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7 顕現、あるいは女神による最悪の自作自演

 翌朝。俺たちは街の出口付近で、さっそく物理的な壁にぶち当たっていた。文字通り門が狭くて三人並んで通れないのだ。


「なぜ私が貴方のような不純物と体を密着させ、カニの真似事をしてまでこの門を通らねばならないのですか? いっそこの門を街壁ごと切り崩して道を広げましょうか?」


「やめて! 修理費で破産する! ちょっと身体を斜めにして……そうそう息を止めて!」


「マスター、そんなに焦らなくても。このまま挟まって動けなくなれば、永遠にここで密着していられます」

「それなんていう公開処刑!」


 リードで繋がれた状態での移動は困難を極めた。アイリスの機嫌は朝から最悪で周囲の気温が常に氷点下だ。エナはエナで隙あらば俺のポケットに手を突っ込んでくる(なにを探っているのかは怖くて聞けない)。


「はあ……これから地下寺院の迷宮だっていうのに先が思いやられるな」


 俺が深い深い溜め息を吐いた時だった。


 ピロリーン♪


 脳内に響く、あの軽薄な通知音。俺の背筋が凍りつく。


『やっほーカイト君! 女神のルナちゃんだよ★ これからダンジョン攻略だよね? 難易度高いらしいから女神様からのスペシャルな応援プレゼントを用意したよ!』


 目の前の空間が歪み『ドォン!』という重い音とともになにかが空から降ってきた。それは場違い極まりない、極彩色の巨大な筐体だった。商店街の隅に置いてあるようなレトロなレバー式のやつだ。


「なんだこれは……新手の粗大ゴミですか?」


 アイリスが冷たい目で筐体を見下ろす。


『名付けてお助けサポートガチャ! 今なら初回無料! さあ、回して回して!』


「嫌な予感しかしないんだけど……」


 だが俺の幸運値が勝手に反応したのか、それとも女神の強制力が働いたのか、俺の手は勝手にレバーを掴み回してしまった。


 ゴロン、ゴロン、カプッ!


 取り出し口に金色のカプセルが転がり落ちてくる。


『おめでとーっ! なんといきなりのウルトラレア! さてさて、中身はなーんだ?』


 カプセルが眩い光を放ち弾け飛ぶ。アイリスが反射的に魔剣の柄に手をかけエナが俺の前に障壁を展開した。


 光が収束してそこに現れたのは――


「じゃじゃーん! みんなのアイドル、女神ルナちゃんご本人登場でーす! パチパチパチ!」


 そこにいたのはチャットアイコンで見た通りの、キラキラした装飾過多なドレスを着た銀髪の少女――この世界の創造主にして諸悪の根源――女神ルナその人だった。彼女はVサインを作りウインクを飛ばしてくる。


「……………………は?」


 俺の思考が停止した。


「あら? カイト君、感動で声が出ない? まさか女神が直接参加してくるとは思わなかったっしょ? 特別サービスだよ、感謝してね!」

「いや、なんで? なんで出てくるんだよ!」


「えー、だってぇ! モニター越しに見てるだけじゃつまんないし? 絆のリードで繋がれた三人のドタバタ劇、特等席で見たいじゃん? というわけで私もパーティに入れてねっ★」


 その瞬間。世界から音が消えた。


 ――ヒュンッ!


 俺の動体視力では捉えきれない速度でアイリスが抜刀していた。神速の魔剣が女神ルナの首を正確に薙ぎ払う――はずだった。


 カィィィィィン!


 甲高い金属音が響き魔剣がルナの首の皮一枚手前で見えない壁に弾かれた。


「――っ!」


 アイリスが驚愕に目を見開き、バックステップで距離を取る。


「ほう……私の剣を防ぎましたか? この世界で私の刃が届かぬものなど存在しないはずですが?」


 ルナは首を傾げ、ニヤニヤと笑った。


「あはは! 残念でしたーっ! アイリスちゃん、君は確かに『この世界で最強』の剣士設定だけどさ、私は『この世界の女神』だからね! 創造主権限で無敵モードONにしてるから、物理攻撃は一切効かないんだなーこれが!」


「ちっ……女神……最も醜悪で最も排除すべきバグそのものですね」


 アイリスが心底忌々しそうに舌打ちをする。


「演算結果を報告します、マスター」


 エナが冷静に眼鏡を押し上げた。


「目の前の個体:女神ルナ。戦闘能力ゼロ。知能指数、測定不能。おそらく低過ぎて数値化できません。ただし特殊スキル『絶対無敵』を保有。結論。非常に邪魔でうるさく非効率的な存在です。リソースの無駄遣いですね」


「ひっど! 知能指数低過ぎってなに? 私、女神だよ!」


 ルナがぷんすかと怒るが誰も聞いていない。


「この騒がしい粗大ゴミを、どこかの異次元に廃棄する方法はないのですか?」

「マスター、この個体が加わることでパーティの騒音レベルが規定値をオーバーします。防音結界を展開しましょうか?」


「ねえねえ、無視しないでよーっ! これから四人で楽しいダンジョン攻略じゃん! あ、私は戦わないから安心してね! 後ろで応援しながらスクショ撮る係だから!」


 俺は天を仰いだ。仲間全員が劇薬。混ぜるな危険のオンパレードだ。しかも俺たち三人は現在物理的に鎖で繋がっている。


「なあ、ルナ。まさかとは思うけど君がこのリードを支配するのか?」


「あ、それは大丈夫! 私は女神だから対象外! 自由に動き回って、みんなの恥ずかしい姿を激写するよ」


「帰れよ!」


 俺の絶叫は朝の街に虚しく響き渡った。異世界攻略パーティは最悪の形で完全体となり、混沌の地下迷宮へと足を踏み入れることになる。

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