第75話【その頃元女奴隷の皆さんは(その2)——ミストラルさんは不思議ちゃん編】
「まーた〝不思議ちゃん〟ぶりを発揮して少しでも存在感を高めとこうってわけ?」とネイティアが名乗りを上げたミストラルに噛み付いた。
しかしミストラル、まったく慌てず騒がず平然と、
「ネイティア、あなたは気づくべき。さっきまであなたといっしょに不満を言い合ってたコたちが日和見を決め込んでいることに」と言ってのけた。
とっさに振り返るネイティア。何人かの美少女女奴隷が気まずい顔をしたが、何人かの者が声を出し始めた。
「ルディアのヤツが生意気なこと言って!」「ご主人様に取り入ろうとしてるのよ!」「〝あの顔〟のぶんざいで!」
ルディアは歯がみはしたが下を向く。だがミストラルは逆にこう言った。
「わたしが〝日和見〟と言ったとたんに騒ぎ出す、もう答えは出ているわ」
事実それはその通りだったので、あっという間に皆沈黙してしまう。ネイティアがその〝皆〟を睨んだが効果はまるで無かった。〝声〟は二度とはあがらない。——ミストラルが続ける。
「ネイティア、あなたはもう少し〝可愛げ〟を意識した方がいいわ」
「そういう自分は〝カワイイ〟って自分で思ってるわけ? わたしから見たら気味の悪い女にしか見えない!」
「あなたとわたしの争いにも意味は無い。わたしがカワイイかカワイクナイかは、あなたやわたし、ここにいる誰にも決められない。もちろんわたし以外の他の誰もがそう。決められるのはご主人さまだけ。ご主人さまが『カワイイ』と思ってくれたらカワイイことになる」
「言っておくけど〝見た目〟でミストラル、わたしはあなたに負けているとは思わない」
「ネイティア、あなたはなにも解ってない。〝どっちがご主人さまに買っていただけるか〟という奴隷商館時代ならそうやって競うのも間違ってはいない。だけどもうわたしたちはお互い共通のご主人さまを持つ身になった」
「だから仲間だっての⁉ ウケる」
「仲間だとは言ってないわ。でもわたしたちには〝共通の敵〟がいる」
「共通の敵がいるならそれを倒すためにみんなで結束って流れになってるんじゃない?」
「結束したところで勝てる敵じゃないわ」
「ハァ? まったく意味解んない」
「『時間』よ」
「それって敵なんて〝いない〟ってことじゃない! 実体が無いんだから」
「実体としては無い。だけどわたしたちは時間の上に乗せられている。わたしたちは敵に流され続けている」
「話しが抽象的でイライラするわね」
「なら具体的に言うわ。わたしたちのいまの〝この美少女の容姿〟は衰える」
「なっ……」
「——『美少女』、『美女』はあっても『美おばさん』なんて聞いたことがない。そういう意味でわたしたちは全員同じ時間の舟に乗っている仲間みたいなもの」
もうネイティアがなにも言い返せなくなっている。ミストラルのターンが続いていく。
「——わたしたちの脅威はいま小さな女の子をやっているコたち。そして女の子の赤ちゃんたち、そしてまだ生まれてもいない女のコたち。そのコたちが美少女になる頃わたしたちの容姿なんてもう衰えてる」
「——だからこんなどうでもいい争いをしている時間なんてわたしたちには無いの。『テーブルを造る』、いまはそのためだけに時間を使って後のために少しでも時間を余らせないといけないわ」
ここでまた新たな参入者が現れた。
「ダメダメ、そんな後ろ向きじゃあ気分が暗くなるばかりです! だいいち早く雑に造っても意味は無い! どうせやらないなんて選択肢が無いのなら、とことんまでやってやるまでです!」
その声、〝造るテーブルの天板〟、その大きさを巡りロクヘータとエリタスの前に名乗り出た美少女女奴隷・リコルンであった。
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