第11話 物量作戦と七階層の深淵
あれから丸三日、俺たちはセーフティエリアに籠もりきりで作業を続けた。俺の【錬金術】スキルは、数百回に及ぶ失敗を経て、ようやく安定期に入っていた。
「……998、999……1000本目。よし、完成だ」
目の前には、不揃いな小瓶に詰められた紅色の液体が山をなしている。 名付けて『マサタカ印の特製ポーション』。
「マサタカさん、もう水が出ません……指がシワシワです……」 「あたしも、もう草をちぎりすぎて爪が緑色に染まったにゃ……」
ひとりとホノカは、精根尽き果てた様子で床に転がっている。 だが、この三日間で得たものは大きい。 市販品なら数億円はする量のポーションが、今、俺のストレージにパンパンに詰まっている。
「これさえあれば、俺の【轟弾】は文字通り『弾数無限』になる。最強しか目指さない俺にとって、これ以上の武器はない」
俺は一本、試作ポーションを煽った。 味は……ドロリとしていて、焦げた苦味と草の生臭さが混ざったような最悪の味だ。だが、HPは確実に回復する。
「味なんて二の次だ。行くぞ、二人とも。次はトーキョーベイダンジョン・七階層だ」
◇
七階層への階段を下りた瞬間、空気の重さが変わった。 六階層までは石造りだった壁が、ここでは赤黒い生体組織のような質感に変化している。
「ここからが、本当の深層ね……」
ホノカが身構える。彼女が召喚した太郎とゴブノ助も、低く唸り声を上げて周囲を警戒している。
ギギギギ……ッ!!
闇の中から現れたのは、六階層のボスだったスケルトンナイトキングが雑魚として群れをなしている――【深淵の衛兵】たちだ。それが十体以上。
「いきなりこれか。だが、今の俺は以前の俺じゃない」
俺は一歩前に出る。 本来なら、十体以上の深層モンスターを相手にするなら、慎重に各個撃破するのが定石だ。だが、俺は最短ルートを行く。
「【轟弾】!」
一発、二発。衛兵の盾を粉砕し、その核をぶち抜く。 すかさず、ストレージから特製ポーションを取り出し、一気に飲み干す。 胃が焼けるような不快感と共に、削れたHPが急速に補填される。
「【轟弾】! 【轟弾】! 【轟弾】!」
連射。 HPが減る。飲む。撃つ。 それは、これまでの「命を削る一撃」ではなく、「弾薬を消費する銃撃」へと進化していた。
「……信じられないにゃ。あの高ランク魔法を、あんなペースで撃ちまくるなんて」 「マサタカさん、本当にポーションの味を気にしてないんですね……私なら一口で気絶しそうです」
驚愕する二人を背に、俺は衛兵の群れを蹂躙していく。 七階層のモンスターたちは次々と霧散し、大量の経験値が俺に流れ込む。 【魔眼】が、新たなスキルの予兆を捉えた。
『個体名:佐藤正高の練度が規定値に達しました。特定条件を満たすことで、5つ目のスキルを習得可能です』
「見えたぞ。5つ目のスキル……そしてEXランクへの道が」
俺は、最悪な味のポーションをもう一本飲み込み、不敵に笑った。 最強しか目指さない。そのための「物量」という戦略は、正解だった。




