしルタラ族・・・てか、僕って昆布?そんなんいややー)


もう、ミオは起きているらしい。

囲炉裏をはさんで対面の布団が片付けられているのが見える。


コウは布団に入ったまま、ほわほわなニーナの耳をいじりながら、ぼーっとしていた。


今後どうなるかなんて、現時点では何も分からない。

エルスター家を継ぐと決意はしてみたものの、海大島はマッシリアに奪われ、領地は既にないのだ。

爵位がどうなるかさえ分からない。


「さて、起きるか!」

コウは起きようとした。だがニーナががっちりロックしている。

コウは邪悪な笑みをニヤリと浮かべた。


ぱくっ


思わず?耳をくわえてしまった!


ひゃん!


ニーナが驚いて飛び起きた。

ちょうど部屋に入ってきたミオの後ろに隠れおずおずとコウのほうを見ている。

ミオはコウをキッと睨んでいる。


ミオは既にメイド服に着替えていた。


「若、ちゃんと布団はしまってくださいね。」

すごすごとコウは布団をたたみ、押入れ?の中に入れた。

(うーん。ファンタジーで布団に寝るってどうよ?)

いまさらながらのツッコミをしていると、ゲンゾウがやってきた。


「ふぉふぉふぉ。昨日の晩は若いもん同士、うまくやったかの?」

「「やっとらんわ!」」



昨日、ミオはロレーヌの町で服を調達してきたようだ。

コウは新しい服を渡された。

コウがその場で着替えようとしたら、すかさず外に出されてしまった。

(なんでやねん。)

下着も一緒に渡されたので、外で下着ごと着替える羽目になってしまった。


渡された服は、召魂されてきたときに着ていたようなスタンカラーシャツにベストとズボン。

長めのジャケットもついていた。

細かい刺繍入りである。貴族服だろう。


着替えて中に戻ったときに、コウが「なんかこれ、気恥かしいんだよねー。」と言ったら、

「領主様に会いに行くんだから我慢しなさい。」とミオに言われてしまった。

お母さんみたいだ。


ニーナは水色のワンピースを着ていた。ミオがコウの服と一緒に買ってきた物らしい。

中世に良くあるような裾を引き擦るタイプではなく、裾が膝くらいまでのやつだ。



「若、わしはここで別行動じゃ。あとはミオがお世話しますじゃ。一緒には行けませんからのう。」


ゲンゾウは「奴隷紋」をもっていない。


中央大陸では、亜人の身分は奴隷と準市民に別れ、それ以外は野良亜人と呼ばれる。

野良亜人は奴隷狩りの対象となり、捕まえた人間が主人となる権利を得る。

捕まえられた亜人は、主人の名前の入った「奴隷紋」を手の甲に押され使役されることになる。

そのため、紋章のない野良亜人は人間の支配領域の村や町に入ることができない。捕らえられて奴隷にされてしまうからだ。

「奴隷紋」の書き換えで奴隷の譲渡も可能で、当然のごとく、奴隷の売買を生業とする奴隷商人も存在する。


「間者がどこの手のものか、ばれてしまっては意味がないですからな。『奴隷紋』をつけられないのですじゃ。ふぉふぉふぉ」


ちなみに、ミオはコウネリウス付であったため、身辺護衛のため側についていなければならず、コウネリウスの「奴隷紋」が刻印されている。


「奴隷紋」には特殊な効果があり、「奴隷紋」を押された亜人は、主人を害することができなくなる。

通常、奴隷紋は緑色に薄く発光しているが、主人が死亡した場合には奴隷紋が薄黒く変色する。

奴隷紋が黒く変色した亜人は野良亜人として扱われ、確保した人間が主人となる権利を得ることになる。


ただし例外もあり、戦争奴隷として兵士の任務についたものとその家族については、一定の兵役を勤め上げると「準市民」としての地位を得て一定の自由を獲得する。

その際に奴隷紋に変えて、国名の入った「準市民紋」が押され、身分証明となるのだ。


なお、人間の場合も、犯罪を犯したものや借金を返せなかったものについては、奴隷となる場合があり、その際にも「奴隷紋」が押される。

ただ、亜人と異なっているのは刑期や年季があけた人間奴隷は奴隷紋が消されるだけであり、準市民の制度はない。


ふと、首をかしげながら、コウが尋ねた。

「あれれ?昨日からミオさんに暴行をうけてるんですが・・・反抗できないはずじゃ?」

「暴行じゃないです!愛の鞭です!」

(愛があったのかっ!)


「ふむ、奴隷紋は精神に感能するから、それが原因じゃろう。別人と判断されたのじゃろう。」

「だとすると、奴隷紋は黒くなるはずじゃあ・・・」

「コウネリウス様の体自体は生きとるからのう。生命反応はあるが別人ということじゃろう。」

「・・・ぼ、暴力阻止はできないんでしょうか?」

「無理じゃのう。ふぉふぉふぉふぉ」

「えー。」

コウが不満そうにしていると、下目使いにミオが言った。


「なんか不都合でもありますか?」

「イエ、ナイデス。」


ゲンゾウは話を変えた。


「ところで、ニーナちゃんじゃが。」

ニーナの手をとり、じっと見ているゲンゾウ。


「ふむ、奴隷紋が黒くなっとるのう。ニーナちゃんはどうやってここまで来たのかな?」

「うんとねー。むらにわるいおじちゃんがきて、つかまっちゃったの。」

「どこにある村じゃ?」

「んー。海のちかくー。」


正確な場所や村の名前などは分からないらしい。

亜人の村や集落は名前がないことも珍しくはないのだ。


「そんで、ふねにのって、ふねおりて、おりにいれられたの。」

「それからどうしたのかのう?」

「ひが ぼうぼうってなったら、『にげろー』ってわるいおじちゃんが、おりをあけてくれたのー」

奴隷商人にも良心の欠片があったらしい。その後、奴隷商人は亡くなったのだろう。

「ふむふむ。それからどうしたんじゃ。」

「ちかくに、ようすいろ?があったから、とびこんで、およいでたら、うみにでたのー。」


しばらく考え込んでいたゲンゾウが口を開いた。


「若、ニーナちゃんも若の奴隷にしてはどうじゃ?」

「んー。なんか気がとがめるんですが・・・」

「じゃが、送り届ける村もわからんし、このままじゃと、いずれつかまって他の人間の奴隷になるだけですぞ。」

「そうですか・・・仕方がないですね・・・」


コウはあまり気が進まなかったが了承した。ニーナをほっとく訳にも行かない。


「ロレーヌの町で奴隷紋の書き換えができるはずじゃ。ついでに済ませとくといいじゃろう。」


ごうして、ゲンゾウの見送りを受け、コウ達三人は海岸沿いの道をロレーヌの町へと向かったのだった。






丘を越えたところで石造りの城壁に囲まれたロレーヌの町が見えてきた。

左手に見える海上には、軍艦だろうか、無数の大小の帆船が浮かんでいる。

壮観な眺めである。

 

「はぁはぁ。ぜぇぜぇ。」

やっとロレーヌの町が見えてきたというのに、コウは苦しそうだ。

日も高くなってきた。


「若、だらしないですよ。」

「おにいたん、よわすぎー。」


ミオもニーナも息すら乱れさせていない。

(まずは、トレーニングしなきゃ。この体じゃ・・・)

二人の罵声を浴びながら、コウは力を振り絞り歩いた。


近づくにつれ、町の喧騒が大きくなってくる。

遠目にもたくさんの兵士や荷馬車が城門から出入りしているのが分かる。


「あれが、ロレーヌかあ。なんか、にぎやかだよね。」

「フランダル軍が各地から集まってきてますからねー。普段はもっと落ち着いてるんですけどね。」


ふと、門の方を見ていたコウは不思議に思いミオに尋ねた。ダチョウのような鳥が荷車を引いているのが見えたからだ。


「あの鳥みたいなのは?」

「あれは、ダーチョです。」

「馬じゃないんだ。」

「馬もいますが、今はダーチョがほとんどですね。力も強いですし雑食で世話が簡単なんですよ。」

「うんと、ダーチョって海王国が語源?」

「ですです。」

ダチョウが訛って伝わったのだろう。

(チョ○ボみたいなもんか。)

変に納得するコウだった。


町に着くまでに、コウはミオから面会のためのレクチャーを受けた。

ロレーヌの町が海大島への玄関口となっている都市であること。

ロレーヌを中心とした地域の領主がロラン・クレール伯爵であること。

コウネリウスが8歳のときにアードルフに連れられて一度面会したことがあること。

エルスター家とクレール家は領地間の交易が盛んであることから、互恵関係にあり、代々親しい関係にあること。

などである。



門に近づくと、衛兵が両側に二人づつ合計四人、出入りのチェックをしていた。

通常は二人のみとのことだが、戦時で警戒態勢を敷いているのだろう。


「氏名と来訪の目的は?」

衛兵の一人が聞いてきた。


「コウネリウス・エルスターです。領主様に面会を・・・」

「もしや、エルスター伯のご子息ですか?」

「そうです。父の書状を届けにきました。」

「失礼いたしました!少々お待ちを。」


いきなり態度を変えてそう言うと、衛兵は町の奥に走って行った。

上司を呼びに行ったのだろう。

もう一人の衛兵がミオの奴隷紋を確認し終え、ニーナの奴隷紋を見て尋ねた。


「これは?」

「奴隷紋の書き換えもしに来たんです。」

ミオがすかさず答える。大丈夫なようだ。


すぐに、上司と思しき兵士が駆け足でやってきた。


「エルスター伯のご子息ですね。」

「はい。」

「私、ロレーヌ衛兵隊長のジルベールです。ささ、こちらへどうぞ。」


ジルベールの後にコウ達三人は続いた。

荷馬車や兵士達が行き来する中をコウ達は歩いていく。

いつの間にか左右に二人づつの兵士が囲むように一緒に歩いている。

道行く人が、何事かと振り返っている。


(これって、連行なんじゃ・・・)

(コウネリウス様が裏切った事が噂で流れてるのかもしれません。)

コウとミオはぼそぼそと囁きあった。


しばらく歩くと、コウ達は大きな石造りの建物の中に連れて行かれ、応接室のような部屋に通された。

部屋の入り口の両脇には監視するように二人の兵士が立っている。たぶん、外にも立っているのだろう。


物々しい様子に、コウは次第に不安になっていった。

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