再びのデート?
「――いやーほんと嬉しいっす! よもや、あの高月先輩がこうしてまた誘ってくれるなんて! あまりの衝撃に、最初は先輩を騙る詐欺師か何かかと思っちゃいましたよ!」
「……いや、どんな詐欺師よ。そもそも、私が誘うことってそこまで意外でも……いえ、意外ね」
「自分で言っちゃった!?」
ある定休日の昼下がり。
そんな和やかな(?)応酬を交わしつつ、冬枯れの道を2人歩いて行く。少し寂しいようなこういう景色も、他の季節とはまた違う趣がありやっぱり四季があるのは良いなと改めて沁み沁み思う。
さて、私達が向かっているのはカラオケ――電車で30分ほど揺られ、こうして少し遠くまで足を運んでいるわけで。
『……ねえ、戸波くん。次の定休日のことだけれど……もし良ければ、少し付き合ってもらえないかしら……カラオケに』
『…………へっ?』
昨日、薄明の頃。
帰り道にて、少し躊躇いがちに尋ねてみる。すると、ポカンと口を大きく開く戸波くん。その驚きは場所に対してか、それとも私の誘い自体に対してか。まあ、いずれによせ妥当な反応ではあるけれど。
さて、その理由はと言うと――大学進学を機に上京した中学時代の友人が帰省していて、電話で他愛もない話を交わしていた中、折角なので東京に戻る前に一度会わないかと言われ、私も少し会いたいなと思っていたので快諾。
その後、どこに行こうかという話になり、久しぶりにカラオケに行きたいとのこと。そして、こちらとしても異論はないので承諾……したは良いものの、カラオケは私もわりとご無沙汰で。まあ、友人と二人で行くだけなのだし気楽に考えれば良いのだろうけど……けれど、我ながら何のプライドなのかあまり恥ずかしいところは見せなくないので少しくらいは練習しておきたいなと。だけど……その、1人でカラオケにというのは私にとっては些かハードルが高く、それでこうして彼に付き合ってもらおうと……まあ、それはそれで少し恥ずかしいのだけども。
……ところで、それはそれとして――
「……ところで、改めて申し訳ないわね戸波くん。わざわざ、遠くまで連れてきてしまって」
「いえ、お気になさらず! 俺でも、流石に事情は理解していますし、それに――」
そう伝えると、ニコッと心地の良い笑顔で答えてくれる戸波くん。わざわざ遠出……と言うほどではないかもしれないけど、わざわざ30分も電車に乗って移動しなくてはならないほど我が町にはカラオケが普及してないのかと言えば、別段そういう事情ではなく。
ただ……まあ、万が一にも目撃されてしまうとまずいというか。社内恋愛は禁止じゃないので、縦しんば私達がそういう関係にあると思われても規則としては何の問題もない。ないのだけど……たぶん、離職率が跳ね上がる。特に藤巻さん辺りは、知ったその日に退職届を出しても私としては何ら驚かない。それほどに、戸波くんの存在は――
「――それに、むしろ俺としては遠くに来れて良かったです。少しでも、先輩と長くいられますから!」
「……っ!! ……そう、本当に物好きな人ね」
そんな懸念の最中、ニパッと莞爾とした笑顔を見せる戸波くん。……うん、最後まで保つかな、心臓。




