もう二度と
「……ですが、高月先輩。ご覧の通り、俺がああいう人間であることは事実ですし、きっとそれは今後も変わりません。もし……仮にもしも今回のようなことがまたあれば、きっと俺は……だから、俺には……」
それから、ややあっていったん抱擁を解いた後そう口にする戸波くん。言葉の続きは……まあ、確認するまでもないだろう。資格がないとか、恐らくはそういう言葉だろう。だけど――
「……そうね、確かに本来あのような行為は決して許されることじゃないでしょう。相手が女性だからでも、貴方が男性だからでもない。本来、誰が誰に対しても暴力は決して許されることじゃない。もちろん、状況によっては致し方のない場合もあるでしょうけれど」
「……はい、もちろんです。先輩のため、なんて見苦しい言い訳をするつもりは流石にないっす。俺が、俺の勝手で怒りに身を任せた――ただ、それだけのことです」
そう告げると、少し俯き答えを返す戸波くん。そんな彼の言葉に……僅かに見えるその表情に、ぎゅっと胸の痛む音がする。私とて、何も咎めたいわけじゃない。なので、再び口を開いて――
「……なので、どうしても今後、拳を抑えられそうになければ――その時は、私を殴りなさい」
「…………へっ?」
そう、まっすぐ瞳を見つめ告げる。すると、ポカンと口を開き唖然とした様子の戸波くん。まあ、そうなるよね。なので――
「――ええ、そのまま言葉の通りよ。今後、もしも――万が一にも、今回のように何らかの事情でどうしても拳を振るいたくなっても、その場ではどうにか我慢しなさい。その代わり、その鬱憤は後で私が全部受け止めてあげるから。ほら、部下の尻拭いをするのは上司の仕事でしょ? あっ、ちなみにこれは上司からのパワハラ命令であり貴方に拒否権は存在しないから」
そう、ふっと微笑み告げる。まあ、尻拭いとは少し違うのかもしれないけど、この際そこはどうでもいい。そんなことより――
「…………ははっ」
すると、ポカンとした後ややあって可笑しそうに声を洩らす戸波くん。そして――
「……ははっ、なんすかそれ! 誰かの代わりに、先輩を殴れって――そんなの、完全に理論が破綻しちゃってるじゃないですか! 誰も殴っちゃ駄目なはずなのに」
「……ふふっ、そうね」
「……でも、そんなこと言われたら……もう、誰も殴る気なんて起きないですよ。と言うか、起こすわけにはいかない。だって、その理屈だと鬱憤が溜まっちゃったら先輩を殴ることになるんでしょう? 俺、何があってもそれだけは絶対に出来ませんから」
そう、ふっと微笑み告げる戸波くん。そんな彼の言葉に、ひとまずはホッと安堵を覚える。
繰り返しになるけど、暴力という行為は本来決して許されることじゃない。なので、彼のあの行為を正当化するつもりはないし、彼自身自分が正しいなどとは微塵も思っていない。
だけど……それでも、一方で嬉しいと感じている自分もいて。矛盾だと我ながら思うけれど、それでも嬉しいと感じてしまう自分もいて。
そもそも、あんなにも優しい貴方が、痛みもなしに人を傷つけることなんて出来るはずない――それこそ、愛する資格がないなんて言ってしまうくらいに。なのに、他ならぬ私のために拳を振るってくれたことに心が震えるほど嬉しくなってしまう自分もいて。……まあ、くどいようだけど、だからといって暴力を正当化するつもりは微塵もないのだけども。
……でも、もう大丈夫。これからは、私も貴方を支える。あんな哀しい言葉は、もう二度と言わせない。だから――
「――どうか、私のそばにいて。これからも、生涯ずっと」




