カフェ『TAKATSUKI』
「――今日もありがとうございます、遠山さん、石見さん。また来てくださいね!」
それから、暫く経て。
夕さり頃、若い男女のお客さんを笑顔で見送る戸波くん。そんな彼に、2人も嬉しそうに答え店を後に……ほんと、流石ね戸波くん。
ちなみに、先ほど戸波くんは名前を呼んでいたけれど――今の2人が、以前からの彼の知り合いというわけではなく。ただ、誰に対してもそうなだけ。なんと、彼は来店する全てのお客さんから名前を聞き、お客さまではなく名前で呼ぶようにしていて。
とは言っても、当然ながら誰に対しても強制することはない。実際、そういうのが苦手で迷惑そうにする人もいるし、それも当然。だけど、大半の人は喜んでくれているのが傍目にもはっきりと伝わって……ほんと、私には到底できない芸当ね。
「ところで、ほんと良いとこっすよねここ。働いてるから言うわけじゃないっすけど、他のどのカフェよりここが好きっす。こっから見える自然も最高ですし、店の中も幻想的で……すみません、語彙力なくて、俺」
「……いえ、とても嬉しいわ。ありがとう……と言うのも少し変ね。私だけのお店じゃないのだし」
その後、ほどなくして。
営業を終え閉店作業の最中、ふと莞爾とした笑顔で告げる戸波くん。突然ではあるけれど、そう言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。まあ、私だけのお店じゃないんだけども。
さて、ちょうどその話が出たので軽く当カフェの説明を――ここ『TAKATSUKI』は地元の小さな山の中腹辺りに立ち、店内の窓からは四季折々に色を変える豊かな自然を一望できる。そして、明かりは最低限の灯火と僅かに射し込む陽光のみという、いわゆるSNS映えはしないであろう仄暗い空間なのだけれど……むしろ、当カフェはそこを一つの魅力として――
「――でも、やっぱ一番は高月先輩がいるからっすけどね!」
「……っ!! ……全く、調子のいいことを……」
すると、パッと咲くような笑顔でそんなことを言う戸波くん。……全く、私なんかのどこがそんなに良いんだか。




