店主の威厳?
――それから、1週間ほど経て。
「――さて、戸波くん。先日は些か無様な姿を晒してしまったけれど、今日は店主たる威厳を存分に示してあげるわ」
「……いや、改めて見せていただかずともめっちゃ尊敬してますよ? 高月先輩のこと。あと……店主の威厳って、ここで見せるものではないと思うんすけど」
そう伝えると、少し困ったように微笑み答える戸波くん。……まあ、そう言われてしまえば返す言葉もないのだけど……でも、いいの! ここで店主の威厳を見せるの!
さて、そんな(どんな?)私達がいるのは電車で30分ほどの距離にあるバッティングセンター。もはや説明不要かもしれないけれど、今回もまた万が一にも見つからぬようこうして遠くまで足を運んだわけで。
「ところで、高月先輩。無様っていうのは、きっとあの時のことを言っているのでしょうけど、気にすることないっすよ。むしろ可愛かったですし、あのあたふたしてた先輩も」
「……存外、趣味が悪いのね貴方」
すると、何とも楽しそうな笑顔で告げる戸波くん。何の話かと言うと、例のキャンプでのあの後――我ながら理不尽なツッコミを入れてほどなくのことで。
『――あっ、先輩。ちょっとすみません』
『…………ふぇっ!?』
卒然、変な声を出す私。と言うのも、不意に彼がすぐそばまで近づいて。驚きつつそっと目を閉じるも、そっと肩へ感触があるだけ。あれっ、と思いつつ目を開けると――
『――はい、取れましたよ先輩』
そう、無邪気な笑顔で告げる戸波くん。……あっ、もしかして肩になにかついてて……いやなにそのベタな展開!! なんかすっごい恥ずかしい!! いったい何がついてて――
『…………え』
正体を確かめるべく彼の右手へ視線を移すと、そこには毛が生えた細長い何かがクニャクニャと……クニャクニャと――――
『――――きゃああああああああああああああぁ!!!!』
――とまあ、そんな我ながらみっともない一幕があったわけで。……ひょっとして、バチが当たった? だったら……うん、甘んじて受け入れるけども。ただ、それはそれとして――
「――まあ、そうして馬鹿にしていられるのも今のうちよ戸波くん。高校時代、令和のナポレオンと称されたこの私がホームランを量産して目にもの見せてあげるわ」
「……いや、高校行ってないっすよね、先輩。あと、せめて野球に関連づけた二つ名にしてください」
そう宣言するも、何処か呆れたように微笑み答える戸波くん。あれ、こんな容赦なくツッコミを入れる人だったかな? ……うん、やはり店主としての威厳が霞んでいるということだろう。うん、これは由々しき問題……なので、やはりここで改めて威厳を示しておく必要がある。そして、あのキラキラした瞳で思う存分褒めてもら――
「それにしても、ほんとに野球も好きなんすね先輩! そんなに嬉しそうな表情して」
「……え、ええ、そうなのよ。もう、三度の珈琲よりもこよなく野球を愛していて!」
「そんなにっすか!?」
とまあ、そんな馬鹿なやり取りを交わしつつバッティングゲージへと向かっていく。……いや、そこまで知らないんだけどね、野球。
「…………えっと、その……良かったっすよ、先輩」
「……いえ、気を遣わなくて結構よ。なんか、余計惨めになるから」
それから、ほどなくして。
肩を落としバッティングゲージから出てきた私に、躊躇う様子で声を掛ける戸波くん。いや、気持ちはありがたいのだけど……うん、いっそのこと笑っていただけると。
さて、もはやほぼ説明不要かとも思うけど……まあ、結果は散々たるもので。20球もあったのに一度もホームランどころかヒット……いや、それどころかバットにすら掠らず。最後の方とか、振ってたというよりバットに振らされていた感すら覚え……うぅ、威厳が……うぅ、褒めてもらいたかった。




