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「・・・・・・婚約破棄された理由は・・・・・・私が――」


(ここで本当のことを言ったら、ピナベーカリーが潰れてしまうかも。どうしよう……でも嘘なんてつきたくない)


 長い沈黙が、作業場に重苦しく流れる。


「あーー、もうじれったいな。恥ずかしくて、本当のことが言えないなら、僕から話すよ。マリアは、自分が実家のパン屋を助けるために進学を諦め給料を全部親に渡していた、と僕に言っていたんだ。妹がルクレール女学園に行けたのも、自分が働いてきたおかげだと、僕に思わせた。でも、それはすべて嘘だったんだよ」


 職場のみんなの視線が、私に突き刺さる。


「本当のところ、マリアの実家は裕福なパン屋で、店も大きく立派だった。とても繁盛していて、ただ勉強が嫌いだったから進学しなかっただけだ。家を助けるために、お金を両親に渡していたこともないらしい。僕は、家族思いで健気なマリアを守りたい、と思ったんだ。頑張り屋で自分を犠牲にしてコツコツ働くその姿が、何より尊いと思った。でも、それはまったくの嘘っぱちだったんだ!」


 レオナード様は、私の両親や妹から聞いた話を、迷うことなくみんなに語った。最初は気の毒そうに見ていた視線が、徐々に冷たく変わっていく。


「違う、違うんです。本当に私は嘘なんかついていません」


「じゃあ、ピナベーカリーの人たちが嘘つきということかい? あの人たちはみんないい人そうだったし、店はとても繁盛していたじゃないか。きれいな店内にはお客さんがいっぱいだったし、横にはカフェまで併設されていた。あんな店の娘だったら、学園に行けたはずだろう?」


「なるほど・・・・・・それは、がっかりでしたね。家族を悪者にするなんて、たちが悪いなぁ」

「同情してもらうために、嘘までつくなんて、どうかしてるわよね。騙されたレオナード様がお気の毒だわ」


 私はすっかり、みんなから嫌われてしまった。居心地は最悪で、毎日ここから逃げ出したいと思っていたけれど、実家には私の部屋もないし、ほかで働く場所もなかなか見つからない。だから、変わらずブロック服飾工房で働き続けるしかなかった。




 それからしばらくして、レオナード様が珍しく私に微笑みかけ、明るい口調で話しかけてくれた。


「マリアに感謝したいことがあるよ。ソフィアという素晴らしい女性に出会わせてくれたことだ。僕は彼女と結婚することにしたから、君もぜひ祝ってくれたまえ。僕を騙したことは、すっかり水に流してあげよう。結婚式には参加してくれるよね?」


「結婚式ですか? 両親や妹からは何も聞いていないんですが……」



 私は仕事が終わるとすぐに実家に向かい、両親とソフィアにそのことについて質問した。店はちょうど閉まるところで、私たちはカフェスペースに座り話をする。


「ソフィアとレオナード様が付き合っていることさえ知らなかったわ。結婚式の日取りも聞いてないんだけど」


「レオナード様を奪った形になってしまって、言いづらかったのよ。本当はお姉ちゃんが花嫁になるはずだったのに、きっと私に怒ると思って。だから秘密にしておいた方がいいと思ったの。無理に出席しなくていいからね」 


「それは・・・・・・確かにちょっと複雑な気持ちだけれど、ソフィアの結婚式なんだからお祝いしてあげたいわ……二人きりの姉妹だし」


「ありがとう、お姉ちゃん! 大好きよ」


 ソフィアは可憐な笑みを浮かべ、愛らしい顔で私を見つめた。


(あんなことがあっても、たった一人の妹なんだから・・・・・・やっぱり家族としてお祝いしてあげたい)


「マリアは思いやりのあるいい子だわ。さすが、おねえちゃんね!  良かったわね 、ソフィア。マリアはもう気にしていないようだから、遠慮なく幸せになるのよ」


 母さんが私を褒めながら、子供の頃のように頭を撫でてくれた。それだけで少し嬉しい気持ちになるから不思議だ。


(これでいいんだ。私さえ、我慢すれば・・・・・・)



 。゜☆: *.☽ .* :☆゜



 あっという間に、ソフィアとレオナード様の結婚式前日になった。私はソフィアに誘われ、湖へピクニックに行くことになった。


「昔、一緒に遊んだ湖へ、結婚する前にお姉ちゃんと行ってみたいの。結婚したら忙しくなっちゃうからね。実はね、服のデザインに興味があって、レオナード様を手伝って、貴族の方々向けのドレスを作ってみたいの。ルクレール女学園では貴族のマナーや話し方、カーテシーの仕方まで教わったのよ。そんな高貴な方たちとお知り合いになるのが夢だったから、これで叶うわ!」


「きっと、ソフィアならいろいろなことができるわ。応援しているわよ」


 婚約者を奪われたとしても、私のソフィアに対する愛は変わらない。幼い頃から「お姉ちゃん大好き」と言われてきた私だから、妹を嫌いになんてなれなかった。


 けれど、二人で楽しく過ごした帰り道――突然、ソフィアが私を湖に突き飛ばした。


「ごめんね、お姉ちゃん。私はあなたに結婚式に出席してほしくないの。だって、私のお友達は皆ルクレール女学園の卒業生で、お金持ちのお嬢様ばかりなのよ。お姉ちゃんみたいに学がない人が出席したら、私が笑われちゃうでしょう? だから、明日は風邪をひいてほしいのよ。そうしたら、私の結婚式に出席できないもの」


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