本心?
「いやーほんとありがとうございます! めっちゃ美味かったっす!」
「……そう、それは良かったわ」
それから、数十分後。
帰り道、改めて感謝を伝えてくれる戸波くん。街中に煌めくイルミネーションにも負けない、キラキラと輝く笑顔で。ええ、喜んでもらえたのなら良かった。結果的にではあるけれど、今日任せてしまった仕事のお礼も出来たわけだし。だから、良かったの……だけど――
「……ねえ、戸波くん。それは、本心なのかしら?」
「……へっ?」
そう、不意に尋ねる。だけど、この唐突な問いにはもちろん理由があって。と言うのも――
「……そっか、バレちゃってましたか……その、すみません」
「……いえ、気にしないで。こちらこそごめんなさい」
すると、諦めたように微笑み答える戸波くん。まあ、嘘をつけるタイプじゃないし……それに、その程度の嘘なら見抜ける程度の関係は構築してきたつもりだし。
そして、彼の言葉に実は共感していたり。別に、食通を気取るつもりはないけど……それでも、私もそれほど美味しいとは思っていなかった。少なくとも、値段に見合う味ではないかと。それこそ、手前味噌ではあるけど私の――
「……正直、先輩の方が断然美味いなって。仕事終わりとかに、たまに作ってくれる先輩の料理の方が」
「……っ!?」
「……あと、料理はともかく、今日はほんとに楽しかったっすよ。だって、あんなふうに先輩と2人でいられましたし」
すると、ニコッと笑いそんなことを言う戸波くん。イルミネーションなんて目じゃない、キラキラと輝く笑顔で。……これでも、ある程度の嘘なら見抜ける関係は構築してきたつもり。だから、分かる……今度は、嘘じゃないことが。そんな彼に、私は――
「……ねえ、戸波くん。もう少し、時間あるかしら?」




