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第82話【『学食』、そこにはエリタスサマの指定席があった……】

 三時限目の鐘が鳴り終わると、〝昼食〟になるらしい。なぜこれが分かったかといえば、教室の中に、〝家から持ってきた弁当(もちろん白米じゃないが)〟を広げる者が何人か。エリゼさんもなにか広げている。やっぱり〝あのサンドイッチ〟なのだろうか。そのエリゼさんの周囲にやはり〝制服みたいな服〟を着ている女子たちが四人ほど集まり始めている。全員制服着用とは『類友』とはこういうことをいうのか。その服のせいか誰もみんな〝善良そう〟に見える。

 あそこが元女奴隷の皆さんの数、『二十四』の出所だとは信じたくない——その刹那、〝ぐーっ〟と腹が鳴った。

 って、僕は食べる物、なんの用意もしてないぞ。周囲を観察すれば連れ立ち小グループで席を離れる者たちが何組かいる。

 ここに『学食』的な施設があるんだろうか? 持ち合わせ(お金)など無いぞ。けど、あったとしても〝カンベンしてくれ〜〟だ。それっていわゆる『ぼっち飯』になるってことじゃないか。


 Fラン大である仏蘭大、ここで〝人脈〟を作ってしまうことに若干恐怖を感じた故に大学では〝意志を持ってぼっち飯〟を貫いていた(?)が、ここじゃあそうした〝合理化〟もできない。しかも〝知ってる人〟はエリタスサマだけだぁ……

「ロクヘータ、ごはんいっしょに食べに行くから」とそのエリタスサマが声をかけてくれた。

「お金は?」と、つい凄く情けないことばが。『学校内無銭飲食で捕まりました』じゃシャレにならない。

「わたしが出すわよ」

「あっ……、ありがとうエリタスサマ」

 しかしエリタスサマは少し怪訝そうな顔をして、

「護衛頼んだの忘れてない?」とキタ。

 そーいや、そうでした。〝ありがとう〟を感じる意味など無かったのかもしれない。


 しかし、エリタスサマが僕と二人きりで昼食を採ってくれるはずが無く、例の〝黒髪の乙女三人組〟も既にやって来ていて、温和しくエリタスサマを待っている。

「じゃあみんな、ランチを採りに行きましょう」とエリタスサマが音頭をとる。


 『ランチ』っていうのは英語で、『この世界、英語が通じるのか』、とも思うが、この中の誰もが意味は理解しているよう。そして同時に〝黒髪の乙女三人組〟、みんな実に乗り気で無さそうな顔をしているのがなんとも……

 明らかに僕と昼食をともにしたくないって顔だ。


 

 ともあれ、エリタスサマを先頭にこのグループは歩き出す。エリタスサマに訊けば〝生徒用の食堂〟というものがあるそうな。〝やはり〟というか、大学で言ったら正に『学食』だ。蛍光灯がさんさんと輝く白色空間、というのが『学食』イメージだったが、この異世界の学校の『学食』の中に入ると、その印象は明らかに異なっていた。

 天井はアーチ状、あたかも教会の礼拝堂のような空間になっていて、ここで食事を採るというのが何やら妙な気分ではある。テーブルも椅子も教室同様立派な木製でやはり重厚そう。

 すでに席はかなり埋まっているようで、〝五人もまとめて座れる場所〟が残っているのか、と率直に思ったが、驚くべきことにその五人分の席が、そこだけぽっかりと空間状態のまま残っていた。


「ここよ、」と、普通にエリタスサマ。


 そう言われたがどうにも不信感と違和感しか感じない。明らかにそこに目立つスペースが存在するのに、どうしてこの席は他の誰にも座られることなく空き続けていたのか。

 別にテーブルに生徒の個人名も、番号のような何らかの記号もなにも無い。つまり指定席である根拠も見当たらない。


 そのせいでつまらないことを思い出した。僅か二ヶ月ほどの大学生活だったが僕はどうもこの『学食』なるものに馴染めなかった。〝一人で食事を採るのに勇気が要る〟からだ。そういう意味でいまは一人でないからそういう気まずい思いはしなくていい理屈ではある。

 その『学食』では謎の行為〝場所取り〟なるものが跋扈していた。要するに『この一角はオレらのグループの場所だから』というワケだ。大学側もこの手の行為については注意喚起し『やらないように』と注意を与えてはいたが、一人パシリみたいなのを場所取り要員として使い複数の席を占拠させておくのだ。「そのうち来ます」とそういうことして、ノートやらファイルやらを〝その空いている席〟、テーブル上にこれみよがしに置いておく。花見かよ!


 僕は大学に入りたての頃その〝謎慣習〟を知らず、「この席いいですか?」と、そのノートやらファイルやらがてっきりソコに座っている人の持ち物だと勘違いして訊いてしまった。もちろんわざわざ見知らぬ人のすぐ隣に座ろうなどとはしていない。一席飛びの状態の席にまで置いてあったのでそう言ってしまったのだ。だがパシリ氏は「ダメだ」と言う。どうも学食のその一角が〝或るサークル〟の指定席に勝手にされているらしかった。それを身をもって知らされた。


 これが集う学生の質に問題があるであろうFラン大ならではの謎慣習なのか、他のマトモな大学、偏差値がマトモに高い大学ならもっと治安が良い(?)のかどうかはまったく分からない。なにせ高校からしてアレだったし、マトモな大学へ行った知り合いなどいないからだ。


 それとは対照的にこの貴族の子弟が通っているはずのこのいかにも『名門校』っぽい学校で、ここにどうしてFラン大と同じような謎慣習があるのか? 人間の取る〝()()()()〟という行動は、頭の出来不出来に関係無いとでもいうのだろうか?


 そんなろくでもないことを考えているうちにいつの間にかエリタスサマ、まるでそこが指定席であるかのようにもう席に落ち着いていて、その真向かい、対面の席、そこがあらかじめ定位置であるかのようにやはり席についている〝黒髪の乙女三人〟——、いや、二人しかいない、その二人との歓談を始めていた。

 この一角が空いていたことはとても偶然とは思われない。当人たちもそれが、さも当然、といった態度にしか見えない。


「あの、エリタスサマ、」と意を決しエリタスサマに話し掛ける。歓談の腰を僕に折られた〝黒髪の乙女・現状二人組〟からは睨まれた。

 年下の女子に睨まれ怯んでられるか! こっちは無双転生者だ!

「ああ、場所ね。いいからわたしの隣の席に座りなさい」とエリタスサマ。まったく勘違いした〝答え〟だ。しかし取り敢えず言われた通り隣に座り、そして、

「僕たちがここに入ってきたとき、もうけっこう混んでいたと思うんですけど、どうしてここが空いていたんでしょう?」と率直に訊いた。

「わたしたちの席になっているから」あまりにあまりなあけすけな回答をエリタスサマはして、そして〝歓談〟へと戻っていく。


 いや、なってないだろ。と思うしかない。印もなにもこれらの席にはつけられていないんだから。或る意味あのFラン大を超えている。

 〝エリタスサマだから特別扱い〟であるとしか思えない。

 続きは『カクヨム』で連載中です。

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