軽蔑の念
『――どうしたの、小夜くん。急にこんなところに呼び出したりして……あっ、もしかして付き合う気になってくれたとか? あの先輩と別れて』
それから、およそ2週間後の放課後。
そう、何とも楽しそうに話す女子生徒。2年4組のクラスメイト、山口さんです。今、僕らがいるのは非常階段の踊り場――その名の通り、常時は使用されていない階段なので辺りには人ひとりいません。なので、内緒話にはもってこいというわけです。
さて、楽しそうなところ申し訳ないすけどこっちはそんな気分じゃない。なので、彼女の問いには答えず――
『――貴女ですよね、山口さん。根も葉もない誹謗中傷で、玲香さんを陥れたのは』
そう、単刀直入に問う。いや、問うというよりほぼ確認か。
尤も、根拠もなしにこんなことを言ってるわけじゃない。俺だって、これが容易く口にしていい発言じゃないことくらいは分かってる。だから、徹底的に調べた。俺の持ち得るありとあらゆる手段を用いて、ようやく彼女へと辿り着いた。……とは言え、その上で違っている可能性ももちろんゼロじゃない。その時は、土下座でも何でもして誠心誠意謝罪を――
『…………ふぅ、バレちゃったか。でも、小夜くんが悪いんだよ? あろうことか、あんな女のために私の告白を断ったりする小夜くんが』
すると、ふっと笑みを浮かべ呟く山口さん。そこに反省や後悔はなく、言葉の通りただただ不服――あるいは苛立ちのような感情がありありと浮かんでいて。
『――まあ、でも今からでもあの人と別れて私と付き合うっていうなら、今後の悪口は一切…………え』
卒然、言葉が止まる。――いや、止めた。俺が、ケラケラ笑うその忌まわしい顔に思いっ切り拳を打ち込んだから。
『…………えっ、えっ……』
その後、ややあって自身の頬――俺が殴った左頬を押さえ茫然とする山口さん。何が起こったのか分からない――そんな心中が、彼女のその表情からおおかた読み取れる。……まあ、そうでしょうね。俺自身、自分で殴っておきながらびっくりしてますし。……でも、一番驚いているのは――
『――い、いま殴った!? 女の子を殴るとか信じらんない! そんな酷い人だとは思わなかった!』
すると、ややあってハッとし矢継ぎ早に言い放つ山口さん。……まあ、そうなりますよね。ほんと、どうしようもなく酷いっすね、俺。だけど、それでも――
『…………小夜、いま、なにを……』
そんな思考の最中、不意に届いた馴染みの声。大好きなその声は、普段の明るい声音とはまるで違って。その方向へゆっくりと顔を動かすと、そこには茫然と――そして、ほどなくありありと軽蔑の念を瞳に湛える恋人の姿。続けて、徐に口を開く彼女の言葉は――もう、聞くまでもなかった。
『……見損なったよ、小夜……もう、別れよ?』




