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住人とランチ

更新遅くなりましたm(_ _)m

 コーン! コーン! サンが示す方向に歩みを進めていると、音は次第にはっきり、リズム良く聞こえるようになってきた。


 その音はマツダイラのメガホンのそれと少し違い、小気味良いがどこかマコトを安心させるものだった。


 「出口近いのかな。食べ物売ってる屋台とかあるといいな。」


 やがて1本の木の近くに、小学1年生くらいのシルエットが見えてきた。


 「あ、子供かな? 食べ物分けてもらえるかな。」


 異世界の住人との初遭遇とはいえ、子供なら安心という気持ちもあり、マコトの気持ちは少し軽くなる。


 近づくにつれて、次第に住人の容姿が見えてきた。

 輝くような金色のロングヘアー、透き通るような白い肌。

 体には1枚の大きな葉を巻きつかせるように身につけている。


 どこか神秘的な雰囲気をまとったその住人は、棒で三日月型の木の幹を叩いている。

 棒の長さは30センチくらいで、太さはガラガラの取っ手とちょうど同じくらいにみえた。


 その棒で木の幹を叩くと、見た目に反して『コーン!』とよくとおる音がして梢が振動する。

 その際に飛び散った水をシャワーのようにして水浴びをしているようだった。


 キラキラと美しく木漏れ日を反射する水しぶきに目をやり、マコトは声をかける。


「……あの、ちょっとお腹が空きまして。」


 若干の動揺もあって、マコトの口から出たのはそんな言葉だった。

 その言葉でマコトの存在に気付いた様子の住人は、軽く髪をかき上げながら振り向く。


「あ……」


 マコトは少し戸惑い、小さくつぶやいた。


 白人の女の子かと想像していたが、輝く金髪からのぞかせたその顔は、どうみても50歳は過ぎているであろう、おじさんのそれだった。



 動揺するマコトを見て、住人も少し戸惑ったようにマコトを見たが、視線はすぐにハッピについたステッカーに向く。

 まるで古い友人から久々に届いた手紙を読むように、複数のステッカーをひとつずつ見てから、再びマコトの顔に目をやる。

 その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。


 なるほど……。

 マツダイラ関係の人かな、音似てたし。


「えっと、すみません、お昼ご飯をどこかで食べられないでしょうか。」


 住人の不思議さに理解が追いつかなかったマコトは、空腹感に意識のほとんどを向けていた。


 お腹に手を当て、見た目にも空腹感がにじみ出るマコトの様子を、住人は少し心配そうに見たが、やがて思い出したように棒を振った。


 住人が振った棒の先端からは、ビー玉くらいの小さな光が輝く。

 光は次第に大きくなり、やがて淡く光り輝く水の入った木製の小さな器が出現した。


 器はフワリとマコトの方へ移動し、マコトはそれを受け取った。


「あ、ありがとうございます。」


 マコトが受け取ると、もう一度棒を振り、当たり前のようにサンにも器を差し出した。


「え、サン水とか飲めるの?」


 差し出された器にサンを近づけるが、何の反応もなかった。


「あの、サンはお水飲まないみたいです。」


 住人は少し間を置いたのち、若干首をかしげてから棒を一振りして器を消した。


 森の中は適度な湿気を保っていたが、歩き続けたことで喉が乾いていたマコトは小さめの器に入った水を飲み干す。


「わー、すごくおいしい水ですね。……あの、お腹も空いていまして、食べ物をもらえないでしょうか?」


 遠慮がちに言うマコトを、住人は何も言わず笑みを浮かべながら見ている。


 やっぱり日本語通じないのか。

 英語はどうかな?


「ハロー、アイアムマコト……」


 えっと、ハングリーで合ってるよね。

 話しかけようとすると、


「るるるぅ。」


 住人がマコトに、分かるよ、とでも言いたげな表情で優しく言葉を発した。

 そして再び三日月型の木に向き直り、棒で『コーン!』と叩き始める。


 なるほど、言葉が違うのかな。

 異世界だし、そうだよね。


「あの……」


 再び声をかけると住人は軽く髪をかき上げながら振り向く。


 マコトはとっさにお寿司を醤油につけて食べるジェスチャーをして、住人を見た。


 ……これ違うか。


 そう思ったマコトだったが、住人は納得したように棒を振る。

 光がマコトのこぶし程度まで大きくなると、オレンジ色の果実が出現し、マコトの方までゆっくり移動してきた。


「ありがとうございます。」


 通じないとはいえ、習慣からお礼を言って果実を受け取る。


 完全にみかんだよね。

 大丈夫だよね。

 って、食べ物って魔法でできるのか。


 みかんを無難に食べ終えたマコトは、皮の捨て場所に困り、住人に皮を見せる。

 住人が棒を振ると、皮は土に変わり、マコトの手からサラサラと崩れ落ちた。


 えー、土だったの? これ。

 食べちゃったよ。すごい甘くて美味しかったけど……。

 皮が土に変わったのかな? そうだよね。 魔法だからね。


 自分に思い込ませ、自分は異世界の森でみかんを食べた、という思い出として定着させた。



 ちゃんとお昼食べたいな。

 やれるだけやってみようかな。

 何にしよ。


 マコトは小学4年生のときに行った、近所にあるショッピングモールでの出来事を思い出した。



 夏休み、小学3年生のときに観たアニメ映画の続編が公開されたので、マコトは家族で観にいきたいと両親にお願いした。

 映画の内容にはあまり興味がなかったが、なんとなく楽しかった、という記憶があり、ワクワクとその日を待った。



 当日、母親の勤めている会社から緊急の呼び出しがあり、母親が休日出勤になった。


 母親は「ごめんね、2人で観に行ってきて。」と言ったのだが、どこか申し訳ない気持になったマコトは、「やっぱりおもちゃ屋さんに行きたい。」と父親に笑顔で告げた。


 父親は驚いた後に「気まぐれだなぁ。」と笑った。


 ショッピングモールに入っていたおもちゃ屋を一通り見たが、もともと欲しいものはなかったため、すぐに見終わってしまった。


 少し居心地が悪くなったマコトは父親を見やると、「ハンバーグの定食たべたい! スパゲッティーとゼリー付いてるやつ!」と言って混雑したフードコートに向かった。

 父親が席を取っている間に、マコトはひとりでハンバーグ定食を注文しに行くことになった。


「ハンバーガーセットください!」


 少し緊張したマコトの口から出たのは、そんな言葉だった。


 ハンバーガーとフライドポテトとオレンジジュースが乗ったお盆をテーブルに置き、マコトは席に着いた。

 定食とは程遠い内容を見た父親は「本当に気まぐれだなぁ。」と嬉しそうに笑った。



 ハンバーグ定食か。魔法の名前はハンバーグ・ランチでいけるかな?

 みかん食べたし、デザートはお願いしなくてもいいかな。

 ハンバーグとご飯と付け合せとジュースにしよう。


 マコトはサンを目の高さにかざす。


「ハンバーグと付け合せ、ご飯とジュースもお願いします。ハンバーグ・ランチ!」


 小さな光がサンの前に現れ、次第に大きくなっていく。

 やがてお盆に乗ったハンバーグ定食が宙に出現した。


 鉄板に乗ったハンバーグは、ジュージューという美味しそうな音を立てている。

 ハンバーグの横には福神漬けがパチパチと音を立てながら元気よく乗っていた。


 ちょっと思ってたのと違うな……。


 複雑な笑みを浮かべるマコトだったが、にぎやかに音を立てる鉄板の他に、お皿に盛られたご飯とオレンジジュース、少し大きめのフォークが乗っているのを見て、魔法ってすごいな、と心の中でつぶやいた。


 お盆を手に取り住人を見ると、切り株の形をしたテーブルと2人分の小さな椅子を作り出しているところだった。


 あ、一緒に食べるのか。

 さっきのお礼に作ったら食べてくれるかな。

 少なめの、キッズセットみたいな感じで大丈夫かな。


「ちょっと待っててくださいね。」


 通じないと思いながらも、片方の椅子に腰掛けてこちらを見ている住人に一応声をかける。

 テーブルの空いている方の席の前にお盆を置くと、もう一度サンを目の前にかざす。


「今度はちょっと小さめでお願いします。ハンバーグ・ランチ・キッズセット!」


 再び小さな光が現れ、先ほどよりも明るく輝く。

 やがて見覚えのあるキャラクターが描かれたお盆の上に置かれたプレートには、美味しそうなハンバーグとスパゲティーがきれいに盛り付けられてあり、小さめのブロッコリーとニンジンも2切れずつ添えてあった。


 それを確認したマコトは、再び複雑な笑みを浮かべながら、お盆を手に取り住人の前に置いた。



 あ、オレンジジュースか。

 みかんとかぶっちゃったな。


 椅子が小さすぎて座れなかったマコトは、テーブルをはさんで住人の向かいにあぐらをかきながら食べていた。


 会話のない昼食だったが、美味しそうに食べる住人を見たマコトは、心の乾きが少しだけ潤っていくような、心地よい空気を感じていた。


 ……いいところだね。

 ハッピの腰の近くに張り付いたサンに一度目を向けてから、笑顔で福神漬けを口に運んだ。

 そのうち少し改稿するかもしれません。

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