本音
「…………戸波、くん」
そう、ポツリと呟く。だけど、その声は震え鼓動は急速に高鳴って……だって、いま……確かに、彼は私のことを――
「……まあ、そういうわけなんで今後、先輩に危害を加えないと誓っていただけますか? でなければ――」
「……でなければ、なによ?」
「……殺しますよ?」
「……っ!! ひぃっ!!」
すると、甚く低い声で告げる戸波くん。そして、顔を真っ青にして一目散に駆け出す中野さん。……まあ、そうなるよね。私だって初めて聞いたし。彼のそんな言葉も、そんな声も。……まあ、それよりも――
「……すみません、高月先輩。ご覧の通り、俺はこういう人間です。弁解の余地もありません」
すると、ほどなくそう口にする戸波くん。そして、私に背を向けたままゆっくりと足を――
「…………せん、ぱい……?」
そう、すぐ背中越しに届く微かな声。理由は、まあ明白――卒然、背後から彼へ腕を回しぎゅっと抱き締めたから。
「……あの、高月先輩……どう、したんすか?」
すると、何も答えない私にそう問い掛ける戸波くん。その声音には、ありありと困惑の色が窺えて。そんな彼に、私はゆっくりと口を開いて――
「…………寂しかった」
「…………へっ?」
「……貴方は、優しかった。いつも、私に寄り添ってくれていた。だから、本当に……本当に感謝してる。ありがとう、戸波くん」
「……そんな、俺なんて――」
「――でも、いつも心を閉ざしていた。その心の奥底には、どうしても触れさせてくれなかった。肌を重ね、一つになったあの幸せな夜でさえ……それが、どうしても寂しくて……悲しかった」
「…………先輩」
そう、震えた声で告げる。いや、声だけじゃない。彼の身体に回した腕も、ピタリと背中に張り付くこの身体も――
「……すみません、先輩。いったん、離れていただけます?」
「……へっ? あっ、うん……」
すると、ほどなく届いた彼の言葉。名残惜しい気持ちはあるけど、そう言われたなら仕方がない。渋々ではあるけども、ひとまずはいったん離れ――
「……っ!!」
刹那、呼吸が止まる。彼が、こちらに向き直りぎゅっと私を抱き締めたから。そして――
「……すみません、高月先輩。寂しくさせて、悲しくさせて……本当に、すみません」
「……戸波、くん……」
そう、いっそう力を込め告げる。心做しか、その声は潤いを帯びているように思えて。そんな彼を、私も力を込めぎゅっと抱き締めた。




