第73話【〝我が一族〟の絶対秘密】
「なんでも訊いていいのですか?」とエリタスサマに念を押した。
「あまりプライベートに関わることじゃなければね」とエリタスサマ。
「〝ぷらいべーと〟ねぇ、」と思わず反芻するような声が出てしまった。
「なに、まさかロクヘータ、女の子のプライベートが知りたかったとか?」
なんたる言い草か。
「じゃあ別のものを——」
「ちょっと待ちなさい。言うのをやめられると気になるじゃない!」
めんどくさい性格だな。
「さっきの、は……」思わず〝鼻くそ〟と言いそうになってしまった。
「——馬車の中でエリタスサマが手の平の上で光らせたあの小さな塊、あれはなにかなって、」
「ロクヘータ、」
「はい?」
「やっぱり割と油断がならないわね」
人を危険人物のように言うなよな。
「まったく意味が解りませんが」
「教えない」
「え?」
「教えないってことを教えてあげたの」
なんだそれ?
「教えない理由が解らないんだけど」
「〝我が一族〟の絶対秘密ってね」
「僕は『一族同然』じゃなかったのか?」
「わたしと結婚したら〝本物の一族〟になるかもね」エリタスサマは振り向き、顔を半分ほどこちらに向けて言った。
到底本気で言っているとは思えない。
「こういう場合、『学校生活に対する不安』とか、そっち系の話しをするもんじゃない?」とエリタスサマに話しを逸らされた。もはや〝深追い無用〟というわけか。
学校生活系ね、
「では、訊きますがこの学校、何歳くらいの人が通う学校ですか?」
「十代」
「……僕はもう高校を卒業しているのですが」
「いーんじゃない? まさか〝浪人〟なんてしてないだろうし、大学一年なら十九なんでしょ?」
まぁ確かにFラン大である仏蘭大に浪人生などいないだろう。でも僕の場合転生後森の中で暮らしていた分、そこからプラス一年ほど経ってるはず。ま、僕は〝早生まれ〟だからまだ十九かもしれないけど。だけどいくら〝十代ギリギリセーフ〟でも高校卒業してまた高校みたいな所に行くのはな、正直つら——
〝つらい〟と思っている最中につまらないことに気がついた。この世界の学校、『制服』ってどうなっている?
「あの、エリタスサマ、ここに『制服』ってのはあるんですか?」
「なに? また『制服』着てみたくなったとか?」
わざわざ立ち止まりその上振り向いて言うなよ、と思うが、
「エリタスサマも学校へ行くのに〝いつもの服〟じゃないですか」
「失礼ね、まるで粗末な普段着で行ってるような言い草になってる。わたしは常に上等な服で日常も過ごしているから」
とても〝遅刻状態〟とは思えない落ち着きぶりだな。
「つまりこの学校は〝私服でもOK〟と、そういうことですか」
「そう。一応制服もあるけど私服でもいい。割と自由でしょ?」
「僕は奴隷商社で用意してくれたこれ一着なんですけど、この服はどんなもんです?」着替えが無いことについてなにか言った方がいいのだろうか、とも思うが『服をくれ』も図々しい。それにこの世界における洗濯の頻度も訊きたいところだがエリタスサマには訊きたくない。
僕の発した問いに応えるかのように、エリタスサマは改めてしげしげと僕を眺め——、
「ま、貴族とは言えないけど〝良いところのお坊ちゃま〟って感じには見えるかな」と結論した。
「『お坊ちゃま』?」
「割と幼く見えるから〝お坊ちゃま〟」
とことん舐められているな。
「まあ、取り立てておかしくなければそれでいいです」
——僕は『転校』という経験を一度だけしたことがある。見知らぬクラスの中、みんながみんな顔を見知っている中にただ一人、見知らぬ人間が入っていくという〝あの感覚〟というのは、正直良い気分ではない。
これでその〝転校生〟が勉強がスゲーできるとか、スポーツがスゲーできるとかだったら、ただでさえ耳目を集める転校生、あっという間にクラスの中心人物だ。ところが現実の僕はそんな者ではなく、その延長線上がFラン大だった。クラスの中心人物でいられたのは〝三日ほど〟といったところだったか。
しかし今回は、そのかつての経験をことごとく外している。
僕はその〝スゲー奴〟になった。なにしろ無双転生者だから。しかしこの能力、ぶっちゃけて言うと『破壊能力』でしかなく、〝殺人〟にも使えたりする……こうした場合の〝スゲー〟は、ろくでもない結果しか連れてこないような気がする。むしろ〝スゲー〟を隠しておいた方がいいんじゃないか、とさえ思える。
そしてもう一つ、今回はみんながみんな顔を見知っている中にただ一人、見知らぬ人間が入っていくという『転校スタンダード』を外している。
でもなぁ、見知ってるのがエリタスサマじゃあ……
ラムネさんや元女奴隷の皆さんといっしょに〝テーブル造り〟をやっていれば、ラムネさんともより親睦が深まり、元女奴隷の皆さんの顔と名前も一致したというのに……
「ここよ、」と唐突に声をかけられた。惰性で後をついて歩いていただけなので思わず身体が〝びくっ〟としてしまった。その様子を見透かされたか、
「なに? 緊張してるの?」とエリタスサマにイジワルそうに訊かれてしまう。
「いや、別に、」と反応を返すが、あの薄ら笑い顔で言われてしまった。
「転校生が転校初日から遅刻って、まるでマンガよね」
遅刻をしてるのはそっちもだよ! と言いたくなるが相変わらずこういうことは言えない。
すぐ目の前におよそ教室のドアとも思えない重厚そうなドアがある。それはほとんど『校長室』と同じに見える。ドアだけでこの圧。その上『転入』。一度経験していても、やはり慣れない。
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