第3話 集めるという癖
五歳になるころ、
わたしは「集める」ようになった。
最初は、偶然だった。
叔父さんの家の棚に、
小さなアルバムがあるのを見つけた。
月乃の写真。
結婚する前のもの。
笑っている顔。
伏し目がちの横顔。
胸が、きゅっと鳴った。
見るだけ。
触るだけ。
それだけのはずだった。
一枚、抜けても
誰も気づかない気がした。
わたしは、
そっと写真を引き抜いた。
心臓がうるさかった。
走って逃げたわけじゃない。
泣いたわけでもない。
ただ、
手のひらが熱かった。
家に帰って、
引き出しの奥に隠した。
夜、
布団の中で広げる。
月乃は、
いつも笑っている。
わたしは、
いつも見ている。
並べてみる。
自分の顔と、比べる。
どこが違うのか。
どうして違うのか。
目。
輪郭。
笑ったときの影。
「……ずるい」
声に出すと、
少し楽になった。
だから、
また集めた。
六歳になるころには、
方法を覚えた。
誰も見ていない時間。
誰も来ない場所。
アルバムだけじゃない。
年賀状。
写真立て。
小さな切り抜き。
全部、
引き出しの奥へ。
壊さない。
捨てない。
だって、
欲しいのは破壊じゃない。
比較。
月乃と、わたし。
それをするたび、
胸がざわついた。
ある日、
月乃が気づいた。
「……写真、減ってる?」
声は、静かだった。
怒っていない。
そのことが、
怖かった。
叔父さんが首をかしげる。
「そうか?」
月乃は、
それ以上言わなかった。
その夜、
月乃は写真を戻していた。
元の場所に。
きれいに。
わたしの引き出しは、
空になっていた。
――取られた。
胸が、ひっくり返った。
初めてだった。
奪ったものを、取り返されたのは。
月乃は、
わたしを責めなかった。
問い詰めもしない。
名前も出さない。
ただ、
静かに距離を取った。
それが、
いちばん効いた。
わたしは泣いた。
でも、誰にも言わなかった。
その夜、
心の中で思った。
次は、
もっと上手にやる。
気づかれないように。
取り返されないように。
五歳のわたしは、
まだ知らなかった。
それが、
月乃に勝てない理由そのものだということを。




