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「これがいいわ! お母様 ! 理想のドレスを見つけました!」
へバーン伯爵令嬢は嬉しそうに声を上げた。へバーン伯爵夫人は私に近づくとデザイン画をじっと見つめ、にっこり笑った。
「本当に素敵ね。私のドレスもお願いしようかしら。ちょうど王家主催の舞踏会があるのよ」
へバーン伯爵夫人はそう言うと、サンテリオ侯爵様に、私を屋敷に招きたいと話を向けた。
カエリンさんが、そっと耳元でささやく。
「貴族のお客様は、気に入ったデザイナーを屋敷に招き、そこでデッサンをさせたり、トルソーに生地を巻き付けさせながら、希望を伝えたりすることも多いのよ。お気に入りになると、特別に大切にもてなされることもあって、貴族だけが味わえる高級菓子が振る舞われて、お土産までいただくこともあるわ」
(なるほど・・・・・・すごい世界ね)
「承知しました。でしたらご都合の良い日時をお知らせください。 私とマリアが一緒にへバーン伯爵邸にお伺いしましょう。まだマリアはサンテリオ服飾工房に入りたてですから、私が同行します」
サンテリオ公爵様はヘバーン伯爵夫人とあっという間に、約束の日時を取り付けた。へバーン伯爵夫人のドレスは屋敷でデッサンすることが決まり、へバーン伯爵令嬢のお茶会用ドレスは私のデザインで正式に確定した。
そして、再びサンテリオ侯爵様の執務室で、契約書に向き合うことになったのだった。
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就業時間が終わると、みんな一緒に談笑しながら寮に戻る。夕食の時間もにぎやかで、笑い声が絶えなかった。
「あぁ、まだまだ話し足りないわ。寝る前に、談話室でみんなでおしゃべりしない?」
カエリンさんがにこにこと提案すると、みんなの意見はすぐに一致した。リラックスできる格好に着替えた私たちは、談話室に集まる。
年頃の女性が揃えば、自然と恋の話題に花が咲く。
「マリアさんは、結婚を誓いあった人とかいるの?」
カエリンさんがにこにこと尋ねる。私は静かに首を横に振った。
「でも、好きな人くらいはいるんでしょう? きっとオッキーニ男爵領にいるのよね?」
カエリンさんは少し寂しそうに続ける。
「私もマールカ伯爵領に恋人がいるから、まとまった休みの日にしか会いに行けないのよ。ちょっぴり寂しいけど、会えたときの嬉しさはそのぶん大きくて、ときめきっぱなしよ」
仲間たちは婚約者や恋人、あるいは片思いの話で盛り上がる。中には失恋の話をする子もいて、自然と異性の話題にまだ触れていない私に、視線が集まった。
何か話さなければと思い、迷いながらも少しだけ口を開く。
かつて婚約破棄されてしまったことを、事実だけを淡々と語ったつもりだった。今となっては遠い昔のことのように感じられ、もう気にしていない――とも付け加える。
「その性悪な妹が許せないわね。それに、元婚約者も残念な男だわ……ずいぶん辛い思いをしてきたのね」
仲間のひとりが、私を慰めるように口を開いた。
少ししんみりした空気の中、カエリンさんが私の背中に手を置き、優しく撫でながら大きな声で励ましてくれる。
「マリアさんにはすごい才能があるんだから、これからいくらだって幸せになれるわ! 私たちは仲間だし、全力で応援するからね! そんな妹や元婚約者なんて、見返してやればいいのよ!」
カエリンさんの明るく力強い声に、自然と笑顔がこぼれた。
心の奥まで温かさが広がっていくのを感じながら――私は、ここに来てよかったと改めて思ったのだった。
※ちょこっとレオナード視点
最近、ファッションの聖地サンテリオ侯爵領で、驚くべき才能を持つ若き女性デザイナーが評判になっているらしい。いったいどんな人物なんだろうと気になるが、 僕が気になっていることはもっと他にある。 実は、マリアの妹と結婚したことが大失敗だったんじゃないかと思うからだ。なぜかといえば・・・・・・
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※次回のお話はレオナード視点。プチざまぁにするつもりです!