高月海織
「――それにしても、ほんと先輩ってすごいっすよね」
「……いえ、いつも言ってるけど別に――」
「いえ、すごいっすよ! こんな言い方は良くないかもですけど、そんなに若いのにめっちゃ仕事できますし」
「……いや、貴方も十分若いでしょう」
それから、1時間ほど経て。
営業を終え、閉店作業を進めつつそんなやり取りを交わす私達。……いや、貴方も十分若いでしょう。まだ20代前半なのだし。
だけど、彼の言わんとすることが理解できないわけでもない。彼も若いけど、私はもっと――まだ二十歳にも達していないのだから。
――私、高月海織は幼少より叩き込まれてきた。英才教育、と言えば多少は聞こえがいいのかもしれないけれど……ともあれ、当カフェ『TAKATSUKI』の店主だった父・高月護琉からカフェ営業に関するありとあらゆる知識を脳内へと叩き込まれた。
そうして、私は父の意向のもと中学卒業――義務教育を終えた後、4月早々に店主の立場に就いて。
そして、やはりと言うか――当初から数多の人からコネだの何だの言われ続け、その状況は今も続いている。まあ、間違ってはいないのだろうけど。実際、それまで店主だった父の意向でその立場に就いたわけだし。……まあ、私は別に望んでなかったんだけど。
ともあれ、様々な種の負の視線に晒される中職務を全うし早3年。流石に、もう気にならなくなった。
ところで、一つ言っておきたいのだけど――確かに、就任自体はコネということになるのかもしれない。父の意向がなければ、10代半ばというあの年齢でこの立場に就くことはまずなかっただろうから。
それでも、控えめに言っても娘に甘い父親ではなくむしろ厳しい類で。なので、私が店主に相応しくないと判断していたら間違いなくその立場を譲ったりなんてしていないし、今だってやはり相応しくないと判断したらすぐさま降ろす――それは、教育を叩き込まれ始めた幼少の頃から今に至るまでずっと口酸っぱく言われてきたことで。……まあ、説明したところで間違いなく誰も信じないだろうけど。――今、そこで笑顔を向けている彼以外は。
ともあれ、そういうわけで私は10代にして既に数多の――それも、大半は歳上の人達を管理する立場にあるわけで。なので、彼らが私を気に入らないのも無理からぬことだろう。例えば、大学入学を機にアルバイトを始めた人からしても、同い年あるいは歳下の相手から上から目線で指示を出されているのだし。
さて、随分とくどくなってしまったけど……結局、何が言いたいのかというと――
「ほんと、先輩のことすっごく尊敬してるんすよ、俺! だから、これからもご指導お願いしますね!」
そう、朗らかな笑顔で告げる戸波くん。つまりは、彼がいかに特殊であるかということで。




