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血走った目の福引き屋と僕のなし崩し的な異世界転移

お読みいただきありがとうございます。

「さぁ、さぁさあ!!」


 僕が消しゴムを買おうといつもの商店街を歩いていると、鬼気迫る客引の声が頭に響く。

 声のするほうに目を向けると、小さな屋台で必死に叫んでいる店員と目が合った。


「お!? お兄さん!――さぁどうでしょう!」


 うわー、なんなんだ一体。

 屋台の店員は30歳手前くらいの少し筋肉質な男性だった。

 言葉と連動するように左手で勢いよくメガホンを振りながら必死に叫ぶその目は少し潤み、血走っていた。


「さぁお兄さん! どうでしょう!」


 とりあえず怖いけど、何がしたいのかは気になるな。

 これだけ声張って情報量がゼロって。


「あの、ここは何のやた……」

「おっ!? どうですか! おっ!?」


 うわー全然話させてくれない。

 近くで聞くとすごい頭に響くし。

 しぶい藍色のハッピ着てるけど、キャラクターと全然あってないよ。

 なんかシールみたいなのすごい貼ってあるし。


 屋台のいたる所に、虹色のもみじの葉を覆い隠すように大きく『マツダイラ』の文字が配置されたロゴステッカーが貼られている。

 ロゴ部分は少しマットな質感で、もみじの葉に立体的な加工がしてある。

 ロゴを覆うフレームは一見複雑だが、バランスの良いカットに仕上がっており、控えめな反射加工がされていた。


 マツダイラ?

 ここにあるウエダドラッグストアの人じゃないのね。

 入り口にすごい近いところで他人が屋台出してるってこと?


「ステッカー屋さんですかっ?」

 僕こと白石マコトは、無駄に作り込まれたステッカーに目をやりながら、絶えず響く「さぁ!」の間に少し早口で言葉を差し込んだ。


「さぁ! おっ!?」


 あ、やっぱりステッカー売ってるのか。


「お!? お兄さん!」


 あーもう、YESかNOで答えてもらいたい。


 僕は一度屋台から距離を取り、ポケットからお財布を取りだした。

 ステッカーきれいだから一枚買ってみようかな。

 消しゴム買ってくるって言ったら千円貰えたし。

 ステッカーって300円くらいだよね。

 ……500円くらいするのかな。


 本当はステッカーが欲しかったわけではないのだが、この謎を解き明かすためなら1枚くらい買ってもいい。

 そう思わせる何かがこの屋台にはあった。

 あるいは大声でマコトの脳が少し揺らされてしまったのかもしれない。


 一歩踏み出したマコトは、一度周囲の様子を見る。

 何かしらの用事でここを訪れる人がいるのでは、そう思っての行動だった。

 しかしまるで結界でも張られているかのように、人ごみはポッカリと誰もいない空間を屋台の周りに作り出している。


  一度深呼吸してから視線を店員に向けるが、血走った目はしっかりとマコトの目をとらえていた。

 マコトは反射的に目をそらし、ステッカーの一枚に目を向けながら歩み寄った。

 マコトがお財布を開けながら近づくと店員は叫ぶのをやめ、周囲には静寂が満ちた。

 そして屋台の下の布で覆い隠された部分に、ゆっくりと右手を刺し入れる。

 依然として店員の目はしっかりとマコトの目をとらえているのだが、マコトは少し険しい顔になりながらも気付かないふりをしていた。

 そしておそるおそる千円札を差し出す。

 店員は一瞬だけそれに目を向けると、勢いよく屋台の下から福引用のガラガラを取り出した。


『ドン!』


 と大きな音をたてて屋台の上に置かれたガラガラ。

 その勢いで白の玉がひとつ転がり落ちた。


「お兄さん!」


 福引って。

 マコトは心の中で天を仰ぐ。

 実際にそうしなかったのは、スキを見せるのが危険だと無意識に判断していたからかもしれない。


 ……現金でいけるのかな?

 とりあえず一回やってみるか。

 あきらめにも似た気持ちで千円札をガラガラの横に置く。

 いっこうにお金を取ろうとしない店員。


 いや何なのー!

 足りないってこと?

 福引券とかそういうのいるのかな。

 うわー、顔上げるの怖いんだけど。


 マコトが店員を見ると、メガホンでガラガラを激しく回すジェスチャーをしている。

  マコトは自身の心拍数が上がっていることに気付いた。

 心臓の鼓動が何かを激しく主張しているようだ。

 とても危険なガラガラなのではないか、そんな気配を本能が感じ取っていた。


 ……危険な、何か。

 マコトの意識にもそんな言葉が浮上する。

 血走った目の店員でしょ、どう考えても。


 もー!

 若干自暴自棄になり、マコトはガラガラの取っ手を握る。

 店員のメガホンはさらに激しく動く。

 いやそんなにたくさん回さないからね。

 どこに視線を向けてもマツダイラのステッカーが目に入ってくる。

 もはや混乱しつつ、マコトはガラガラを回した。


 ガラガラガラガラ


 出ない。


 一周回しても玉は落ちてこない。

 さっきドンッて置いたとき一個落ちてたもんね。

 そういうことかな、一応ガラガラって音は鳴ってたし。

 マコトは店員を見る。

 メガホンは激しく回され、ときおり屋台にぶつかり、コーン!と小気味よい、しかし狂気じみた音を出している。


「――さぁ! さぁお兄さん!!」


 店員は限界まで息を止めていたかのような荒い呼吸をしながら再び叫び始めた。

 ちょっ、怖い怖い。

 回すから。

 マコトはメガホンの動きにあてられて勢いよくガラガラを回した。


 ガラガラガラガラ


『カラン』


 お、赤!


 ガラガラは余韻でまだ勢いよく回っていた。

 店員を見ると、まだメガホンを勢いよく回している。


 コーン! コーン!


 メガホンが屋台にぶつかるたびに音を立てる。


「あの、赤です。」


 ガラガラガラガラ


 ガラガラはまだ回っている。

 不思議と玉は落ちてこないが、回転の速度が明らかに増している。


 コーン! コーン!


 ガラガラガラガラ


 ちょっと怖いってー!


 コーン! コーン!  コーン!


 ガラガラガラガラ


 ちょっとー!


「さぁ!」



 ――コーン!!!




……気づくとマコトはバールのようなものを持って森の中に立っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


次回、第2話「森の癒しとマツダイラの余韻」です。

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