不穏な陰
「――ご無事っすか、先輩! すみません、お待たせしました!」
「……ええ、問題ないわ、ありがとう。それから、謝るのは私の方よ。本当にごめんなさい、戸波くん」
「いえ、俺のことはお気になさらず! それより、先輩がご無事でほんとに良かったっす!」
それから、数十分後。
扉を開くやいなや、開口一番そう言い放つ美青年。疑う余地もなく本気で心配してくれているその声音に、表情に、申し訳なくもぐっと胸に熱いものが込み上げる。
さて、もはや説明不要かとも思うけれど――あの後、戸波くんに事情を説明、そしてもし可能であれば部屋に来てほしいとお願いして……うん、ほんとごめんね?
「……とりあえず、なにか淹れるわ。緑茶と紅茶、それから珈琲とココアがあるけれど、どれが良いかしら?」
「ありがとうございます、先輩。それでは、ココアをお願いします」
「了解」
その後、ほどなくして。
狭いリビングにて、ニコッと微笑む戸波くんに軽く頷きキッチンへ向かう。……不思議なものね。彼がここにいてくれるだけで、さっきまでの不安が嘘のように消えていくなんて。
その後、ゆったりとティータイ……いや、ティーじゃないから……ココアタイム? まあ、何でも良いか。ともあれ、ココアを片手にゆったり他愛もない話でも……と、言いたいところであるのだけれど、事情が事情なだけにそうもいかず――
「……それで、先輩。早速ですけど、詳しく教えてもらえますか? 例の、ストーカーの件のこと」
そう、単刀直入に切り出す戸波くん。そんな彼の真摯な瞳を見つめながら、私はゆっくりと頷いた。
「…………なるほど」
それから、ほどなくして。
私の説明を聞き終えた後、深刻な表情でポツリと呟く戸波くん。まあ、説明と言ってもまだそこまでの情報はないのだけど。
「……ですが、すみません先輩。以前にも、そんなことがあったのに……俺、全然気付かなくて」
「いえ、気にしないで。そもそも、あの時は私もほとんど気づいていなくて……今日、そう言えばと思い出したくらいだから。それに、元より貴方が悪いわけでもないのだし」
すると、どうしてか甚く申し訳なさそうに告げる戸波くん。いや、貴方は何も悪くないでしょうに……まあ、彼らしいけど。
ところで、あの時とは――以前、一緒にカラオケへ赴いた時のこと。その帰りに、不意に何やら視線を感じたのだけど……まあ、とは言っても本当に一瞬――今しがた伝えたように、今日の件でふと思い出した程度のものでしかない。それに、そもそも気のせいかもしれないしね。
「……ところで、高月先輩。警察には、もう連絡しましたか?」
すると、ややあってそう問い掛ける戸波くん。まあ、この流れなら至極自然な問いだろう。……だけど、
「……ええ、そのことに関してなのだけれど――」
「…………なるほど、そういうことですか」
それから、数分経て。
私の説明を聞き終えた後、再びポツリとそう口にする戸波くん。結論としては、まだ警察に伝えてはいないこと。そして、その理由は――
「……でも、ほんとにいいんすか? もし……もしも、本当に先輩の言った通りだったとして……それでも、危険なことには変わりないでしょう。やっぱり、警察に連絡した方が……」
すると、果たして甚く心配そうに話す戸波くん。……うん、ありがとう。そして、ごめんね――そんな思いを抱きつつ、徐に口を開き言葉を紡ぐ。
「……それで、勝手なのは承知の上なのだけれど……しばらく、ここにいてくれないかしら?」
「…………へっ?」




