無邪気な笑顔
「……うわぁ、めっちゃ美味そう。頂いちゃってもいいすか、先輩?」
「ふふっ、どうぞ」
「やった、では頂きます!」
その後、しばらくして。
運ばれてきた料理を前に、キラキラと目を輝かせ尋ねる戸波くん。まあ、場所が場所だけに声は抑えめにしてくれているけれど。
その後、食事をしつつ他愛もない会話を交わす私達。誘っておいて今更だけど、私といてどうなるかと懸念はあったものの……そこは、流石の戸波くん。無愛想でロクに話も出来ない私みたいな相手でも本当に楽しそうに話してくれる。……ほんと、誰からも好かれるわけね。まあ、それだけが理由でもないだろうけど。……ただ、彼には申し訳ないけど、私はまだ――
「……あの、高月先輩。その……なにか、あったんですよね?」
「…………へっ?」
すると、ふとそう問い掛ける戸波くん。いつもの柔らかな微笑……それでいて、いつもと違う真剣さがひしひしと伝わる微笑で。
「……でも、私は……」
とは言え……うん、流石に躊躇われる。別に私自身が話したくない、というわけでもなく……ただ、別に楽しくもないことを……それも、この食事の場で口にすることが――
「……もちろん、話したくないなら無理にとは言いません。ですが……俺は、貴女の話が聞きたいんです、高月先輩」
「…………戸波くん」
すると、躊躇う私に優しく告げる戸波くん。……ほんと、お人好しにもほどがある。なので――
「……別に、楽しい話じゃないけれど……それでも良いのね?」
そう、揶揄うように微笑み告げる。すると、彼も可笑しそうに微笑み頷いた。
「…………それは、相手が悪いっすよ! ……あっ、すみません皆さん」
「……そ、そう?」
それから、数十分後。
私の話を聞き終えた後、力強くそう告げる戸波くん。ちなみに、後の謝罪は大きな声を出してしまったことに関してで。まあ、きっと無意識だったのだろう。……ただ、そう言ってくれるのはありがたいのだけど――
「……でも、私にも原因があったように思うわ。愛想もないし、傲慢だし……」
「まあ、確かに先輩はほとんど愛想もないしちょっぴり傲慢かもしれませんが――」
「おいそこの後輩」
そう、なおも真剣に答える彼に思わずツッコミを入れる。……いや、我ながらほんとのことだと思うし否定してほしかったわけじゃないけど、けど……いや、貴方は否定してよ。貴方だけは否定してよ。
「……ですが、それとこれとは話が別です。先輩のことが嫌なら、ちゃんと言って先に別れれば良い。こっそり浮気して、裏切って良い理由なんかにはならない。だから、貴女は何も悪くないっす。高月先輩」
「…………戸波くん」
すると、私の瞳を見つめたままはっきりと告げる戸波くん。……えっと、なんと言えばいいのだろう。……うん、やっぱりまずは――
「……その、あり――」
「……でも、俺がその彼氏さんに文句を言うのは普通に筋違い……と言うか、むしろ感謝すべきなんすけどね」
「……? それは、どういう――」
「だって、その人が浮気してくれたから、こうして今先輩と食事できてるわけですし」
「……っ!?」
すると、ニコッと微笑み告げる戸波くん。本音かどうかなど疑う余地もないくらい、さながら天使のような無邪気な笑顔で。そんな彼に、私は――
「……食べ物に、釣られただけでしょ」
――そう、一言返すのが精一杯で。




