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第67話【ご両親へとお目通り】

 馬車の中へと足を置くと僅かに足の裏に〝クッション〟を感じる。すぐ目の前に一人の紳士と一人の淑女が進行方向を向いた座席に腰掛けている。既にエリタスサマは淑女の真向かいに着席していた。残っている席は当然ひとつ。迷いようもなくエリタスサマの隣に座る。紳士の真向かいだ。ここで外側からドアが閉められる。バタムと小さく低い音がした。


 車のついた乗り物の中で向かい合って座るというのは奇妙な感覚だが〝リムジン〟とはこんな感覚なのだろう。


「君がロクロ・ロクヘータ君だね、私が当主の『エリグ・フォーエンツオラン』だ」と紳士の方に声をかけられた。

「本来ロクヘータの方から名乗るもんだけどね」と隣から横槍のエリタスサマ。

 しまった! 言われてみりゃその通り。

「すみません。申し遅れました。僕はロクロ・ロクヘータといいます。『日本』という異世界からこの世界へと転生して来ました。エリタスサマにはたいへんにお世話になっています」

「こちらこそウチのエリタスがたいへんお世話になっています」と、再び紳士。

 ここで馬のいななき。馬車が動き出す。エンジン音もせずに進み始めるこの感覚はどこか不思議だ。

「エリタスが口を挟んでくるから話しが中途半端になってしまったが、もちろん私がエリタスの父で、」と紳士、いや、エリタスサマの〝父君〟は口にし、「——そしてこちらが母の『エリザベーテ・フォーエンツオラン』だ」と〝母君〟の方も紹介してくれた。


 この家は全員名前の最初に『エ』がつくのだろうか。そんなことを思いながら、

「ロクロ・ロクヘータです。お世話になっています」と、一応型どおりのつもりな応対をする。

 しかし〝母君〟の方は無言で会釈してくれただけ。フレンドリーに話し掛けてきてくれる〝父君〟とは実に応対に差がある。僕が『女奴隷を二十四人も買った男』だから、まあ〝女性受け〟は極めて悪いだろう、という自覚はある。


「ロクヘータはね、わたしを紹介するとき『フォーエンツオラン』って、間違えないで言えたのよ」と〝父君〟に向かってエリタスサマ。

「ほう、それは凄い」と〝父君〟。

「……」

 たったそれだけができたくらいで〝凄い〟になるのだな、僕は。と思うが、改めて思い出すに、よく『フォーエンツ()ラン』とか微妙に間違えなかったものだ。

 エリタスサマがそうした話しをしても〝母君〟の方は僕と同じくただ無言。馬車の中はなんともいえない微妙な空気。

 そんな空気の退治屋はこの場では〝父君〟だった。上衣のポケットに手を突っ込みながら喋り出す。

「本来〝ご主人様〟の許可も無く、こんな事をするのは越権行為なのだが、これを私の気持ちとして受け取っておいて欲しい」と〝父君〟はポケットからナニカ光る物を取り出し、次いで僕の手を取りそれを握らせた。ズシリと少しだけ重く、ひやりとした感覚。

 手元に目を落とすと僕の手の中に『懐中時計』? しかも〝きん〟。無意識のうちにエリタスサマの手草を真似て蓋を開くとやはりそれは時計だった。カチカチカチカチ細かな機械音がして秒針が動き続けている。これは『懐中時計』だ。時計に付けられた同じく金色の極細のチェーンが馬車の揺れにつられ、これまた揺れる。

「ありがとうございます」反射的なことばが口から出ただけ。

 手の平の中にきんの懐中時計がある。欲しいと思ってしまった物をもう所有できてしまったというのに、〝満たされた物欲〟を実感できていない。

 だいたい、なんでこんな高価そうな物をタダでくれるんだ?


「え、エリタスサマが『銀』なのに、『きんの時計』など受け取っていいんでしょうか?」口から出たのはこんなことば。

「あぁ、そんなことなら気にしなくていいわ。なんか色が『きん』って下卑た感じがしない? 銀色の方が品が良さそうだからわたしは『銀の時計』にしてるだけ」そうエリタスサマは口にした。

「とは言え値段としては『きん』の方が少し張るから、ロクヘータ君の言うことももっともだ。だが私にとっては時計自体はたいしたことはない。ちょっとロクヘータ君、その時計の蓋を閉めてみてはくれないか」と〝父君〟の注文を受けた。

「はい」と返事をし、その通りにぱちりと時計の蓋を閉める。改めて蓋を見てみれば蓋には複雑な文様が。石積みの塔にジャックと豆の木のような巨大な蔓植物が巻き付いているような図柄。それがプレス加工したかのように凹凸状になっている。

「我が家の紋章だ」〝父君〟は言った。

「あなた、」と潜めたような声。〝母君〟の方の声を初めて聞いた。

「いいじゃないか、彼はもう我が一族同然だ。『等族学校』へと提出した書類でもそのようにしたんじゃないか」


 あっという間に流れていった()()()()()()()()()()の中に〝重要な情報〟がいくつも、確かにあった。これをいったいどういう切り口でどう訊いて確かめていったらいいのか。

 ともかくもようやく整理が少しだけついてきた。


 取り敢えず一番引っかかったのが『ご主人様〟の許可無く』、『越権行為』という〝父君〟のことば。

 ——つまりこの僕はこの家の当主に、つまりつまりフォーエンツオラン家に雇われていない————


 僕を雇ったのは〝エリタスサマ〟だ。


 これ……、元女奴隷の皆さんが知ったら、どう思うだろうな……

 〝貴族の家に仕える〟でも、『仕えている貴族より偉くなれない』と、言われ、『王家の直臣』になることを期待され望まれているというのに——


 しかし手の平の中のきんの懐中時計がえらく重く感じる。もう〝時計〟はこれ一つにしよう。ずっと腕に巻いていた『ソーラー電波時計』のベルトをさりげなくゆっくりと静かに外していく。ここで馬車の車輪が路の石ころでも拾ったかガクンと僅かに揺れた。危うく馬車の床に腕時計を落っことしそうになった。

 続きは『カクヨム』で連載中です。

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