二人きりの店内で
「……これは、やばいんじゃないっすか」
「……ええ、これはやばいわね」
それから、1時間ほど経て。
そう、顔を見合わせ交わす。当カフェの店主と副店主による、何とも語彙に乏しい会話を。……うん、ほんと良かった。他にスタッフがいなくて。
ただ、思わず語彙を失ってしまうほどの衝撃だったのも事実で。と言うのも――今、彼と作っていたシフォンケーキがあまりにも美味しすぎて。
さて、何の話かと言うと――最近、自分の中で最も手応えのあったこのケーキを新メニューに加えるべく、こうして共に試行錯誤していたわけで。
「それにしても、ほんと美味いっすよこれ! 人参の甘さもしっかり引き出されてますし、これも砂糖とか使ってないから健康志向のお客さんにも人気出ると思いますし。流石は先輩っす!」
「……ええ、ありがとう。でも、私だけの成果ではないでしょう。貴方が手伝ってくれたお陰よ、戸波くん」
「……へっ? あっ、いえ俺なんて――」
その後、和やかな雰囲気でそんなやり取りを交わす私達。……ふぅ、良かった。語彙が戻ってきて。
さて、彼の言った通り先ほどまで作っていたのは人参を使ったシフォンケーキ。実家の菜園にて上質な人参が育ったと聞いて行ってみたら、なんと絶品。さっそくこれで何か作ってみたいと思い、ひとまずシフォンケーキを――すると、我ながら絶品。まあ、これは素材のお陰なのだけれど……ともあれ、そういうわけでこうして戸波くんに手伝ってもらいいっそう素晴らしい出来に――
「――っ!! 戸波くん、こっちへ!」




