第4話 叫び
七歳のころ、
わたしの泣き方は変わった。
止まらない。
息が詰まっても、声が枯れても、
身体が命令するみたいに叫ぶ。
欲しいものが、
手に入らないときだけ。
その日、
月乃は新しいブローチをつけていた。
小さくて、丸くて、
光をためるみたいなやつ。
叔父さんが言う。
「それ、いいな」
その一言で、
胸の奥がひっくり返った。
「ほしい」
声が低く出た。
もう、お願いじゃない。
「心晴、それは月乃のだよ」
叔父さんの声が、
やさしくて、遠い。
次の瞬間、
わたしは床に座り込んだ。
「いや! ほしい!
なんで! なんで!」
喉を裂くみたいに叫ぶ。
涙が勝手に出る。
頭が熱い。
月乃は、
一歩だけ下がった。
近づかない。
触らない。
七歳のわたしにも分かる、
大人の距離。
それが、
いちばん腹が立つ。
「ちがう!
あの人のだから、いや!」
床を叩く。
足をばたつかせる。
叫びながら、
わたしは見ていた。
叔父さんの顔。
月乃の目。
月乃は、
声を荒げなかった。
「これはね、心晴ちゃんのじゃないの」
ただ、それだけ。
怒らない。
説教しない。
線を引くだけ。
その瞬間、
胸が冷たくなった。
――拒否。
泣き叫んでも、
ブローチは来なかった。
叔父さんは、
わたしを抱き上げる。
「今日はおしまい」
月乃は、
ブローチを外して、
引き出しにしまった。
渡さない。
でも、
奪い返さない。
管理する。
それが、
七歳のわたしには
いちばんの敗北だった。
夜、
喉が焼けている。
でも、
眠れない。
泣いてもだめ。
叫んでもだめ。
じゃあ――
騒がない。
次の日、
引き出しを開ける音がした。
月乃の指が止まる。
ブローチが、
ない。
わたしは、
何も言わない。
叔父さんの前では、
いい子の顔。
月乃も、
何も言わない。
その沈黙が、
胸をくすぐった。
――取れた。
壊していない。
捨てていない。
持っているだけ。
その夜、
手のひらにブローチをのせる。
冷たい。
重い。
泣き叫ぶより、
ずっと静かで、
ずっと気持ちいい。
七歳のわたしは、
はっきり学んだ。
欲しいものは、
声じゃなく、
影で取る。
そのやり方が、
あとで自分を孤独にするなんて、
まだ知らなかった




