慕われる理由
「――改めてだけど、ありがとう戸波くん。今日も本当に助かったわ」
「……ん? 何のはな……ああ、あれのことですね。いえ、お気になさらず! でも、ああいう人はやっぱお店としても困りますよね」
「……ええ、ほんとに」
それから、1週間ほど経て。
閉店後、キッチンにて改めて感謝の意を告げる。すると、ニコッと笑い答えてくれる戸波くん。……まあ、流石に分かってたけど。そう言ってくれることも、そういう表情を見せてくれることも。
さて、何の話かと言うと――本日の昼過ぎに当カフェへと訪れた、何とも面倒なお客さんのことで。
『――おい、どうなってんだこの店は! 客のもてなしもロクに出来ねえのか! ゴミみてえな店だな!』
入店ほどなく、荒々しく叫びを上げる中年男性。何を不服を訴えているのかというと――どうやら、自分の求める席が空いていないとのことで。
だけど、当店は指定席のシステムではないし、縦しんばそうだったとしても彼は予約などしていないので文句を言うのはお門違いと言わざるを得ないのだけど……まあ、時々いるから、こういう人。
ともあれ、そんな荒ぶるお客さまを戸波くんが優しく宥めてくれたわけで。ああいう厄介な人でも、最後には笑顔にさせてしまう辺り本当に私には……いや、他のスタッフの誰にも出来ないであろう芸当で。こういうところにも、彼が慕われる理由の一端が窺えて――
「――それで、先輩。どういったご用で、俺らは今ここに?」
そんな感心の最中、不思議そうにそう問い掛ける戸波くん。そう、今日の作業は終わったのだけれど、こうして彼には今ここに残ってもらっているわけで。と言うのも――
「……少し、共同作業をしたいと思って」




