第80話【無双転生者は授業に集中しない】
〝休み時間〟などというものは短い。始業開始を告げると思われる鐘が鳴り響くやいなや、皆サッと行動を切り換える。あの〝黒髪の乙女三人組〟も自分の席へと戻っていく。
やってきたのはさっきの〝初老の教師〟。どうやら『歴史』の授業が二時限も続くらしい。そしてやはり授業が始まる時も起立礼。着席するや一応、教科書とノートを机の上に広げる。改めて見てみても自分でノートになにを書いたのかよく解っていない。
転入生は入って間も無いその時だけクラスの中心人物になれる——改めてそれを肌身で感じてしまったわけだが、元の世界では転入してきてもこれほどの〝騒ぎ〟にはならなかった。
改めて、この一時間ほどの記憶をたぐり寄せてみる。鉛筆を右手に構え持ち、その先はノートの隅の上に。
何回か教室中が騒々しくなった——
まずはほんのついさっき。エリタスサマが僕のことを『無双転生者』だとバラした後だ。とっくに知られていると思っていたがそうではなかったようだ。
〝バラした〟と思ってしまったが、これが良いことか悪いことかはいまのところよく分からない。少なくとも〝無双転生者〟なら年下の男子に舐められるという事態は起こらないに違いない。
——その前は……、なんだったかな……
あぁ、そうだ。『エリタスサマと同居している』と言ってしまったら騒ぎになった。まあでも、あの家は広すぎるから。そこはあの〝黒髪の乙女三人組〟も納得してたようだったし。まあ実際、決して2LDKなんかじゃないし、『美術品収納庫』は完全に別棟だし、完璧なほどにスキャンダルになりようがない。
あとの一回はそのエリタスサマを『エリタスサマ』と呼んだその直後。まぁ、ふつう同級生の女子に〝様付け〟などしないからな。あっ、でもあの〝黒髪の乙女三人組〟は『様』つけてたか。けどあの連中は女子だからな。男子が女子に『様』つけてたら、なんかおかしいんだろうなぁ……、なんていうかこの下僕感。僕も最初、すごい抵抗感があったはずなのにすっかりこの呼び方に慣らされてしまっているというのが嫌悪だ。
——しかし僕ってなぜにこんなところに居るんだろうね、そこんトコよくよく考えたら——、いや、よくよく考えなくても〝目的〟ってもんがなんにも無いぞ。とは言え元の世界でもFラン大だし、そこへわざわざ行った目的を訊かれたら、やっぱり〝目的〟ってもんが無いぞ。これはじき、エリタスサマが訊きかねないな。その時は……答えようが無いよなぁ、Fラン大の卒業証書は、あまり役に立ってくれなさそうだしなぁ……
「ロクヘータ、ロクヘータ、」と隣から唐突にささやくような小さな声。もちろんそれはエリタスサマだった。
「私語はどうかな、」と、一応顔をそちらに向けて返事した。ただでさえ僕はあの初老の教師に良い印象は持たれていないっぽい。私語について既に注意も受けている。
「さっきからぼーっとして、ノートもとってる様子ないじゃない」とエリタスサマ。
さりげなく人を観察してるのか。
僕は人差し指を立て口の前へ。もちろんこれには〝静かに〟以外の意味など無い。そしてすぐに前の方を注視するポーズをとる。
「あとでなに考えていたか訊くからね」と隣から小声で釘を刺してきた。
内心にまで干渉してくるつもりか、エリタスサマは。しかししょうがない。もう一度顔をそちらに向け黙って《《肯く》》と、やや不機嫌な顔をしたエリタスサマが右手の手の甲・親指の上辺りで鉛筆をくるり一回転。
あれっ、上手いな。
そうしてエリタスサマは黒板の方へと視線を戻した。
あの〝鉛筆くるり〟は正式にはなんという技名なのか。中学の頃アレがばかに上手い奴がクラスにいて、ソイツの真似をしてシャーペンを回そうと試みたところ何度やっても落っことし続けるという、そういうどうでもいいような思い出が蘇ってきた。
やっぱり〝学校〟という場所に来るとなぜか蘇ってくる〝感覚〟というものがある。〝大学〟ってトコは何かが違うんだよな……
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