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古民家カフェで紡ぐ恋〜歳上部下は犬系男子?〜  作者: 暦海


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9/19

…………流石に、まずいよね?

 ――それから、翌朝のこと。



「………………」



 目を覚まし、しばし茫然とする私。窓から射し込む穏やかな光とは対照的に、私の心は(ざわ)めきに満ちて一向に消える気配もない。


 そっと、すぐ横へと視線を移す。そこには、穏やかな寝息を立てる美男子の顔。平時以上にいっそう可愛いその寝顔(かお)に、改めて胸がドクンと脈を打つ。


 だけど、今は魅入ってるわけにもいかない。毛布で隠れてはいるものの、彼は今……いや、私もだけど……まあ、生まれたままの姿でお眠りになっているわけで。そんな彼を起こさぬよう、今の心中をポツリと口にする。



「…………流石に、まずいよね?」





「――すみません、高月(たかつき)先輩! その、先輩より後に起きてしまって……」

「……いえ、それは良いのだけど……ああ、ココアを淹れるところだけど、よかったらどう?」

「えっ、マジっすか? ありがとうございます先輩!」


 それから、数十分経て。

 今しがた起床し、言葉の通り申し訳なさそうに謝意を告げる戸波(となみ)くん。……いや、それは良いのだけど……そこなの? 真っ先に気にするとこ。まあ、いずれにせよ彼が申し訳なく思う必要なんて皆目ないのだけど。


 その後、暖かいココアを片手に他愛もない話を交わす私達。だけど、自分で話を振っておいてほとんど中身が入ってこない。それこそ、自分で言ったことすらほぼ覚えていない。……まあ、これは単なる前置きだしね。なので、そろそろ本題に入るべく改めて口を開き――



「……ねえ、戸波くん。その、昨夜のことだけど……あれは、一時の気の迷い。貴方と私は、あくまで上司と部下……だから、ゆめゆめ勘違いはしないでほしいのだけど」



 そう、たどたどしく告げる。……うん、我ながら痛々しい……と言うか、普通にひどい。自分から求めておいて、勘違いしないでとか……ただ、言い訳だとは承知だけれど、優しい彼に要らぬ責任の念を背負わせるわけには――



「……ははっ、そんなの分かってますよ。先輩は、俺にとって雲の上の存在……そんな烏滸(おこ)がましいこと、考えるわけないっすよ。そもそも、それ以前に……いや、これはいいか。そんなことより――」

「…………戸波くん」


 すると、淡く微笑み答える戸波くん。いや、私はそんなたいそうな存在じゃ……それに、いったい何を言いかけて――



「――気の迷いと仰った人に、こう言うのも申し訳ないとは思うんすけど……それでも、俺は幸せでした。最初で最後の相手が、他でもない貴女で本当に良かった。だから……ありがとうございます、高月先輩」


「………………」


 ピタリと、思考が止まる。……どうしてか、分からない。分からない、けど……そう、真っ直ぐに告げる彼の言葉に……笑顔に……どうしてか、少し悲しくなった。





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