どうしてかしら?
(…………あの、高月先輩。声を出しちゃいけないのは承知のつもりなんすけど……けど、一つ聞いてもいいっすか?)
(…………ええ、言いたいことはおおかた察せられるけど……何かしら?)
(……ありがとうございます、それで……俺ら、隠れる必要ありました)
(……うん、それは言わないで?)
それから、ほどなくして。
そう、声を潜め会話を交わす。そんな怪しい私達がいるのは、キッチン下の収納ラック。そして――
――コン、コン、コン。
施錠の音の後、ゆっくりと響く靴の音。どうやら、閉店後の当カフェに誰かが入ってきたようで。ピッキングに手練れた泥棒……という可能性もなくはないかもしれないが、それにしても流石に施錠が速すぎると思う。なので、普通に鍵を使って入ってきたのだろう。と言うことは、当店のスタッフであり、なおかつ私達以外に鍵を管理している人物ということになるので該当する人は非常に限られてくるのだけど……いや、誰でもいいか。誰であろうと、今はどうにかバレずにこの場を乗り切ることだけが肝要なのだし。
ところで……今、彼が言ったように隠れる必要などそもそもなくて。そもそも、私達は当店の新メニューに取り組んでいただけ……まあ、個人的思惑もまるでなかったわけではないけれど……それでも、作業そのものは店主と副店主が2人でしていても何ら怪訝に思われるものではない。なので、先ほど来た誰かに普通に事情を説明し、なんだったら巻き込んでケーキの感想を聞いてもよかった。
……まあ、それも今更。流石に、今から出ていくなど怪しいことこの上ない。なので――
(……申し訳ないけれど、貴方にもしばらくじっとしておいてもらうわ、戸波くん)
(ガッテンです、姉さん)
(誰が姉さんよ)
――それから、しばらく経て。
(……そう言えば、だいぶ今更っすけど……置いたままじゃまずくないっすか? あのケーキ)
そう、声を潜め尋ねる戸波くん。まあ、その懸念はご尤も。誰もいないはずの空間に、何故か食べかけのケーキが放置されていたら怪しいどころの騒ぎじゃない。なので、
(――いえ、そこに関しては心配無用よ。隠れる前にささっと回収してきたから、今はここに)
(……忍者みたいっすね、先輩)
そう伝えると、どこか呆れたような感心したような声が届く。収納ラックはほぼ閉めているので見えないのだけど、それでもどんな表情をしているかは何となく想像がつく。
その後も、しばし息を潜める私達。今は足音は聴こえなくなっているので、恐らくは休憩室の方に行ったのだろう。忘れ物、とかかな? ともあれ、いつ戻ってくるか分からないので油断は禁物。引き続き、この暗く狭い空間にて彼と2人で息を潜め――
(……ところで、どうしてかしら? なんだか、徐々に気持ちが昂揚している自分がいるのだけれど)
(意外と余裕あるっすね、先輩)




