開始
予想だにしなかった文字の羅列に、思わずもう一度カードを見る。
しかしやはり、そこに書かれている文字は同じだった。
見間違いではない。
「ゴリアトがラスボス……?」
もうこのゲームに普通を求めることはあきらめた方がいいのだろうか。
「最初に会う案内NPCがラスボスなんて、な。 あまりにも常識はずれすぎだろ」
嘆息し、とりあえず情報屋に行けばこの件に関して何か掴めるかもしれないとエレベーターに乗り、一階に下りる。
扉が開き、踏み入れたのはまた時代を錯覚させるようなウエスタン風のバーだった。
「へい! らっしゃい!」
威勢のいい声と共に、ウエイトレスのNPCが飛んでくる。
「兄さん、ここは初めてウホ?」
「またゴリラかいっ!!」
このゲームに人間型のNPCは存在しないのだろうか。
「ウホ?」
ゴリラが首を傾げるので、
「いやなんでもない」
取り敢えずどこか適当な席に着くことにする。
「ここに来てからキャラがツッコミに固定されつつある……。 脱ツッコミ!!」
「ムリだとおもうよー」
「うわっ!?」
独り言のつもりが(失礼な)返答が来て吃驚する。
「……なんだ、またお前か」
振り返ったその先にいたのは、先ほど別れたばかりのヒナタだった。
「なんだとはなによ! せっかく色んなコト教えてあげようとしたのにー」
ぷくっ、と頬を膨らませてジト目を送ってくる。
「ゴメンゴメンボクガワルカッタヨ」
「全然謝ってるように聞こえないんですけどっ!? ……まあよい、許してやろう」
大仰にな仕草をするヒナタを無視して尋ねる。
「……で? なにを言いに来たんだ?」
「えー。 なによその言いかたー。 彼女が入ってきたばっかの彼氏を心配してせっかく来てあげたんじゃない」
「可愛い女の子が好きでもないヤツに彼女とか言うんじゃありません」
コイツは事あるごとに彼女彼女とアピールしてくるのだ。
見てくれは結構いいんだから、普通に好きな人に告白すればいいのに。
「……はあ。 なんでいつもこうなのかな……」
ヒナタがぼそっと呟く。
「ん? なんだって?」
「なんでもないよーだ!」
ぷいっ、と顔を背けられる。
「俺が何かやったか?」
「べっつにー。 もう半ば諦めてるから」
「一体なんだってんだよ……。 取り敢えずここに関してなんか教えてくれないか?」
途端、
「もう! しょーがないなー少年は。 よしよし、おねーさんがイロイロ教えてあげよう」
「倫理設定解除とかならいらないからな」
「先手を打たれたっ!?」
倫理設定解除とは、まあ、いわゆる18禁である。
「言うつもりだったのかよっ!?」
「じょーだんじょーだん。 じゃあ、まず世界観から説明するね。」
と、ようやくマトモな会話に入る。
「ここは具体的な年代とかは設定されていないんだけど、現代の日本と同じような外観の街に、近未来的なシステムが搭載されてるって感じかな」
「その割にこんな西部風バーもあるがな。 っていうかなんで出会うNPCがみんなゴリラなんだよ」
するとヒナタは驚いたように、
「えー!? 何言ってるのよ、ゴリラがNPCなのはここだけで、他は普通の人型だよ」
「マジか」
ゴリアトに出会ったのはなんだったのだろうか?
「うんうん、マジマジ」
謎は深まるばかりだ。
まあ、今考えても埒が明かないし、今度会ったときにでも本人に聞いてみよう。
そう思い、別の話題を振ることにした。
「そういや、お前のカードみたんだけどさ、もうフィールド出てるんだろ? モンスとかどんな感じだ?」
「んーっとね、そんなに変な感じじゃないよ?」
指を折りながら言う。
「レベルはまあ普通よりちょっと上がりにくいかなって感じでしょ? グラフィックは平均以上って感じ。 はいこれモンス図鑑」
ウィンドウを可視化してこっちに向けてくる。
「ゴリ……ラ?」
ヒナタは首肯して、
「うん。 これは一個目の必須ミッションのラスボスね」
「なんでそのゴリラはここで働いてるんだよっ!?」
思わずツッコむと、
「んーっとね、なんかそのバトルに勝利したらラスボスのゴリラを捕獲できるんだけど、もともと知能が高くて人語も話せるから働かせて今までしてきた悪行の罪滅ぼしをさせるってことみたいだよ」
「へー」
ということは、ゴリアトのカードに書かれていたラスボスっていうのはそういうことなのか。
てっきりこのゲーム自体のラスボスなのかと思ってたぜ。
「なんか他に普通と違うことある?」
アバウトに尋ねると、
「違うっていうかなんか変なことなんだけど、地図で見るとこの街の真ん中にあたるところにスカイツリーみたいなのがあるんだけど、どうやっても中に入れないんだよねー。 しかも、他の場所と違って警告ウィンドウがでないから、バグなのか仕様なのかわかってないんだって」
ゴリアトが「まだ言えないウホ」って言っていたヤツか。
「……教えてやろうか? スカイツリーのこと」
するとヒナタは、へっ!? というような顔をして
「なんでイナバが知ってるの!?」
そこで俺は、
「絶対に誰にも言うなよ?」
こう前置きして、ゴリアトの事について話した。
「……というわけなんだ」
ヒナタは怪訝そうな顔で、
「えー? それおかしいよ。 プレイヤーはログインしたらまずどこかの街の情報屋に出るんだよ? それにそんな広場地図に載ってないし……」
「なんだって!?」
俺は慌てて地図を開く。
「真ん中がスカイツリーで、ゴリアトはスカイツリーの方に飛んでたから、こことスカイツリーを結んだ延長線上に……」
指で地図を追う。
しかし、
「……本当だ、ない」
何度見返してもそんな場所は記載されていない。
「また謎が一つ増えたのか……」
もう何度目かわからない溜め息を吐く。
その時だった。
突如足元に魔方陣が展開し、体を青白い光が包む。
光が消えると、そこは俺たちがちょうど話していた広場だった。
「んなっ!?」
「おい、どこだここは!!」
「なんなんだよ、もう少しでボス倒せたのに!!」
そして周りには、大勢のプレイヤーが次々と転移してきていた。
中央の石像が動き出す。
「ようこそ、日本政府に選ばれし500名のプレイヤーたちよ」
石像は、女性の外見に似合わぬ男の声で話し始めた。
「たった今、全500名のプレイヤーがログインを終えた。 君たちも警察その他から話は聞いているだろうが、こちらからも説明をさせてもらう。 このゲームの期間は今から数えて半年だ。 ゲーム内でHPが0になればその瞬間に君たちはこの世界からログアウトし、プレイヤーデータは抹消される。 ここまでは聞いているだろう。ここで、もう一つ情報を追加しよう。 スカイツリーに関してだ。」
スカイツリー、という言葉が放たれた直後、周囲に二種類のざわめきが起こる。
一つは、スカイツリーってなんだ? というもの。
他の街から来た人々だ。
そしてもう一つは、遂に正体がわかるのか、というものだ。
ゴリアトも詳しくは教えてくれなかったので、俺もこれには興味があった。
石像が喧騒の止むのを待たずに続ける。
「正式名称は<第二東京スカイツリー>だ。 レベルが60になったプレイヤーは入れるようになる。 なにが行われるかはお楽しみ、というヤツだ」
だが、と一度区切って、
「少しだけ先に言っておくと、この世界に娯楽施設はない。 半年間も娯楽なしで過ごすのは酷であろう。 我々は君たちには敵対意識を持っていない。 娯楽くらいは提供しよう、ということだ」
<以上だ。 質問は受け付けない。 では諸君、半年間頑張りたまえ>
そして石像は元の態勢に戻り、動かなくなった。
「おい……本当にこっちの質問も聞かずに行きやがったぞ……」
「まあ、会話してるとどこでボロを出すかわからないからね。 今のが人なのかAIなのかはわからないけど、必要事項を告げたら去るというのは妥当なところだと思うよ」
すると一人の男が声を上げた。
「60レベになったら入れるんだろ? ヨッシャ―! やる気出てきたぜ!!」
彼だって政府の要求を引き受けて来たんだろう?
ゲームクリアに尽力するべきなのではないのか?
そんなことを思っていると、
「やっぱりね……」
ヒナタが小声で呟いた。
「どういうことだ?」
尋ねてみると、
「これが彼らの目的かもしれないよ。 このゲームに報酬目的で参加する人がいるのは当たり前でしょ。 ここに来ているのはトップランカーたちなんだし、少しでも戦力を減らしたいと思うのは当然。 だからスカイツリーに娯楽施設を固めて、レベル制限を設けたんだよ」
「レベル制限を設けることに意味はあるのか?」
「あるよ。 さっきこのゲームは少しレベルが上がりにくいって言ったでしょ? もしかしたら60レベに到達するまでには何か月かかかるかもしれない。 そこまでして行きたい娯楽施設だよ? トップランカー揃いなんだから自分がいなくたってクリアするだろう、そう思って60レベになるや否やスカイツリーに入り浸って出てこないような人が出てくるはずじゃない? なんたってこの手ののトップランカーっていったら廃人ばっかりなんだから」
「俺もお前もその一員だがな」
ヒナタはえへへ、と笑って
「まあね」
「まあ、ここでいつまで話してるのもアレだし、取り敢えずなんかミッション行こうぜ」
「うん、いいよ。 じゃ、ミッションカウンターに連れて行ってあげよう」
「おう、頼んだ」
◇◆◇◆◇
少し歩いてミッションカウンターがあるというビルに入り、適当なミッションを選択してフィールドに転移した俺たちは、俺の初バトルを終えたのだったが、
「なんだこの太刀ゲーは」
早速一日最低一回投稿が途切れてすいません……