表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

5

「レオナード様、信じてください。私は嘘なんて言っていません!」


 どんなに訴えても、レオナード様は両親と妹の言うことを信じてしまった。働いてきたお金をずっと両親に渡していた証拠など、どこにも存在しない。受け取った両親が「もらっていない」と言えば、それまでだ。それに、今のピナベーカリーはとても繁盛しており、かつて潰れそうだった5年前とはまったく違っていた。


「お姉ちゃんが、本当にごめんなさい。それにしても、信じ切っていたレオナード様がかわいそうです。なんてお慰めしたらいいのか……」

 ソフィアは穏やかな笑みを浮かべ、レオナード様の腕にそっと手を添えた。その笑みには、慰めと励ましのやさしさが込められていた。


「本当に申し訳ありませんね、レオナード様。私たちのほうでマリアを叱っておきます。婚約破棄の件は承知いたしました」


 母さんと父さんは何度も頭を下げ、繰り返し謝った。


「ソフィアちゃんはルクレール女学院を卒業してからずっとカフェで頑張っているのに、マリアちゃんは意地悪だねぇ。ひがむのも大概にしなよ」

 顔見知りのおばさんが、私に説教するように言った。この場に、私の味方はひとりもいない。


 レオナード様が帰った後、私は母さんや父さん、ソフィアにパンの焼き窯がある厨房の奥に引っ張られた。


「マリア、すまない。こらえてくれ。うちは美味しいパンと飲み物を、心が温まる接客で提供している、仲良し家族が売りの店なんだ。マリアに働かせ、ソフィアだけ学園に行かせていたなんて噂が広まったら、ひどい家族だと思われて……客足が遠のいてしまう」

 父さんは眉尻を下げ、私に頭を深く下げた。


「そうよ。マリアは勉強が嫌いで針仕事が好きだから、自ら進んでブロック服飾工房で働いていることになっているの。私たちが学園進学を諦めさせ、お給料を全部入れさせていたなんて知られたら、イメージダウンよ。店の信用問題になって、売り上げに響いてしまうわ」

 母さんは涙を浮かべ、私に謝った。


(よくわからない……本当のことを知られると、パンが売れなくなるの……?)

 事実を言っただけなのに、それが家族を困らせる『言ってはいけないこと』だなんて、今まで知らなかった。


「お姉ちゃん、ごめんね。あぁでも言わなければ、私が自分だけいい学校に行ったわがままな子だと思われちゃうの。そうしたらきっとカフェの売り上げも落ちてしまうわ。ごめんね……お姉ちゃん、許して。大好きよ」

(……私さえ我慢すれば、すべてうまくいくの……?)


 3人に謝られ、怒るべきか、泣くべきかもわからなくなった。

(私はどうすればいいんだろう……)


 ブロック服飾工房に戻ると、1階の作業場にはレオナード様がいて、憎々しげに私を睨んでいた。

 今日は平日で、作業場ではみんなが働いている。ピナベーカリーは休日にお客様が多いため、比較的すいている平日に挨拶に行ったのだ。


「まさか、そんな嘘つきだとは思わなかったよ。本当ならやめてもらいたいところだが、一度でも妻にしようと思った女性だ。このまま雇ってあげるから、婚約が破棄されたことは自分のせいだと、みんなの前で言ってくれ。僕が心変わりしてマリアを捨てたなんて思われたら、工房のみんなに白い目で見られてしまうからね」


 作業場にいた同僚たちは、その言葉に一気にざわついた。


「婚約を破棄された? 一体どういうことなんですか?」

「あんなにラブラブだったのに、どうしたんですか? レオナード様、マリアさんがかわいそうです」


「ほら、聞いただろう? こうやって僕が責められてしまうじゃないか! みんなの前で、なぜマリアが僕から婚約破棄されたのか、その理由を教えてあげてくれ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ