第12話 暴風の如き連射と、五つ目の鼓動
ガシャーーーン!!
空になったポーション瓶が、赤黒い生体組織の床に転がり、乾いた音を立てる。これで12本目だ。
「……ッ、まずい、まずすぎる! 胃袋が雑巾を絞られたような気分だ!」
俺は吐き気をこらえ、【轟弾】の反動で痺れる右腕を無理やり固定した。
視線の先には、七階層の壁から際限なく溢れ出す【カースド・キメラ・ボーン】。獅子と山羊の頭を持つ巨大な骨の怪物が、怨嗟の声を上げて迫ってくる。
「マサタカさん、また来ます! 右から三体!」
「太郎、ゴブノ助! 抑えてにゃ!」
ひとりの水流が敵の足を止め、ホノカのテイムモンスターが肉壁となる。だが、七階層の敵はタフだ。並の攻撃では足止めにすらならない。
「……関係ねぇ。弾なら腐るほどあるんだよ!」
俺はストレージから一気に3本の特製ポーションを口に放り込んだ。
ドロリとした苦みが喉を焼き、強制的にHPが全快する。それと同時に、過剰な魔力が全身の血管を叩き割らんばかりに暴れ狂う。
「【轟弾】・五連射!!」
ド、ド、ド、ド、ドォォォォン!!
爆音と共に、キメラの巨体が内側から弾け飛ぶ。
本来なら一発撃つごとに数分の休息が必要な高ランク魔法。それを、俺はポーションによる強引な「リロード」で、文字通り魔法の機関銃へと変えていた。
「信じられない……。あんなに酷い味なのに、よくあんなペースで飲めるにゃ……」
「マサタカさん、もう半分トランス状態ですよ……!」
ホノカたちが引いているのがわかる。だが、これでいい。
**「最強」**とは、常識を捨てた先にあるものだ。
◇
一帯の敵を掃討し、俺は荒い息を吐きながら壁に背を預けた。
【魔眼】が自身のステータスを映し出す。
【佐藤 正高】
保有スキル: 【轟弾】【魔眼】【カウンター】【錬金術】
状態: 軽度の魔力酔い、重度の胃もたれ
習得進捗: 次のスキルまで:98%
「あと少し……。だが、何かが足りない」
【轟弾】による圧倒的な火力はある。だが、この「飲んで撃つ」戦法には欠点があった。飲む瞬間に隙ができること。そして、足が止まることだ。
その時、【魔眼】が壁の向こう側から迫る「速すぎる魔力」を捉えた。
「っ!? 全員、伏せろ!」
シュパッ!!
空気を切り裂く音がした瞬間、俺の頬を鋭い風がかすめた。
現れたのは、半透明の刃を持つ【ウィンド・リーパー】。音もなく移動し、獲物を細切れにする七階層の暗殺者だ。
「速い……! 狙いが定まらねぇ!」
【轟弾】を放とうとするが、敵は風に乗り、俺の視線を嘲笑うかのように死角へと回り込む。
――もっと速く。
――視線よりも、思考よりも、身体そのものを風に乗せろ。
俺は【魔眼】の焦点を、自分を取り囲む「空気の流れ」に合わせた。
10個のスキルを極めるには、力だけでは足りない。あらゆる属性を理解し、支配する必要がある。
「見えた……風の道筋だ」
俺はポーションを一本飲み込み、そのエネルギーを破壊(轟弾)ではなく、脚部の神経へと集中させた。
『個体名:佐藤正高が特定条件(風への同調)をクリア。5つ目のスキルを習得します』
脳裏に響く冷徹な声。
次の瞬間、俺の身体から重力が消えたような錯覚に陥った。
「【疾風歩】――起動!」
俺の姿が掻き消える。
ウィンド・リーパーが驚愕に目を見開くが、既に遅い。
俺は風よりも速く奴の背後に回り込み、至近距離から【轟弾】を叩き込んだ。
「……5つ目。これで半分だ」
硝煙の中で、俺は自分の脚を包む緑色の淡い光を見つめた。
最強への階段を、また一段、駆け上がった。




