1回だけ?
「――いやー鬼ごっこ強いっすね先輩。よもや、こんなにも見つけるのに苦労するとは」
「……ええ、申し訳なかったわ」
「ああいえ、責めてるわけじゃないっすよ! むしろ褒めてるんです。……まあ、心配はしましたけど」
それから、ほどなくして。
近くの四阿にて、疲れた身体を休めつつそんなやり取りを交わす私達。……うん、ほんとに申し訳ない。
ところで、それはそれとして……そっと、視線を落とす。四阿に来るまで、後ろ出に隠していた小さな虫カゴへと。……うん、どうしようこれ。流石にタイミングを失ったというか……うん、流石に申し訳ない。今、これを出すのは流石に心が痛む。
でも……もしここで披露しなければ、何のために捕まえたのかという話で。それはそれで、何の罪もなく捕まり閉じ込められたこの子達にも大変申し訳ないというもので。……まあ、だったら最初から捕まえるなという話ではあるのだけども……だけども……うん、1回、1回だけ! 1回、彼の反応を見るだけだから!
さて、そんな我ながら浅ましい言い訳をしつつスタンバイ完了。本当は油断しているところに不意打ちが理想なのだけど、彼はニコッと可愛い笑顔で私を見つめ……うん、照れる。
……いや、照れてる場合じゃなくて。うん、なるべく平静を装いつつ、パッと虫カゴを差し出し――
「――ねえ、戸波くん。これ、どうかしら?」
「…………へっ?」
そう、昂る鼓動を抑えつつ尋ねる。……いや、不謹慎にも程がおると我ながら思うけども。でも、仕方がないの。鼓動は私の思い通りには動いてくれないので、仕方がないの。さてさて、彼の反応は――
「ああっ、カブトムシじゃないっすか! それにクワガタも……うわぁ、凄いっすね先輩!」
「………………へっ?」
すると、パッと目を輝かせ褒めてくれる戸波くん。その表情や、さながら少年のようでとても可愛らしい……の、だけども――
「……あの、戸波くん? 貴方、虫が苦手なのでは?」
「……へっ? なんで俺が?」
「……いや、だってほら……その、偶然、ほんとに偶然耳にしたのよ。少し前、休憩室で貴方が虫が苦手だって言っていたのを」
「……虫が、苦手…………ああ、あれっすかね」
すると、軽く頤に指を添え虚空を見る戸波くん。そして、ポツリと呟き……うん、どうやら思い当たったようで――
「――あの時、藤巻さんに聞かれたんすよ。蒸し餃子は好きかって。でも、焼いてるのや茹でてるのは好きなんすけど、蒸してるのはちょっと……なので、申し訳ないけど答えたんす。正直、蒸しは苦手って」
そう、ニコッと微笑み答える戸波くん。……うん、そういうことね。うん、それなら仕方がない。そういうわけで、再び口を開き――
「――ちゃんと蒸し餃子と言いなさい!!」
「なんで怒られてるんすか俺!?」




