第72話【校長室へとご案内】
馬車のドアの前、あの階段状の箱も、もう設置されている。その箱のすぐ横にルゥンさん。メイド服のまま〝御者〟やってたんだ……。っていうか〝御者〟もできるんだ。
馬車内に座る位置関係から〝父君〟に続いて階段を降りると、ルゥンさんがソツ無く〝父君〟に挨拶し、次いで僕。そして〝母君〟、最後がエリタスサマと同様に続けていく。
ちょっとだけ気になったことが。ルゥンさんの挨拶、「行ってらっしゃいませロクヘータ様」となっていたこと。いつもなら『ロクヘータさん』なんだけど。
それともう一つ、なんでエリタスサマの〝父君〟と〝母君〟まで馬車から降りる必要が?
「ではわたしはこのままお待ちしております」とルゥンさんの声が耳に入ってくる。これはもう何事か打ち合わせ済みなのか?
ここで、
「ロクヘータのためにわざわざお父さまとお母さまが来なくても構わないのに」とエリタスサマ。言い方がアレだが、これはこれで僕が疑問に思っていることでもある。
「ロクヘータ君は今日が学校初日だ。ここまで来てしまったし一応校長先生に挨拶をと思ってね」と〝父君〟。
無難な答え、といっていいのだろうか。〝母君〟の方は相変わらず無言。
「まるで親戚みたいね」とエリタスサマ。
「私は『もう我が一族同然』と言っただろ」と〝父君〟は答えた。
ズルズルとなんだかもう抜けられなくなってる感を感じる。
目の前にある『とーぞく・がっこう』とかいう学校の建物は、上背こそないものの伝統校の校舎はかくあるべし、という威厳を感じさせ、本来ならありがたくもないはずなのに、あたかも自分が〝難関校〟の生徒になってしまったかのような錯覚を起こさせる。ま、もう大学生なんだけどね、一応は。
少し変わっているのはこの建物、あの甲子園球場のように壁面に蔦のような植物がからまり独特の雰囲気を醸し出しているところ。
なにやらフォーエンツオラン家の紋章ってのに似ていなくもない——
〝父君〟を先頭に四人で隊列を組むように校舎正面玄関より中へと踏み込んでいく。土足のままで構わないようだ。馬車を降りた時とは打って変わり、必然的に僕はエリタスサマの後ろ、最後尾ポジションとなっている。
「確か、校長室はこっちの方だったかな、」と独り言のように言いながら〝父君〟は勝手知ったるといった調子で校舎の中でも先頭切って歩き出す。しかしなんのこともない。正面玄関から入った真向かいの扉がもう校長室だった。ただ、玄関から十歩で到達するような距離じゃない。
〝父君〟が年季の入った重厚そうなドアに取り付けてあるリングを手に取り二度、コンコンと二度ドアをノックした。
中から「どうぞ」と声がかかる。〝父君〟がドアを開ける。金縁の丸メガネをかけた背の高いオバサン(って言うと失礼か)が机の前に座りながら驚いたような顔をしている。が、それでも、
「お久しぶりです、フォーエンツオラン公」と、〝父君〟が何かを言う前に立ち上がるや向こうの方から挨拶をした。
「ちょっと急な予定変更で近くまで来たものでね、」と応ずる〝父君〟。
「ささ、奥方様もご息女様もご一緒におかけください」と、校長は全員を校長室内に設置してある革張りの応接セットへといざなう。
僕の指名は無かったようだったが、誰だか分からん者だからそこはしょうがない。皆が腰掛けるや間を置かず〝父君〟が切り出す。
「校長、噂はお聞きでしょうか? 彼が〝無双転生者〟です。名は『ロクロ・ロクヘータ』、そして我が家の遠縁の親戚でもある」
なんちゅー無茶苦茶な理屈……、いや、理屈そのものが無い。脈絡が無さ過ぎる! 〝書類上〟とはこういうことか!
「……〝そのこと〟でしたら、わざわざお越しにならなくても承知していましたものを」と校長。
「『組』はエリタスと同じにしてくれてありますね?」と〝父君〟が尋ねる。
「もちろんですとも。フォーエンツオランさんと〝同じ組〟です」
「私も『フォーエンツオランさん』ですが」と笑顔のまま〝父君〟が軽くツッコミを入れる。
「ご冗談を。あなた様はあくまで『フォーエンツオラン公』、もちろん奥方様は『フォーエンツオラン公爵婦人』です。ですからご息女は『フォーエンツオランさん』でよいのです」
「少し長いでしょう?」
「いえ、私にはご息女をお名前で呼ぶ資格などありませんから」とあくまで固辞し続ける校長。
「いやいや、挨拶のつもりがこれではまるで、もろもろ〝圧力〟のようになってますな」と言って〝父君〟が朗らかに笑うが校長の表情は固いままで「ロクヘータさん」と、突然こちらに振ってきた。
「へ?」急襲(?)を受け反応はこれだけ。
「〝ヘ〟ではありません。あなたは転校初日から遅刻なんです。フォーエンツオランさんに案内してもらって早く教室へ行きなさい」そう校長に言われてしまう。
〝転校〟って、僕はどこから転校してきたんだ?
「では校長先生、わたしは教室へ行きます」と、少し〝イラッ〟としたような声調子で言いエリタスサマは立ち上がる。僕は反応が遅れた。
「早くしなさいよロクヘータ」とエリタスサマに急かされる。言われるまま立ち上がるしかない。
ふたり同時に校長室の外へと出る。
「まったくお父さまったら」とぷんすか早足で歩きながらエリタスサマが口走る。
よく解らない。解らないままエリタスサマの後をついていく。
「同じ組になりたくなかったとか?」
急にエリタスサマは立ち止まり一八〇度ターン。
「傍に居ないでどうやって〝護衛〟するわけ?」
「いや、他に思い当たらなかったというか……」
エリタスサマは虚空を眺める。
「ま、しょうがないわね、解らなくても、」
「まあそういうことなら……」
「人が思わせぶりな話しをしている時は、そこを察して訊くのが〝日本人〟ってもんでしょっ」
こんな異世界で〝日本人〟、持ち出されてもなぁ。
「えっと、〝父君〟の何が気に食わなかったの?」
「『同じクラスにしてあるか?』、ただそう言って圧力かけるだけでいいのに。その後の話しはしなくてもいい蛇足だった」
「別にいいんじゃない? 世間話的なのも」
「『フォーエンツオランさん』のどこが世間話なのよ? お天気の話しじゃないのよ!」
「え〜と、確かに……」
「『挨拶のつもりがまるで〝圧力〟のように』ってね、かけた圧力の印象を少しでも薄めたいんでしょうけど、どんなにフレンドリーに振る舞っても圧力は圧力なのに」
「圧力はかけるべきじゃなかったってこと?」
「フレンドリーに振る舞う必要は無いってこと! どうせ効果無いんだし」
〝悪役令嬢モノ〟って悲劇的運命を回避するため、良い印象を持たれるよう心がけ行動し努力するってやつじゃなかった? むしろ〝父君〟の方が若干工夫しているような……って言ってもやっぱり〝圧力〟ではあるけれど……
「もしかして〝予定を変更した〟んじゃなくて〝最初からこの予定だった〟とか?」
「あり得る話しよね」
「そんなにこの学校に僕を入学させるのが難しいのなら、敢えて無理してくれなくても、」
「はぃ?」
「あっ、いや、なんでもないですっ」
トラブルの種になりたくないだけなんだけどな——
「まあいいわ。愚痴を聞いてもらってキレるってのもね」そう言ってエリタスサマはくるりと今度は前を向き再び歩き出した。歩きながら前から声が届く。
「じゃあ〝おあいこ〟にしようってことで、ロクヘータの話しもひとつだけ聞いてあげる」エリタスサマは言った。
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