第60話【無双転生者、女奴隷と〝約束の交換〟をしてしまう】
「ありがとう」
「さっき言われたばかりですけど、」ルディアさんに言われてしまった。なにをボーッとやってんだ僕は。異世界だろうがこっちに来た以上これが現実だ。女の子だって人間だ。打算や計算や損得勘定だってあるだろう。しょせんどの世界だろうと人の世とはそういうものなのだよ!
「じゃあ行きますね、これ早く持って帰らないと」とルディアさんはバケツ状の桶の取っ手を両手で持ち上げた。中の満々とした水の水面が揺れる。
ん?
「ちょっと、」
「なんでしょう?」
「その水は何に使うの?」
「飲み水です」
僕を入れて二十五人。この量では明らかに不十分。
「他のコたちは?」
「別のことをしています」
「その桶、ひとつしか無いの?」
「いいえ」
直感がビビッと奔った。
「さては誰かに命令されてるでしょ? どう考えても」
ぐグっ、とルディアさんの表情が固くなったように見えた。その表情を隠そうとするかのように僅かに顔を下へ。
うわぁ、女子グループ……、どうもこの直感、当たってしまってるっぽい。
「——持ってあげるよ、」と反射的に手を差し出しかけると、「そういう優しさはいりませんっ」ルディアさんから戻ってきたことばは〝これ〟。
「ご主人さまに桶を持ってもらったなんて他の人に知られたら立場がもっと悪くなる!」
「いや、でも……」
「これは〝処世術〟なんです。ただでさえわたし〝このアザでオマケ〟なんですから」
「ラムネさん、女の子たちの仲ってどうなってるのっ?」と、とっさにラムネさんへと振る。ラムネさんは困ったような顔をして、
「少しぎすぎすしていて——」
というなんとも絶妙のお返事のさなか、
「ご主人さま——」と、ラムネさんとの会話を遮るかのようにルディアさんが口を開いた。
「わたしは今この水の入った桶を持ってもらうような、〝そのような優しさ〟は要りません。——だけどそうお声をかけていただき、たったいま決心しました」
「はぁ……」
ここでルディアさんはバケツ状の桶を地面の上に置き、地に片膝をついた。
「本来なら『女奴隷』ごときがご主人さまにすべきことではありません、しかしわたしはお優しいご主人さまだと確信を得たからこそ、」
こそ?
「甘えさせていただきます!」
下からの見上げるような視線がこっちに突き刺さるかのよう。どういう意味?
「ご主人さまが〝あのお嬢様〟のご機嫌を損ね、どこまでも落ちぶれようと、わたしは絶対的忠誠を誓い続けます」
「……」
ただいま〝反応の遅れ〟が現在進行形。
『どこまでも落ちぶれようと』。……なんて、言い草なんだ。
「いや、それ別に甘えてないよね、むしろ僕にとってありがたいというのか、」
っていうのかなんで僕は〝卑屈〟になってる⁉ これでもここじゃあ無双だぞ。
「——この約束、この顔のアザにかけて誓います!」
なんか話し、かみ合ってないし!
「…………いや、そもそも『忠誠』ってのもどうなんだろ、僕は王様じゃないし——、」
(少し重いんじゃない?)ということばを出しそうになりつつもそこは抑えた。
「ご主人さまが不審がられるのも無理はありません。顔と身体を自身の栄達の手段にしている『女奴隷』が口にするにはあまりに不自然なことです」
「……うん」
「ただご安心下さい、無条件にそこまでの忠誠は誓えません」
「ってことは条件があると?」むしろこれが自然だよなぁ。
「はい。約束の交換です」
「やくそくの、こうかん?」
「わたしとお約束いただけるなら、というお話しです」
もったいぶるように、その中身を口にするのにえらく引き延ばす……、一抹の不安が頭の中をよぎる。これ、とんでもない条件の約束なんじゃ……
「もちろんお断りいただいてもかまいません」ときっぱりルディアさん。
読まれたか?
「じゃあまあ言ってみて」と返答するしかない。
「このアザはかなり厚化粧しないとごまかせませんが、胸をはだければおっぱいはちゃんと盛り上がってます。弾力もあります。股を開けと言われたら開きます。股の奥もちゃんと割れてます。ご主人さまを興奮させる自信はあります。だから他のコたちと等しく、わたしの身体にも〝子の種〟を入れていただきます!」
「……」
どう反応すれば?……、といっても既に下半身が反応してしまっている——
〝すごく恥ずかしいことを言った〟という自覚がルディアさんにもあるのか、顔が紅い。なるほど、これを言おうとしてたなら引き延ばすよな、女の子なんだし。
しかしそれって、男の立場では〝もの凄いご褒美〟でしかないんだけど……
「お返事を……お返事をくださいっ」
声色というか、明らかに呼吸に乱れ。動揺しながら喋っている感を嫌でも感じる。
さて僕はどうする?
これは決して〝欲望〟だけではない。女の子の勇気を踏みにじり、プライドをズタズタにしてしまう問題でもある!
「……うん、いいけど」
と言ったけど、体の良いごまかしだよなっ。
「ではお約束されたということで」
「そう」
「では約束ですからね、絶対に約束です」
すごく念を押すな。返事の仕方が少しいい加減そうだったせいか?
「約束した」
「えっ、ロクヘータさん、わたしとは?」と、なんとも間の抜けたタイミングでラムネさん。
ルディアさんはラムネさんをキッと睨みつけ、
「あなたは〝ご主人さまがどこまで落ちぶれても〟というところまでは覚悟してないでしょう?」
既に膝を地から離し、立ち上がっている。
「わたしとロクヘータさんは、約束無しでも約束の人ですっ」
「はい?」とルディアさん。
「いやもうね、あまり立ち話しが長くなると他のコたちが怪しむからここら辺りで、」
「解りましたご主人さま」「はい、ロクヘータさんっ」
「なんであなたは『ご主人さま』と言わないの⁉ わたしたちは同じ『女奴隷』の身分なんでしょ」
「じゃああなたも『ロクヘータさん』と呼べばいいだけです」
う〜ん、この仲違い感、他のコたちの様子も透けて見えるようだ。
「ご主人さま、」とルディアさんから僕に声がかかる。もうラムネさんを相手にするつもりは無いらしい。
「——わたしの取り柄は正直さです。信頼はそれでしか得られないと思っています。わたしはご主人さまが〝どこまでも落ちぶれようと〟と言いましたが、落ちぶれると信じていないからこその、この約束です」
「はい」
「ご主人さまがわたしのことを『他のコと同じ値段で』と言ってくれたこと、今ならひねくれず素直になれます」
「はい」
「あのお言葉は一生忘れません」ルディアさんはそう言った。そして水を満々とたたえた木の桶の取っ手をつかみ持ち上げ、一歩を踏み出し歩き始めている。
終始押されっぱなしとは、こういう状態のことをいうのだろう。きっと。
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