後半とのお食事
「……うわ、すっげぇ。こんな高そうなとこ来るの初めてっすよ、俺」
「……そう、気に入ってくれて何よりだわ」
それから、30分ほど経て。
そう、目を輝かせ話す美男子。こういう表情をしてくれるだけでも、ここに連れてきた甲斐があるというもので。……うん、ほんと良かった。キャンセルするの忘れてて。
さて、私達がいるのは広々とした玄関口――25階建ての高層タワーにて、来客を迎える玄関口で。……うん、未だに慣れない。まあ、私自身こういう日にしか来ないわけだし。
『……えっ、マジっすか!? やった、タダで飯にありつける! それもフレンチ!』
良かったら、一緒に食事でもどうかしら――予定の有無を確認した後そう尋ねると、目を輝かせそう口にする戸波くん。まるで子どものようなその反応に、さっきまで暗鬱を一瞬忘れ思わず笑みが洩れてしまう。
ともあれ、そういうわけで今向かっているのはこのタワーの21階に位置する高級フレンチ店――繰り返しになるけど、こういう日にしか来ない何とも敷居が高……そういえば、本来の意味は違ったっけ? この表現。……うん、まあいっか。
……ところで、それはそうと――
「……それにしても、やっぱり随分と見違えるものなのね」
「……へっ?」
「貴方のその格好よ。普段、まず着ないでしょう。そんなきっちりした服」
「……ああ、確かに。以前、友達の結婚式で1回着ただけですしね。正直、今でもちょっと窮屈っす」
「……全く、貴方らしいわね」
エレベーターを降り会場へ向かう最中、今更ながらそう伝えてみる。何のことかと言うと、彼の姿――普段はまずお目にかかれない、漆黒の燕尾服を纏った姿のことで。
と言うのも、ここは高級店であるからしてドレスコードが存在する。なので、急に誘っておいて申し訳ないけれど、彼にはここに来るまでにいったん家に戻り然るべき服装に着替えてもらっていたわけで。……いや、ほんと持ってて良かった。彼が出席したという、その結婚式のお友達に感謝ね。
……さて、それはそうと――
「……ん? どうかしました先輩?」
「あ、いえ……」
そう、首を傾げ尋ねる戸波くん。そして、そんな彼に目を逸らし答える私。いや、答えてないか。ただ……うん、流石に言えないよね。……その、普段と違う彼の姿に胸が――
「……それにしても、いつもですけど……いつも以上にいっそう綺麗ですね、今日の先輩」
「……っ!? ……そ、そう……」
「ええ、とっても!」
そんな彼の不意打ちに、いっそう鼓動が速まる私。うん、分かっている。彼同様、平時よりきちんとした服装をしてる私を褒めてくれただけ。別に、深い意味なんてない。分かってるけど……全く、心臓に悪い。




