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第8話 白い入口

八歳のとき、

叔父さんと月乃は結婚した。

その日は、

朝から家の空気がちがっていた。

大人たちは落ち着かなくて、

笑っているのに、忙しそうだった。

わたしは、

何をすればいいのか分からなかった。

会場に入った瞬間、

目が痛くなった。

白。

白。

白。

花も、布も、壁も、

全部が白くて、

どこを見ても逃げ場がなかった。

その中心に、

月乃がいた。

ドレスは、

思っていたよりずっと大きかった。

ふわふわして、

床に広がって、

人の流れを変えていた。

誰かが歩くたびに、

白い布が動く。

きれい。

でも――

邪魔。

最初に浮かんだのは、

その言葉だった。

叔父さんは、

タキシードを着ていた。

知らない服。

知らない靴。

少しだけ、

遠い人みたいだった。

でも、

わたしを見ると、

ちゃんと笑った。

「心晴、今日はよろしくな」

その声は、

いつもの叔父さんだった。

胸の奥が、

少しだけ落ち着く。

月乃は、

遠くにいた。

人に囲まれて、

動けないでいる。

呼ばれて、

止まって、

また呼ばれて。

わたしの方を、

一度も見ない。

見えない。

それが、

急に腹立たしくなった。

控室の近くは、

人が多くて、

足元を見ている人はいなかった。

ドレスの裾が、

床に広がっている。

どこまでが端なのか、

分からないくらい。

わたしは、

一歩、前に出た。

踏んだ。

ぎゅっと。

強すぎない。

でも、

気づく人には分かるくらい。

わざとじゃない、

と言える程度。

でも、

分かってやった。

「……あ」

小さな声がした。

月乃の声。

誰も反応しない。

スタッフがすぐに来て、

裾を整える。

月乃は、

笑って言った。

「大丈夫です」

その言葉が、

胸を強く叩いた。

――また、それ。

何も言わない。

怒らない。

責めない。

正しい。

だから、

余計に苦しい。

叔父さんのところへ行く。

「おめでとう」

背伸びをすると、

叔父さんは自然にかがんだ。

わたしは、

そのまま近づいた。

顔と顔の距離が、

一瞬、なくなる。

触れそうで、

触れないくらい。

子どもが甘える、

その程度。

周りが、

少しだけ笑った。

「かわいいね」

叔父さんも笑って、

「ありがとう」と言った。

その声が、

耳に残った。

月乃の方は、

見なかった。

式が始まる前、

白い布がまた動く。

月乃が、

歩く準備をしている。

わたしは、

その後ろに立った。

何も言わない。

何もしない。

ただ、

そこにいる。

この日、

わたしは知った。

壊さなくても、

怒鳴らなくても、

入れる場所がある。

白い日に。

二人の間に。

それは、

始まりの入口だった。

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