第76話【その頃元女奴隷の皆さんは(その3)——リコルンさんの大演説編】
新たにこの戦い(?)に名乗り出た美少女女奴隷・リコルンに対しネイティアは露骨なほどに冷たい視線を投げつけ、
「ゴマすり女がなにを言うかと思ったら、」と忌々しげに口にした。
「たいしたこと言いませんね、あのエリタスお嬢様の前に出る勇気が無かった人の悪口なんて、まったく〝心〟をえぐりません」と、リコルンにはまったく効いていない様子。そのリコルンはミストラルを指さした。
「ミストラルさん、あなたの言うことは正しい。まったく正しい。だけど少し〝暗い〟。もっと明るく前向きにいかないと。ただでさえ『女奴隷』なんてやってるんです。心が少しずつ壊れていきますよ!」
「〝あの真理〟をどう明るく表現できるの?」とミストラルは眉を少しくもらせリコルンに訊いた。『あの真理』とは美少女であっても時間とともに美少女じゃなくなるという逃れられない運命のことを言っている。
「はい。もちろんできます」とリコルン。「——まずは現状を押さえておきましょう! ここにいるわたしたちは誰もが美少女、もはや身体全体が武器みたいなものです」
「——胸をはだけ、下になにも履かずに少しでもお股を開けば、いいえ。履いていてさえお股を開けば、必ずご主人さまはわたしたちの身体の上に乗ってくること受け合いです」
ここでなぜか〝きゃーっ〟とみんなの声。
「なにそんな声出してるんですか。わたしたちは『女奴隷』ですよ。みんながみんなそういう方向性で生きていくって決めてるはずです!」
リコルンの大演説(?)はまだ続いていく。
「——いまのわたしたちにはご主人さまを〝興奮〟させるだけの力がある!」
「——だけど十年後はどう? 二十年後は? 三十年後はどうなってるの?」
「——十年後くらいなら元々素材はいいわたしたち、ご主人さまをまだまだ興奮させられる。ただし、もう美少女じゃなくなっている」
「——二十年後くらいになると少し怪しくなってくる。たゆまぬ自己節制で体型だけは維持できても〝おっぱい〟だけは確実に垂れ下がり気味になってくる」
「——三十年後くらいになったら、ご主人さまが〝そういう趣味〟を持った趣味人でもないかぎり、いまと同じようにわたしたちには興奮してくれない」
「……」一同、どう反応していいのか、どこからも声が出てこない。
ここでリコルンは両手を大きく広げた。
「記憶を、記憶をよみがえらせることができたなら、わたしたちは〝永遠の美少女〟になれる!」
「あのぉ、どうやって?……」と、遠慮がちに訊いてみるラムネ。誰も動かないことに〝業を煮やして〟といったところ。率直なところリコルンは周りから〝マトモなヒト〟とは思われていない。マトモじゃないからエリタスの前に堂々と出られた、とも言えた。
「よくぞ訊いてくれましたラムネちゃん!」と元気よくリコルン。
(ち、ちゃん?)
ここにいる者は全て女奴隷。互いは元々ライバルであり友好関係は希薄、なれ合う習慣は無い。そんな中での〝ちゃん付け〟は、なにか〝軽く〟扱われているような、そんな気がしていたラムネであった。
「目の前にはすっかり老けてしまった元美少女。ふつう現実の実体の方が強烈で〝記憶〟なんてものは曖昧っ」
(それをこんなに明るい顔で言うかな?)と、どう反応していいやら解らなくなるラムネ。なんとなく相づちは打ちたくない。しかし、そんなラムネの内心など想像もできないのか委細構わず喋り続けるリコルン。
「——ではどうやってその曖昧なものを意識してもらえるのか? 答えを言っちゃいましょう! 記憶はモノに宿る!」
「ど、どういうこと?」すっかり〝女奴隷代表〟のようになっているラムネが訊く。
「それはテーブルですっ。わたしたちが造るテーブルです。そのテーブルは完成したら間違いなく美少女姿のわたしたちといっしょにご主人さまに記憶してもらえるんです。なにしろわたしたちの手作りなんですから」
「——しかもテーブルはお食事のたび、毎日使うんですよ。日常の景色の中に昔の記憶をよみがえらせるモノが常にある! これでわたしたちが何歳になってもご主人さまの中では永遠の美少女です!」
「すごいっ、すごいですリコルンさんっ!」とラムネ。先ほどまでの微妙な思いはどこへやら、両手の平を胸の前、思わず合わせて言っていた。
「一理あるわね、」とミストラルも。一方ネイティアは、というと——
(日常的にそこにあったら、そこにあって当たり前の物体でしかない、)としか考えられなかった。しかし、思いはしてもことばとしてはなにひとつ口から出せない。
というのも、期せずこの場に拍手が鳴り響いていたのである。美少女女奴隷みんなの拍手にリコルンの笑顔もはじける。リコルンはその余韻に浸り続けることもなく話しをラムネへと戻す。
「じゃあラムネちゃん! あのエリタスお嬢様のメイドの人にお願いね♪」と。
「え? なにかな?」なにをお願いされたかまったく解らなかったラムネ。
「このお屋敷に出入りの家具屋さん、そこの家具職人の人を連れてきてくれるよう頼んでください!」
「わたしが?」
「そうです。あなたがいちばんあの方たちとの距離が近そうですから」
「でも造ってもらったんじゃ意味が無いんじゃ——」
「当たり前です! わたしたちの手で造らないと! だけど適切な指導も無しに素人さんが家具を造ろうだなんて、そんなことをしたら悲惨な出来の物ができあがるだけです。テーブルを見てわたしたちの〝いい時代〟を思い出してもらうためにはマトモな物を造らなきゃですから!」
「素晴らしいです! リコルンさんっ」ラムネの声がさっきよりも少し大きくなっている。一瞬浮かんだ疑心暗鬼がもうどこかへ吹き飛んでいる。くるくる変わる猫の目天気のようになっている。
「じゃあお願いしますねっ」とリコルン。
(え?)とまたも意表を突かれる。さっきから〝られっぱなし〟のラムネ。これで四度目。しかもリコルンときたら提案だけして行動を共にしてくれる気配がどこにも見えない。ただニコニコ顔に笑顔を浮かべ続けている。
「え〜と、わたしひとりで?」と確認のためおそるおそる尋ねてみるラムネ。
「みんなで行ったら要求になっちゃいますから!」と、あまりに明瞭にリコルン。
リコルンとラムネの間の〝意識のズレ〟は変わらずこのまんまのようである。
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