第61話【意外と醒めてるね、】
僕とラムネさんにルディアさん、三人そろって住み処としている美術品収納庫へと戻ってきた。建物の中に足を踏み入れた直感的印象は誰も〝仕事のようなもの〟はしていなかったこと。それぞれが気の合うグループを作りお喋りをしているようにしか見えない。
元女奴隷の皆さんの中から一人、「遅かったじゃないですか」との声がかかる。〝その声〟を合図としたかのように元女奴隷の皆さんのお喋りがピタリ止まる。みんなの注目が一斉に集まる。
『遅かったじゃないですか』は僕ら三人のうち誰に向かってかけた〝ことば〟かは分からない。しかし直感でここはラムネさんでもルディアさんでもなく僕が何かを言った方がいいような気がした。
「うん、ちょっと〝特訓〟に時間がかかっちゃったけどね、一日で極めた」
〝極めた〟は少し盛りすぎだが事実は事実。しかし〝あまり無双しないように極めた〟と言うのもどこかショボい。『どんな冒険者も倒せそうもない魔物を倒す技を極めたぜ!』ならいいんだけど、ね。
だけど(盛っちゃったなぁ)という〝自己批判〟、それは取り越し苦労のようだった。元女奴隷の皆さん、誰も〝何をどう極めたのか〟について訊いてくる者がいない。この間にルディアさんがバケツ状の桶を手に部屋から出て行った。その〝桶の揺れ具合〟からして中身は空のよう。そしてその後をやはり空と思われる桶を手にラムネさんが小走りで続いていく。しかし他の元女奴隷の皆さんに〝手伝おう〟という意志はうかがえない。
女子グループなぁ……
と思うが、僕も〝桶がいくつあるか〟、その全数を把握していない。ここは迂闊なことは口には出さない方がいい。
元女奴隷の皆さんにとっては僕の特訓などに何らの興味も無さそうだったが、
「それで、ラムネやルディアと何のお話しを?」と代わりにこんなことを訊かれた。
そう来るのか。と思ったがやはり直感が働いた。
本当のことなど言わない方がいい、と。
「そうだ。みんなにもふたりと同じ事を伝えておくよ。僕は明日からエリタスサマの護衛役として〝貴族学校〟とかいう学校に同伴することになった。その事についてだ」
完全なウソである。あのふたりにはこんな事は言っていないが、少なくともラムネさんの方は、僕が貴族学校とやらにエリタスサマと一緒に行くことに落胆していた様子だったから、そこいら辺の事情は察しがついているだろう。
ルディアさんの方は……、まあみんなとは口数少なそうだしラムネさんがついてるから『大丈夫だ』ということにしておこう。
しかし『貴族学校へ行く』と言ってもどうもみんなの反応は今ひとつのように思える。「わぁ」とか「そうなんですか」と言ってくれるコもいるが、ポツリポツリと散発的。全体的にどこか薄い反応。
無双転生者とは無双して賞金をガッポガッポ稼ぎ、他者からの賞賛を浴び成り上がり出世階段をひたすら上り詰めていく者——そういうのを女奴隷からは期待されている、とルディアさんに教えてもらった。
だというのに〝貴族家のご令嬢のお供で一緒に学校へ行く〟など、期待している方向性とは明らかに違うのだろう。
ここはさらに話しを盛った方がいいのか?
「僕はギルドに睨まれている。これをどうにか解消するには力を持った者の命令が要るだろう。貴族学校でそれが可能な有力者とコネができれば、そうした目標が成るかもしれない」
ハッキリ言って口から出まかせである。つい十秒くらい前に思いついた。今度はついさっきと明らかにみんなの反応が違う。直感だが目の色が違ってる。そこでこのタイミング、とばかりに、
「ところで今日一日みんなは何をしていたの?」と訊いてみた。少しイジワルな気持ちが入ってないといったらウソになる。
「お掃除です」と口々に返事が戻ってくる。が、微妙に視線を逸らすコも何名か。そういうコの口は動いていない。
既に部屋中埃だらけという状態を脱しているので、掃除をしていなくても『掃除をした』と言おうと、『不自然さ』など感じようも無い。
ルディアさんの話しではお喋りばかりしていたらしいが、三十分でも掃除をやったのならウソは無い。いずれにせよ確認のしようがない。
「それでみんなに伝えておきたいことがあるんだけど、明日からのみんなの予定なんだ。少し忙しくなると思うからそのつもりでいて欲しい」と切り出す。
当然、
「わたしたちは何をするんですか?」という質問がまたも口々に戻ってくる。
「みんなには〝食事で使うテーブルと椅子〟を自分たちで造ってもらうことになった」
元女奴隷の皆さんとしては、〝そういう仕事〟をするなど想定の埒外だったらしい。思いっきり黄色い声なざわめきが始まってしまう。
ざっとみんなの顔を眺めていてふたつの反応が読み取れたように感じた。『面白そう』と、『なんでわたしたちが』といった反応だ。
ラムネさんとルディアさんだけこの場にいないが、このふたりは〝面白い〟かどうかは別にして『なんでわたしたちが』とはならないだろう。
こんな調子でも絶対的味方がふたりいる、というのは、やはり心の余裕が違う。
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