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邂逅のはじまり

 お読みいただきありがとうございます。

 小説家になろうの作品を読むのは大好きなのですが、この作品のアウェイ感が強いので、カクヨムさんにも投稿させていただくことにしました。

数日更新が滞るかもしれません。

「もうお昼かー。お腹すいてきたな。道あってるよね? まぁ道はないけど。」


 スマホで時刻を確認すると正午にさしかかろうという時間だった。

 先程示された方向に歩き始めてから、約30分が経過していた。

 全く景色が変わらないことに、何か見落としているのではないか、との疑問が浮かぶ。

 一度足を止め、封筒とその中に入っていた上質な厚紙をハッピのポケットから取り出した。


「隠されたヒントとかあるのかな。」


 既に独り言とはいえない大きさの声でバールのようなものに話しかける。

 棒倒しの一件から、マコトはバールのようなものに一種の親しみを抱いていた。

 ただし封筒はその限りではないため、躊躇なくステッカーをはがし始めた。


「あー、もーすごい粘着力なんだけど。」


 やがてステッカーはピリピリと音を立てながら、封筒の表層とともにはがれた。

 ヒントが書いてあることを期待してその裏面を見るが、何も書かれていない。


「なんかないのー。」


 2枚のステッカーと、1泊2日の厚紙を調べ終えたマコトは地面に座ってバールのようなものを見ていた。

 土を丁寧に払って長い柄の中ほどをよく見ると、そこには『同行二人』と彫ってあった。


「どうこうふたり? あと二人来るの? ……やっぱり赤い玉出した人かな。」


 しばらく木の器に落ちる水を見ながら考えたが、この工具の名前だろうとの結論に至った。


「ちゃんと名前あるのか。あ、同行ニんてこと?これは同行人かな?」


 変わらない景色と絶え間ない水音によって、マコトの意識は半ば朦朧としていた。

 また木の器に目をやり、せっかくなので同行人の名前を考え始める。


「えー、名前ってどうやってつけるのかな。」


 マコトはペットを飼ったことがなかったし、持ち物に名前をつけたこともなかった。

 両親共働きの家に一人っ子として生まれ、多くの時間を保育園や小学校で過ごした。

 ひとり家で留守番をすることも多かった。


 保育園や学校では『ふつう』であることを学び、また家では孤独であることに慣れていった。

 ペット禁止のマンションだったため、ペットを飼うこともなかった。

 ひとりでいるときは、やるべきことをやる時間にその大半を当てた。

 宿題が分からず時間が過ぎていくこともあったし、野菜をちぎって簡単なサラダを作ることもあった。

 名付けとは無縁の生活だった。


 しばらく名前について考えていたが、具体的なことは何も思い浮かばない。

 額に手をやり、途方にくれたように木漏れ日のもとをたどり上を向く。

 木々の隙間から鋭い陽差しがマコトの目にささる。


「まぶしー! あ、さっき光ってたし、太陽みたいなの、アース! ん? サン!? サンかぁ……。」


 そのままマコトの思考は止まり、バールのようなものの名前はなし崩し的に『サン』に決まってしまったのだった。



「よし! サン、もう一回お願いね。」


 脳が逆回転をはじめたように明るい気分になったマコトは、親しみを込めた口調でサンに話しかける。

 親しいその存在を、深々と地面に突き刺した。

 そのまま数歩後退し、倒れるのを待つ。


「次はゆっくり刺そう。」


 振動ののち淡く光を放つサン。

 土を押しのけながらマコトの方に傾き、一度垂直に戻る。


「あ、サンやっぱり迷ったよね。」


 笑みを浮かべながら語りかけるマコト。

 サンはそんなマコトの方に一度振り向くような動きをしてから、土を押しのけつつマコトと反対の方向に移動し始めた。


「えー、動けるんだ。っていうか土メリメリいってる。いいよ、持つから。方向だけ教えて。」


 小走りでサンに近付き、友人の肩に手を置くような手つきで柄の短い方を握り、優しくサンを引き抜いた。

 手に軽く引かれるような力を感じ、その方向に歩き出した。


「もうこれ、違うよね。地球じゃないよね。何か、全体的に。異世界? 来たのかな。色々持ってくればよかったな。」


 こうして異世界転移を自覚したマコトであった。



 「異世界かぁ。っていってもな、サンは伝説の武器みたいに見えないし、これ以上アイテムとかもらえる気しないし。赤だったもんな、福引……。」


 そう言いながらも少し愛おしそうにサンを見やるマコト。

 剣でも杖でもなく、バールのようなものを自分が持たされたのは、福引がハズレに近かったせいかもしれないと考えていた。

 それでも不思議な力を持ったその存在は、マコトにとって頼れる相棒という認識になっている。


「使えるのかな、魔法とか……」


 少しワクワクしながらも、しかしおそるおそる口にする。



 小学三年生の夏休み、両親とも休日出勤がなかったある日、どこか行きたいところはないか、と質問されたことがあった。

 特に思い浮かばなかったマコトは、学童保育でうわさになっていたアニメ映画の名前を告げた。

 それを聞いた両親は、マコトが『ふつう』に育っていることに少し安堵した。


 その日以降、流行りのアニメをテレビで見る、という項目がマコトの『やるべきこと』の中に追加された。

 ただアニメはどこか、他人のために作られたもの、という感じがしていた。



 「ん? あんまり覚えてないかも。」


 魔法について、具体的な考えが思い浮かばなかった。


「呪文とか自分で作るのかな。」


 しばらく考えながら歩き、ゆっくりと足を止める。

 サンも同様にマコトの手を引く力を止める。


「……お願いして、魔法の名前で呪文になるのかな? せっかくだし、一応やってみるか。」


 立ち並ぶ木々の一本に向き直る。


「葉っぱを揺らすくらいなら問題ないよね。」


 少し緊張した面持ちで木の枝に生えている一枚の葉を見ながらサンをかざす。


「ん。揺れるだけで結構です、リーフ、ウインドウ?」


 人生初の呪文の詠唱に、丁寧な口調になってしまったマコト。

 木の葉はそよ風に揺られたように少しだけ揺れた。


「あ、使えた?……ウインドウって窓か。」


 下を向き、自分の足を見て立ち方を少し変える。

 人生初の魔法。

 しかし英単語の間違いに気をとられて、その感動はほぼ失われた。

 うっすら苦笑を浮かべつつ、もう一度木の葉を見る。


「あの、もう一度揺れてください、リーフ・ウインド」


 木の葉は静かに、しかし明確に揺れた。

 マコトは納得したようにうなずく。


「やっぱり単語は大切か。」


 実際には2回目の魔法で明確になった『イメージ』が大切だったのだが、マコトは英単語が大切、との理解に至った。

 他の葉に狙いを定め、再び魔法を放つマコト。


 ヒラリ


 木の葉は息を吹きかけられたようにそよぎ、マコトは魔法が使えることを確信した。


「わー、魔法使いか。でも1泊2日だと限界あるな。帰ってからも使えたりして? ……どうやって帰るのかな。」


 自分の歩いてきた方向に目を向ける。


「ゴールにまた屋台があるのかな。」


 コーン!


「あ!」


 屋台について考えていると、遠くで聞き覚えのある音がした。

お読みいただきありがとうございました。

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