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第9話 足元の白

白は、

どこにでもあった。

花の間。

椅子の下。

人の影の隙間。

月乃のドレスは、

そこに広がっていた。

八歳のわたしは、

もう知っていた。

足元は、誰も見ない。

みんなは顔を見る。

笑顔を見る。

写真を撮る。

下なんて、

誰も気にしない。

控室から、

式場へ向かう通路。

人が行き交って、

音が重なる。

その真ん中で、

白い布が揺れている。

月乃は、

前を向いていた。

背筋が伸びていて、

振り返らない。

わたしは、

少し後ろを歩いた。

近すぎない。

離れすぎない。

ちょうど、

影に入る距離。

ドレスの裾が、

床に触れている。

わたしは、

靴の先を出した。

軽く。

ほんの少し。

踏む、というより、

引っかける。

歩きにくい。

でも、止まらない。

月乃は、

何も言わない。

顔色も変えない。

それが、

分かっていたから。

スタッフが気づく。

「少し整えますね」

月乃は、

「ありがとうございます」と言う。

その声は、

いつも通りだった。

優しくて、

静かで。

誰も、

わたしを見ていない。

誰も、

足元を見ていない。

だから、

もう一度。

今度は、

少し長く。

わざとじゃない、

と言える範囲で。

でも、

確実に。

心臓が、

どくどく鳴る。

怖くない。

楽しくもない。

ただ、

落ち着く。

月乃は、

一度だけ足を止めた。

ほんの一瞬。

でも、

振り返らない。

その背中が、

やけに遠かった。

式場に入ると、

光が強くなった。

白が、

もっと白くなる。

拍手が起きる。

月乃が歩く。

ドレスが、

きれいに流れる。

もう、

踏まない。

ここでは、

十分だった。

わたしは席に戻る。

何もなかった顔で。

何も知らない顔で。

周りの大人たちは、

前だけを見ている。

そのとき、

はっきり分かった。

壊さなくていい。

奪わなくていい。

歩きにくくすればいい。

相手が立ち止まらない限り、

誰も問題にしない。

八歳のわたしは、

白い布を見つめながら、

静かに覚えた。

邪魔は、

見えないところでやる。

それが、

いちばん長く残る。

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