第66話【四頭立ての馬車】
いや、あり得んだろ。だって雇われる前ならいざ知らず、既にこうやって雇われているんだから。
〝身分照会〟の時点なら『実際会ってどういう人間か見てやろう』はあり得る。でも『ご紹介しますっ。こちらが新たに雇った使用人です』だなんて、そんな紹介はあり得ない。お父さんとお母さんに紹介だなんて、なに勘違いしてるんだこの僕は。——そう思い直したが故に、
「なら待たせるのは悪いじゃないか、早く行った方がいいですよ」と、エリタスサマにそう言った。
「の割には呑気そうに言うわね」とエリタスサマ。
「そりゃそうです。僕を待ってるはず無いでしょう」
「そういう『はず』になっているんだけど、」
へ?
「お父様とお母様はわたしと、あなたも待ってるの」
「なんで?」分からない、意味がまったく解らない。
「待ってるものは待ってるの! だから早くしなさいロクヘータ」
ここでルゥンさんがすっとエリタスサマの脇に。
「この建物のすぐ前に馬車を用意してあります。『学校へ行く道すがら馬車の中でお話しを』と、ご当主様がご予定を変更された、との事です」
やはりこういうトコでは馬車が乗り物か。
「なにそれ? いつもの馬車に四人も乗ったら遅くなる」
「そこはご当主様の物を出すそうです。さ、お急ぎを、」とルゥンさん。
僕とエリタスサマは急かされるように美術品収納庫の外へと送り出されると、すぐ目の前に『四頭立ての馬車』が駐まっていた。前列に馬二頭、後列にも馬二頭。
スゲェ。馬車なのに思わずそう思ってしまった。
馬車って普通馬二頭だと思っていた。だけどそれが四頭も。しかも人が乗る馬車本体も微妙に流線型がかっていて、色はマロン色とでもいうのか、つやつやとしている。前・後列二頭の馬四頭分に加えて人が乗る馬車本体の長さもかなり長めで、前列の馬の鼻先から馬車本体の最後尾まで全長も相当な物。雰囲気が大型の高級スポーツカーのよう。馬車なのに。
「どうぞこちらへ、」と白髪の御者が、紋章のような装飾の施された馬車のドアを開けた。ドアの下には二段ばかりの階段状の箱。こんなものにもわざわざ絨毯が貼ってある。開けたドアの向こう、既に中に二人乗っているのが分かった。
いよいよ、本当に僕を雇った〝真の雇い主〟との対面か。こんなにスゴイ専用馬車使ってるくらいだから、やっぱりこの世界じゃ相当偉いんだろうな——
そう思い始めると急に緊張感が半端なくなってくる。しかし、方やエリタスサマは軽やかに、ドアの下に置かれた階段状の箱の上をステップを踏むように上っていく。
同じ『異世界召還』でも、比べてどうなんだろう。無双でも何でもないただの人状態だが超金持ちの元へと召還されるのと、無双として召還されたんだけど生活を自力でどうにかしなければならないのと、どっちが恵まれているんだろうなぁ、と思ってしまう。
ま、エリタスサマは元の世界でもソコソコ金持ちの家の出のようであるが。
「なにぐずぐずしてるの、ロクヘータ、萎縮してないで早く来なさい!」と馬車のドアのところからエリタスサマの〝お声〟。
〝萎縮〟なんてみっともねえな、と思うが、それは間違いなく当たっているだろう。
「すぐ行きます」と無難な返事で済ませる。
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