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第7話 八歳の完成

八歳の後半、

わたしはもう、泣かない。

欲しいものがあっても、

声を上げない。

顔も歪めない。

作るのは、空気だけ。

月乃は、

完全に線を引いていた。

触れない。

預からない。

頼らない。

「それは、ここに置こうね」

「それは、月乃が使うものだよ」

やさしい声。

迷いのない判断。

正しい。

――だから、

削る。

その日、

月乃は書類をまとめていた。

叔父さんの仕事の紙。

きれいに揃えて、

端をそろえて。

わたしは、

何もしない。

ただ、

一枚だけ、位置をずらす。

ほんの少し。

気づかない程度。

夜。

叔父さんが探す。

「あれ?」

月乃は、

すぐに対応する。

「ごめん、確認するね」

慌てない。

責めない。

正しい。

――だから、

疑わせる。

わたしは、

何も言わない。

机の横で、

静かに立つ。

目を伏せて、

指先を絡める。

それだけ。

叔父さんが言う。

「最近、

 月乃、少し抜けてる?」

冗談みたいな声。

悪意は、ない。

月乃は笑う。

「そうかな」

笑って、

取り繕う。

その一瞬、

評価が下がる音がした。

夜、

月乃は紙を見つけた。

元の場所に、

きれいに戻す。

何も言わない。

誰も責めない。

取り返す。

でも、

空気は戻らない。

布団の中で、

わたしは思う。

壊していない。

奪っていない。

ただ、

選ばせただけ。

八歳のわたしは、

理解していた。

正しい人は、

説明をしない。

だから、

疑われる。

被害者は、

何もしない。

だから、

守られる。

次の日、

叔父さんは、

わたしに言った。

「心晴は、

 気が利くな」

その言葉が、

胸に落ちた。

温かくて、

冷たい。

わたしは笑う。

いい子の顔で。

何も知らないふりで。

八歳のわたしは、

もう戻れないところまで来ていた。

でも――

勝っている気がした。

それで、

十分だった。

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