…………流石に、まずいよね?
――それから、翌朝のこと。
「………………」
目を覚まし、しばし茫然とする私。窓から射し込む穏やかな光とは対照的に、私の心は騒めきに満ちて一向に消える気配もない。
そっと、すぐ横へと視線を移す。そこには、穏やかな寝息を立てる美男子の顔。平時以上にいっそう可愛いその寝顔に、改めて胸がドクンと脈を打つ。
だけど、今は魅入ってるわけにもいかない。毛布で隠れてはいるものの、彼は今……いや、私もだけど……まあ、生まれたままの姿でお眠りになっているわけで。そんな彼を起こさぬよう、今の心中をポツリと口にする。
「…………流石に、まずいよね?」
「――すみません、高月先輩! その、先輩より後に起きてしまって……」
「……いえ、それは良いのだけど……ああ、ココアを淹れるところだけど、よかったらどう?」
「えっ、マジっすか? ありがとうございます先輩!」
それから、数十分経て。
今しがた起床し、言葉の通り申し訳なさそうに謝意を告げる戸波くん。……いや、それは良いのだけど……そこなの? 真っ先に気にするとこ。まあ、いずれにせよ彼が申し訳なく思う必要なんて皆目ないのだけど。
その後、暖かいココアを片手に他愛もない話を交わす私達。だけど、自分で話を振っておいてほとんど中身が入ってこない。それこそ、自分で言ったことすらほぼ覚えていない。……まあ、これは単なる前置きだしね。なので、そろそろ本題に入るべく改めて口を開き――
「……ねえ、戸波くん。その、昨夜のことだけど……あれは、一時の気の迷い。貴方と私は、あくまで上司と部下……だから、ゆめゆめ勘違いはしないでほしいのだけど」
そう、たどたどしく告げる。……うん、我ながら痛々しい……と言うか、普通にひどい。自分から求めておいて、勘違いしないでとか……ただ、言い訳だとは承知だけれど、優しい彼に要らぬ責任の念を背負わせるわけには――
「……ははっ、そんなの分かってますよ。先輩は、俺にとって雲の上の存在……そんな烏滸がましいこと、考えるわけないっすよ。そもそも、それ以前に……いや、これはいいか。そんなことより――」
「…………戸波くん」
すると、淡く微笑み答える戸波くん。いや、私はそんなたいそうな存在じゃ……それに、いったい何を言いかけて――
「――気の迷いと仰った人に、こう言うのも申し訳ないとは思うんすけど……それでも、俺は幸せでした。最初で最後の相手が、他でもない貴女で本当に良かった。だから……ありがとうございます、高月先輩」
「………………」
ピタリと、思考が止まる。……どうしてか、分からない。分からない、けど……そう、真っ直ぐに告げる彼の言葉に……笑顔に……どうしてか、少し悲しくなった。




