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星降る丘の子猫  作者: 歩羽
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第五話

うちの近所にある図書館の前を過ぎたところで、遠くから声がした。


「あれ!ほら子供たちよ!」


大輔のおばちゃんだった。

おばちゃんはあたしたちを見つけると、走って近づいてきた。

おばちゃんの後ろにはおじちゃんもいる。

走ってきたおばちゃんは、大輔、司、あたしの頭を順にげんこつで殴った。


「こんな時間までなにやってるの!あんたたちは!どれだけ心配したと思っているの!」


げんこつは痛かったし、いつになく怒るおばちゃんが怖かったけど、すごく心配させてしまったんだと思った。


「ごめんなさい・・・」


あたしたちは三人はしょぼんとしながら謝った。

おばちゃんは泣いていた。

あたしたちが無事に帰ってきたことに安心して、涙を流していた。

大輔のおじちゃんは泣いて怒るおばちゃんをなだめ、げんこつされたあたしたちの頭を撫でてくれた。




「綾女!」


あたしを読んだのはお父さんだった。

どうしてここに・・・

正直お父さんがあたしを探しているとは思わなかった。

あたしよりもあの人を大切にしているお父さんは、あたしがいなくなって清々してるんじゃ、と思っていた。

そんなお父さんが、あたしを探してくれていた。

いつもきっちりセットしている髪の毛は崩れているし、走り回ったのか服もよれよれになっている。


「心配した。」


そういいながらあたしを抱きしめた。

お父さんに抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。

久しぶりのぬくもりは、当たり前だけどお父さんの匂いに溢れていた。




「司!」


声の主は、司のおじさんとおばさん、それに高校生のお姉さんだった。

おばさんとは何度か学校で顔を合わせたことがあったが、おじさんとお姉さんは初めてだった。


司もお姉さんもお父さん似なんだな、なんて思ったことを覚えている。

お姉さんは司をそのまま大きくしたようなきれいな人だった。

おじさんはすらっと背の高い、渋い感じの人。

目元も通った鼻筋も薄い唇も、司とよく似ていた。


パチンッ!


その渋いおじさんが、司の頬を叩いた。

おじさんはそのまま司を連れてあたしとお父さんの所へ来た。


「お嬢さんをこんな時間まで連れまわしてしまい、大変申し訳ありません。」


司のお父さんが、その隣で司も同じように頭を下げる。


違う。

連れまわしたのはあたしのほうだ。

司はあたしに付き合ってくれていただけ。

それを告げたけど、それでも悪いのは司だよ、とおじさんはあたしにいった。

後からそばにやってきた、おばさんにも謝られた。




少し離れたところでお父さんと司のおじさんおばさん、大輔のおじちゃんおばちゃんはお互いに頭を下げあっている。

当事者であるあたしたちは、子猫のダンボールのそばでバツの悪い思いでいた。






子猫たちはとりあえず、大輔の家に連れて行くことになった。

またこんなことをされては困ると思った大人たちが、貰い手が見つかるまでちゃんと面倒をみることにしたからだ。

少し惜しい気持ちでいたけど、帰ってしっかり休んだら子猫に会いに行く約束をしてお父さんと手をつないで家に帰った。




あたしたちの短い旅は、こうして終わりを告げた。




この旅の主人公はあたしたち三人と子猫たちだけど、捜索に駆り出された大人たちは思った以上に多かった。

親たちだけではなく繁華街であたしたちに逃げられた警察官、学校の先生たち、町内会のおじさんおばさんと数えればきりがない。

何年もたった今でさえ、この時期に顔を会わすとあの時はねぇ、なんて言われたりするくらい大事になっていた。




お父さんと家に帰ると、あの人はいなかった。

どこに行ったのとは聞かなかった。

帰り道にお父さんに言われたからだ。


「あの人はもういないよ。これからはお父さんと二人でさびしいかもしれないけど・・・」


そんなことないという変わりに、お父さんの手をぎゅっと強く握った。

お父さんは反対の手で頭を撫でてくれた。



あたしはやっと家に帰ってきた。

お父さんとあたしの家に。







ゆっくり休んで、夕方から大輔の家に行った。

もう司も来ていて二人は子猫と遊んでいた。

さくらんぼの瞳をキラキラさせたチェリーが迎えてくれた。


「遅かったなぁ!」


大輔はやっぱりお嬢のおなかをくすぐりながら、にかかっと笑って言った。


「ちゃんと眠れた?」


司はセイの喉元を撫でながら聞いてきた。


「うん!お昼ご飯食べてまた寝ちゃったくらいだよ!」


そうなんだ。

本当はもっと早く来ようと思っていたのに、お昼ご飯のあとリビングでお昼寝してしまった。

目が覚めるとだいぶ時間がたっていて、あわててやってきたのだ。




子猫と遊んでいるとあっという間に時間が流れていく。


「そろそろ始めるわよー。」


おばちゃんの声に呼ばれ、大輔の店の小上がりに集まる。


「わぁっすごい!!」

「おぉーごちそうじゃん!」


あたしと大輔が大喜びする。


「はいはい、ちゃんと座りなさいよ。大輔と司くんはこっち、綾ちゃんはそこね。」


おばちゃんがテキパキと指示する通りに座った。

テーブルの上にはごちそうが所狭しと並べられている。


「じゃあ電気消すからね。暴れちゃだめよ。」


あたしの前にろうそくを立てたケーキが置かれる。

大好きなイチゴがたくさんと“あやめちゃんおめでとう”と書かれたチョコレートが乗っている。




今日はあたしの誕生日会だ。

この日は毎年小料理屋をお休みにして、大輔の家で祝ってもらっている。

お父さんは仕事で最初から参加することは少ない。

今日もまだ来ていないけど、絶対来てくれるって朝の出勤前に約束をした。


お父さんと、大輔家族以外でこの日に集まってくれる人は今までいなかった。

でも今日はここに司がいる。

それがなんだかくすぐったくて、そしてうれしかった。




ろうそくを吹き消して、誕生日会が始まる。

おめでとうといっぱい言われて、おいしい料理をいっぱい食べて目いっぱい楽しんだ。


宴もたけなわとなってきたところに、お父さんが帰ってきた。

遅くなってすみませんなんて、おばちゃんおじちゃんに言っている。

昔からの知り合いだけど、お父さんはあんまり周りの人にくだけた態度をとらない。

根が真面目なんだと思う。


「遅くなったね。」


あたしのそばにやってきたお父さんが言う。


「お帰りなさい!もうおなか一杯だよ。」


ケーキまで平らげたあたしは、本当におなか一杯だった。

お父さんが何か持ってきたみたいだけど、それはもう食べれそうにない。


「これは食べ物じゃないよ。誕生日プレゼントだ。」


お父さんはそう言いながらあたしに持っていた紙袋を渡す。

いつも誕生日プレゼントはあたしのほしいものを買いに行っていたから、お父さんだけで選んでくるなんて驚いた。


「え!?そうなの?」


「開けてごらん。たぶん気に入ると思う。」


言われるままに、ドキドキしながら袋を開ける。

小さな箱の包みをほどき、ふたを開ける。

中には赤い首輪が3つ入っていた。


「家で飼えるのは一匹だけだよ。でもせっかくだからみんなお揃いにしたらいいと思ってね。」


夢みたいだった。

飼っていいんだ、連れて帰れるんだ。


「ありがとう!!すごいうれしい!!」


喜んでいうあたしを見て、お父さんも笑った。

そばで見ていたおじちゃんおばちゃんも笑っていた。


「よかったじゃん綾女!」


「よかったね。」


大輔も司も一緒に喜んでくれた。

首回りはみんな真っ白だから、赤がよく映える。

さっそくつけようと思ったけど、子猫の首には大きすぎた。

もう少し成長してからつけることにした。




その夜、さっそくチェリーを連れて帰った。

家には猫を飼うために必要なものが一式、そろえられていた。

これもまとめて誕生日プレゼントだった。

チェリーがそばにいることがうれしくて、なかなか寝付けなかった。






残ったセイも一週間後、貰いい手が決まった。

司のお姉さんの友人で隣町に住む人だった。

あたしたち三人は、セイと一緒にお揃いの首輪を渡した。

セイを連れて行くその人は、大きくなったらつけるね、いつでも会いに来てね、と言ってくれた。

とても優しそうな人で安心した。







あたしたちは、それからだいたい三人一緒に遊んだ。

大輔の家かあたしの家で、お嬢とチェリーと一緒に遊んだ。

司の家にも行くようになった。

おねえさんがときどき、セイの写真を見せてくれたりもした。

すっかり大きくなった猫たちの首をお揃いの赤い首輪が彩っている。

首輪はしばらくすると痛んできてしまったので、新しいのに変えた。

お嬢とチェリーはやっぱりお揃いにしたけど、セイの首輪は買えなかった。

セイを引き取ったお姉さんの友人一家は、半年後に遠くの町へ引っ越してしまっていたから。

さびしいけど、きっとセイもあの優しそうな人の家で幸せにしていると思う。

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