第70話【エリタスサマは異能力者?】
「とは言ってもだ、」と〝父君〟の話しはまだ終わってはいない。「——こんな話しを突然されて、『信じろ』というのが無理筋というものだ。違うかね? ロクヘータくん」
「まあ、そうですよね、」と半ば誘導されるように返事をしてしまう。
「うん、普通はそうだ。そこで、いいかいエリタス——」と言いながら〝父君〟はエリタスサマの顔を見る。「——〝あれ〟をロクヘータ君に見せてやってくれないか?」
「見せるの? 失敗するのに、」と明らかに不服そうな声。
「その片鱗を見せなければロクヘータ君は信じないだろうからね」
「本当に〝片鱗〟なんだけどね、」とエリタスサマは不承不承承諾ながら承知した様子。
いったい今からなにが始まるっていう?
〝父君〟はやおら内ポケットに手を突っ込むと、レンズのフィルター入れのような入れ物、小さく薄いシャーレとでもいうのか、そのような形状のものを取り出した。蓋をねじると簡単に蓋が外れた。
その中には脱脂綿のようなものが敷き詰められていて、その真ん中に——なんというのか、〝鼻くそ〟のような小さな塊がひとつ……
なにこれ、と思ってる側から〝父君〟は豪快に(?)それを指でつまんで、
「さ、エリタス、」と声をかけた。エリタスサマが両手でお椀のような形を作ると〝父君〟はその中に〝小さな謎の塊〟をそっと入れた。
〝汚い〟とかなんとか言わないな。
エリタスサマはお椀状にした両手の中にある〝小さな謎の塊〟を一心不乱に見つめている。声も出さずにただじっと。
——さっきからずっとエリタスサマの両手を見ている。けっこうな時間が過ぎていっている。馬車の中、小さく小さく蹄の音と車輪の音が同じ調子で絶え間なく続いていく。誰もなにも言わない。5分以上経ったか?
いったい〝この行為になんの意味が?〟と、さすがに思い始めたその刹那、小さな謎の塊は黄金色に輝き始めた。
これは⁉
と思う傍からすかさず「ロクヘータ君確かに見たね」と〝父君〟の声が耳に届く。顔を上げ「見ました」と反射的に言い、再びエリタスサマの両手へと視線を戻すと黄金色の輝きはいま正に輝きを失おうとしているところ——
ここで「ふうっ、」とエリタスサマの息を吐く音。
「いったいこれはなんなんです?」
何を見せられたのかまるで解らない。が、問いに対する〝父君〟の答えは明瞭だった。
「錬金術だよ」と、〝答え〟を口にした。
「金になんてなってないけどね」とエリタスサマ。
「いや、この場合はエリタスが普通の人間じゃないと解ってもらうことが大事なんだ」と〝父君〟。
「まさかロクヘータ、人の能力見て『勝った!』とかつまらないこと考えてやしないでしょうね?」
「いや、考えてない。考えてないっ!」とほとんど反射的に否定してしまった。
『反射的』を抜きにしても、冷静に考えても能力的には『錬金術』の方がいいに決まってる。『無双』って、よくよく考えると〝対象を壊してるだけ〟だもんな。生産性が無さ過ぎる。
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